【第二章 スライム街へ】第二十三話 説明

 

 プロジェクターで表示されたデータを食い入るようにギルドのメンバーが見ている。

「それで円香?見えない壁がどうした?」

「孔明。説明の前に・・・。茜」

「はい?」

「把握出来ている魔物の位置を追加して欲しい。あと、獣は除いてくれ」

「難しいことを・・・。少しだけ待ってください」

 里見茜が端末で、データの整理を行う。

「円香?」

「予想が当たれば、これからの対応が少しだけ楽になるかもしれないぞ?」

 上村蒼は、榑谷円香の言葉を聞いて、浮かせた腰をまた椅子に降ろした。
 柚木千明が、里見茜がデータの精査をしているのを見て、時間が必要だと判断して、キャンピングカーから出て、飲み物を準備する。

”にゃ!”

「私の護衛?」

”にゃ!にゃ!”

 3匹の猫がいつの間にかゲージから出てしまっていた。
 柚木千明がキャンピングカーから降りると、二匹の猫が付いてきた。柚木千明の左右を守るように歩いて居る。キャンピングカーには1匹の猫が残っている。

「ふふふ。ありがとう」

 柚木千明は、しゃがんで二匹の頭を撫でる。
 そのあとで、外に置いてあったクーラーボックスから皆が好んで飲んでいる飲み物を取り出す。

「君たちも何か飲む?お水?」

”にゃ!”

「本当に、会話ができるみたいだね。お水なら一回。ミルクはないから・・・。飲み物がいらないのなら、二回鳴いて」

”にゃ!”
”にゃ!”

「え?本当?お水?」

”にゃぁ”

「うーん。検証は、名前を考えてからだね。まずは、水を飲むための器は・・・。紙皿でいいかな?」

”にゃにゃ”

「大丈夫みたいだね。本当に、君たちは・・・」

 猫たちを眺めながら、不思議な者を見ている気分になったが、柚木千明は飲み物を持ってキャンピングカーに戻った。
 里見茜がパソコンをいじっていたので、まだデータは表示されていない。

