【第三章 復讐の前に】第十一話 クズ

 

準備が滞りなく終わって、ユウキは新しい家で過ごす時間を徐々に増やしていた。

母親が亡くなって、父親と名乗る人物に引き取られて、そのあとで捨てられた。しかし、捨てられた施設でも、その後に過ごすことになる異世界でも、ユウキは独りになることは少なかった。
特に、異世界フィファーナでは誰かが常に側に居た。ユウキも、誰かが側に居るのが当たり前だと思っていた。

ユウキは、独りでの生活に慣れようとしている。
学校が始まれば、一人で行動をしなければならない。

バイト先は、馬込から紹介された。
バイクを使う理由にもしているので、距離が離れている場所である必要があった。都合がよく、学校側も認めやすい場所だ。
ユウキが入学する学校とは、”縁も所縁も無い”大学が運営する水族館に付随する施設でのバイトだ。沼津にある有名な深海魚専門の水族館と違って、珍しい展示があるわけではないが、堅実で誰でも楽しめる工夫が織り込まれた水族館だ。
その水族館に付随する小さな港での清掃員がユウキに与えられたバイトだ。他にも、地域に貢献する形でのバイトを掛け持ちする。

入学式を来週に控えて、ユウキは拠点に戻った。

「入学式には、誰か一緒に行くのか?」

ユウキが戻ってきて来ると知った今川が拠点を訪ねてきた。口頭での報告と、相談があったからだ。

「いえ、一人ですよ?その方が目立つでしょ?」

「おいおい。・・・。・・・。そうだな。ユウキ。例の奴は、落ちだぞ」

「早いですね。流石、悪辣なゴシップ記事を専門に扱う今川さんだけありますね」

「ユウキ。俺は、ゴシップは取り扱っていない。俺の考える正義を遂行するために」「はい。はい。わかっています。それよりも、どうしたらいいですか?」

ユウキが、今川の話をぶった切って。話を元に戻す。

「奴は、借りてはダメな所から、金を借りている。その穴埋めに使おうとしていたようだ」

「・・・。それは、無謀な事を・・・」

「利子だけでも払えば大丈夫だと思っていたようだ」

「はぁ?頭の中に、綿でも詰まっていましたか?それとも生ごみ?」

「割ってないから解らないが、似たような物だろう。腐った味噌でも詰まっていたのだろう」

「ははは。それで?借金の額は?」

「ユウキだと話が早くて助かる。約300だ」

「約?」

「トイチだ」

「はぁ?それでよく学校の教諭なんてやっていられるな?」

「そういうなよ。あの学校は、理事から腐っているからな。少しだけ調べたら”いろいろ”出てきたぞ」

「理事の問題か?」

「いや、教諭の問題だ。学校の名前や、理事の名前で、マスコミが黙っているだけだ」

「問題?」

「それは、資料をまとめた」

今川は、ユウキの机に視線で示す。
机には、大量の資料が置かれている。学校に関する資料ではない。異世界フィファーナからの連絡だけではなく、各国との取引の内容も報告として上がってきている。手駒にした小国家からの”お願い”がまとめられている。
その中に、今川からの報告も紛れている。

今川も解っているので、大事な報告は必ず口頭で行うようにしている。

「後で探します。それで、今川さん、どうしたらいいですか?面倒なので、教えてください」

「少しは、会話を楽しもうぜ」

「腹の探り合いは別の人としてください。それで?」

「そうだな。ユウキ。資金は大丈夫だよな?」

「えぇ300位ならすぐに用意します」

「いや、3,000ほど用意してくれ」

「わかりました。ヒナに言ってください。領収書が、必要ない方がいいですよね?ドルですが大丈夫ですよね?」

「おっ助かる。30万で頼む」

「わかりました」

ユウキは、机からレナート王国の印影が入った紙を取り出した。紙は、魔法紙と呼ばれる物で、特定の手段を取らないと記入ができない。
33万ドルと書いてから、スキルを使ってサインを書いた。
魔法紙に、スキルで固着してから、今川の前に滑らせた。