 一緒に外に出た猫もキャンピングカーに戻って、ゲージの中に入って出された水を飲み始める。

「うーん」

「千明?どうした?」

「あっ円香さん。なんでもないです」

「そうか?何か気が付いたら、教えてくれ、些細なことでも何かのヒントになると思う」

「わかりました」

「できた!円香さん。表示します。あっデータが不足している部分がありますけど、いいですよね!ダメって言っても、無駄です!」

 なぜかテンションが上がった里見茜が榑谷円香に許可を求める。実際には許可ではなく報告だが、許可の形になっている。

 透明な壁の中にすべての魔物が閉じ込められている様子が明確に表示されている。

「円香?」

 桐元孔明の問いかけを手で制して、ポインターを取り出した。

「茜。こいつと、こいつと、こいつは、動いていただろう?行動履歴が表示できるか?あと、透明な壁までの距離を大凡で構わない表示してくれ」

「はい。はい」

「”はい”は一度でいい」

「はぁーい」

 情報は準備ができていたので、すぐに表示された。

「移動は薄くしました。プロジェクターでは見え難いので、他を消しますか?他にも、動いているデータがあるので表示します」

「そうしてくれ」

「はい」

 データの表示がなくなって、動いている魔物だけの表示になる。

「円香・・・。これは?」

「偶然だと言いきれれば、いいのだろうが・・・。孔明。どうおもう?」

「これが偶然だとしたら・・・。魔物との戦いを、神頼みにしている連中を笑えない」

 桐元孔明は、表示されている距離に注目している。

「円香?孔明?」

「蒼。透明な壁までの距離が、ほぼ一定になっているだろう?」

「それだけではない。魔物同士。動いている魔物同士の距離がほぼ一定だ」

 榑谷円香がポインターを使って解説を始める。

「円香。説明は理解した。そうすると、魔物によって行動範囲が存在すると言いたいのだな」

「そうだ」

「検証が必要だな」

 上村蒼が、検証が必要だと言ったのは、これが事実なら魔物の行動範囲外からの攻撃が可能になる。それだけではなく、行動範囲のギリギリに罠を設置することも可能になる。

「蒼!まて、検証は必要だけど、攻撃を受けたらどうなるのか解らんぞ」

「は?」

「円香。それで、何が見えた?」

 榑谷円香は、柚木千明から渡されたペットボトルの蓋を開けて、飲んでから、大きく息を吸い込んでから、吐き出した。

「孔明。蒼。まずは、透明な壁の中は見えないよな?」

「あぁ」「そうだな。円香は見えたのか?」

「見えた・・・。とは、違うが、見えた」

「それで?」

「まず、魔物の脅威は無くなった。いや、無くなったとは違うのかもしれないが、天使湖のキャンプ場に居た魔物は駆逐された」

「は?」「何!?」

 立ち上がろうとする二人を榑谷円香は手で制してから、二人にペットボトルを投げる。受け取った二人は、一気に半分ほど飲んでから、座りなおす。

「円香!」

「透明な壁・・・。結界と表現する。結界の内部が暗くなった。そのあとで、煙のような物が充填された」

 皆が首を縦に降って肯定する。

「ただ暗くなっただけなら、目が慣れてくれば見えるはずだ。誰も見えなかったのか?」

 これも、皆が肯定する。

「結界は、外からの侵入を防ぐ」

「あぁ」

「スキルを使わない侵入も含まれている。いや、物理法則の侵入と言った方が正確か・・・」

「円香!スキルを利用すれば・・・」

「試した。スキルが使える者に、結界を攻撃してもらった。結界は、すぐに修復された。攻性のスキルは防御されているようだ」

「本当か?」

「あぁ」

「ちょっと待て、円香。結界だと仮定して、そんな物が・・・」

「スキルとしては見つかっていない。存在はしていない。ファントムと思われる者が調べているが、取得しているとは・・・。結界は、今は置いてく・・・。いいな」

 榑谷円香のセリフで、全員が頷く。
 結界の検証などできない。

「円香。結界は破壊できないのか?」

「今は、結界を破壊できるとしても、結界の破壊は行わない方がいい」

「なぜだ?」

「蒼。結界が魔物を押さえつけているのだぞ?」

「しかし、キャンプ場にはもう魔物が居ないのだろう?」

「そうだな。キャンプ場には居ないと思う。だが、結界はキャンプ場だけではないぞ?山小屋まで覆われている。結界が繋がっている状態か判断ができない状況で破壊するのはリスクが高すぎる」

「そうだな。すまん。話を戻してくれ」

 上村蒼は、理解はしたが、納得はできない。魔物を討伐してきた自分たちが何もしないで、魔物が駆逐されていく状況が許せない。自分に何ができるのか解らないが、解らないからこそ、自分で確認をしたいと思っている。

「蒼の気持ちも解るが、今は堪えてくれ」

「・・・。あぁ解っている」

「円香。他には何が見えた?」

「戦った者たちだ」

「!戦った!複数なのか?突然!魔物同士で戦ったのか?」

「蒼。落ち着け、正直に言えば、解らない。姿までは見えたが、結界があるからなのか、詳細までは見ることができなかった」

「すまん。姿だけでも手がかりになりそうだな」

「そうだな。これから、話すのは、”見た”ままを説明する。真偽は、論じるつもりはない」

 皆も解っているのだろう。榑谷円香の言葉に頷いている。

 それから、しばらくは皆が黙って、榑谷円香の説明を聞いた。

「円香。悪い。確認させてくれ」

「蒼?」

「結界が暗くなって、いきなり、猛禽類・・・。鷲と梟がゴブリンの変異種に突撃した?」

「そうだ」

「蝙蝠や雀や椋鳥が、結界の中に集まって、ゴブリンの上位種を襲い始めた?」

「そうだ」

「いつの間にか、中学生くらいの女と男が、刀を持って、変異種を倒していた?」

「そうだ」

「上位種と変異種を倒した者たちは、オークの上位種や変異種に向かった?」

「そうだ」

「二組の梟が現れて、スキルを使った?他の動物たちも、中学生たちも、スキルを使っている?」

「確実だとは言えないが、炎や氷が見えた。推測だがスキルだと考えるのが良いだろう」

「それだけでも異常なのに、倒した魔物は、蜥蜴や蜘蛛たちが、まとめた?」

「そうだ。それが、”見えた”状況だ」

 榑谷円香は、ペットボトルに残っていた者を喉に流し込んだ。空になったペットボトルを握りつぶした。

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