「3万は、予備です。余ったら、今川さんの手間賃にしてください」

今川は紙を受け取ってから内容を確認して、ニヤリを笑ってからポケットに用紙をしまう。

ユウキが今川に渡したのは、ユウキが持っている資産の一部だ。
地球での生活には、拠点を築いた日本で使える通貨が必要になっている。ポーションの売り上げだけではなく、ユウキの仲間たちが復讐を遂げた時に、確保した情報を換金した物も含まれている。
情報は、多岐に渡っていて、裏から闇に流れる類の情報が多い。
そのために、各国からは換金が比較的に用意な通貨として、ドル建てで支払わせている。
その中から仲間たちに分配を行っている。
ユウキの資産は、既に1億を越えている。もちろん、ドルだ。使う予定がない資金で、日本では使うのが難しい資金になっている。

「1年の学年主任は、ギャンブルが好きで、年収を越える借金がある」

「本当にクズですね」

「そうだな。あと、表に出たら懲戒免職で済めばマシだというような輩が揃っている。お前の担任になる奴は、買春の常習者だ」

今川は、バッグからメモを取り出した。ユウキの机の上にある報告書とは別に”クズの所業”がまとめられている資料だ。

そこに書かれているのは、ユウキが通う学校の教諭が犯した罪が書かれていた。実際には、裏付けが終わっていない物が多く、まだ一部だと言っているのだが、途中から聞いているのも阿保らしく思えて来る数の発表が行われた。
全員が罪を犯しているのではないが、全員が”クズ”だと思っていいと思えてしまうほどだ。

「ははは。見事ですね」

「理事たちが、不祥事をもみ消して、教諭たちを脅して、教師たちは保護者を脅している状況だ」

「遠慮がいらないというわけですね」

「そうだ。学校ごと解体されても驚かない」

「生徒は?」

「同じ穴の狢だな」

「ははは。噂通りということですか?」

「俺も、お前に言われて調べてみたら、出るは・・・。出るは・・・。今まで、報道されていないのが不思議なくらいだ」

「歴史が浅いからですか?」

「それもあるが、議員とのパイプや就職に強いという保護者たちの思い込み。あとは、理事たちの顔ぶれだろうな」

「わかりました。それで、こちらに靡きそうなクズは?」

ユウキの問いかけに、ニヤリと笑って、今川は持っていたタブレットをユウキに見せる。

そこには、5人の写真と簡単な紹介が書かれていた。
タブレットを受け取って、それぞれの人間を確認する。

履歴だと書かれた犯罪歴を見て眉をひそめる。捕まっていないのが不思議なくらいだ。

「今川さん。最後の一人は、違いますよね?」

最後に紹介が書かれている人だけは、犯罪歴が存在していない。
まっとうな履歴だけが書かれている。

「あぁ・・・。まだ、確定ではないが、彼は”復讐者”だ」

今川が、手を差し出したので、ユウキは持っていたタブレットを返す。
今川が別に資料を表示して、ユウキに渡した。

まずは、数枚の新聞の切り抜きが表示される。古い記事だ。
そのあとに、記事の裏付けを行った取材内容が書かれている。

「対象は?」

ユウキは、記事を読んでから、今川にタブレットを返した。

「学年主任だ」

「どこまで掴んでいると思いますか?」

「確証は得られていないと思う。彼の性格なら、確証が得られたら、すぐに動き出すだろう。しかし、彼だけでは確証までは届かない。と、見ている」

「何が必要ですか?」

「最初に必要になるのは、金銭のサポートだ。彼は、主任たちに貢ぐために給料の殆どを使っている」

「今川さんに任せます」

「いや、ユウキが接触して欲しい」

「え?」

「彼を味方に引き込んだ方がいい」

ユウキは、飲んでいたカップをテーブルに置いて指でカップの縁を指で弾き始める。

部屋に、10回の弾く音が鳴り響いた。

「わかりました。でも、”彼”は金銭を受け取りますか?」

「難しいとは思うが、ユウキが行おうとしている事と、彼が調べた内容を買い取る事で対価として支払いができると踏んでいる」

また部屋には、陶器を指で弾く音が響き始める。
今度は、3回目で、音がならなくなった。

「わかりました。接触の理由は、今川さんが作ってくれるのですよね?」

「あぁそのつもりだ」

今川がタブレットを仕舞いながら立ち上がった。
ユウキは差し出された手を握って、今後の予定を調整する。

入学式まで数日だが、ユウキにはまだやるべきことが出来てしまった。

F1&雑談
小説
開発
静岡

小説やプログラムの宣伝
積読本や購入予定の書籍の情報を投稿しています
小説/開発/F1&雑談アカウントは、フォロバを返す可能性が高いアカウントです