【第十一章 ネットワーク会議】第四話 学校でもリモート会議の話

 

 昨晩、未来さんには提案書とモックを送った。
 朝の段階では、返事はなかった。美和さんにも同じ物を送付したが、返事はなかった。

 先輩たちは、朝ご飯を平らげてから、学校に行くようだ。
 俺は、昨日と同じように、4人分の朝食を作った。昨晩は、ユウキは離れから寝室に戻ってきた。梓さんが寝室に戻ったほうがいいと言ったようだ。俺とユウキに気を使ったと言うよりも、二人だけになりたかったのだろう。起きてきて、ユウキにシャワーだけでも借りられないかと話していた。

 学校には、先輩たちが送ってくれると言ったが、断った。帰りが困る。
 家を出るまで、未来さんからも、美和さんからも返事がなかったので、自転車で行く。寄り道しないで帰ってこよう。

 学校に着くと、戸松先生が昼休みに職員室に来るように伝言を残していた。
 ユウキに、今日の昼は職員室に行くと告げてから、1限目の実習室に移動した。

「先生」

 昼に、職員室に行くと、戸松先生が待っていた。

「おぉ篠崎。悪いな。昼は?」

「食べていません。面倒な用事を済ませてから食べようと思っていました」

「お前な・・・。本当に、そう思っていても口に出すなよ」

「すみません。根が素直なので、正直に言ってしまいました」

「はぁ・・・。そうか、昼がまだなら付き合え」

「はぁ?」

「昼をおごってやる」

「解りました。先生が、俺にル・セールのステーキランチをおごりたいのですね。あっユウキを呼びますね」

「まてまて、篠崎。安月給の教師に何を奢らせようとしている!それに、森下が来たら二人前くらいは平気で食べるだろう!」

「え?大丈夫ですよ。おまかせコースの一番高い奴にします。大丈夫ですよ。一人一万円で少しだけお釣りが来ます。あっ消費税とサービス料が入ると、一万じゃ足りませんが大丈夫です。先生ならカード決算も出来ます」

「おま・・・。北街道のカレー屋だ」

「ナン食べ放題の店?」

「そうだ。あの店なら、森下を連れて行っても大丈夫だ」

「うーん。あの店なら、俺でも連れていけるからな。今日は、辞めておきます」

 戸松先生が明らかにホッとした。
 そう言えば、あの店では、デザートは別料金だったな。失敗したな。

 先生と一緒なら、門から出るのもそれほど難しくない。
 昼に外に買いに出る生徒は居るが、理由がなければ許可されない。しかし、先生が一緒なら簡単に出られる。

 テーブルに座って注文をする。

「それで、先生。俺に、何をさせたいのですか?」

「あぁ・・・。篠崎。お前、リモート会議には詳しいか?」

「ZOOMとかですか?」

「そうだ。でも、ZOOMは、上からの指示で使うなと言われた」

「え?」

「セキュリティが不安だと・・・。はぁ・・・」

 確かに、サービスを始めたばかりのZOOMは、セキュリティのリスクが存在していた。しかし、そのリスクが存在していたという事実だけで、それ以降の調査をしていないのだろう。結局は、どんなサービスでもリスクは存在する。情報がもれた時の対応を考えればいいのに、それをやらないで情報リテラシーとか言い出す。
 便利な物は使う。使えなければどうする。自分たちで作るしかない。作れないのなら、リスクを飲み込んで使うか、諦めるしかない。
 そんな単純な理屈さえも許されない状況なのだろう。”上”と言ったが厳密には、上司ではないのだろう。

「それなら、Microsoft Teamでいいと思いますけど?面倒ですか?」

「マイクロソフト製品はダメだ・・・。奴らは、俺にどうしろと言うのだろうな」

「あぁ・・・。面倒な人たちからの指示なのですね」

「そうだな。面倒を通り越して、自分たちが無知だと喧伝しているのに気がついていない愚か者たちだ」

「それで、目的は?」

「しらん」

「え?」

「”リモート会議ができるようにしろ”だけだ」

「は?目的もなく?それで、ZOOMはダメで、Microsoft製はダメ?頭、大丈夫ですか?」

「そう思うよな?」

「えぇ目的が解らなければ、製品も絞り込めません」

「俺も同じ考えだが、上は違うらしい、導入したという実績がほしいのだろう」

「面倒です。Google Meet でも勧めておいて下さい」

「あ!そうだな。Googleなら文句を言われない」

「同時に何人までだ?」

「たしか、最大25人だったはずです。他にも何か条件があったと思いますが、Google で確認しないとわからないです」

「十分だ。いやぁ助かった。アイツら、”電脳倶楽部に作らせろ”とか言い出したからな。篠崎が居るならできるだろうだとさ」

「・・・。見積もりを作りますか?丁度、今、依頼で作っていますよ。サーバのライセンス料をいれると、300くらいで収まりますよ?月の運営費を貰えるのなら、安くしますよ。月の利用料が15くらいで面倒をみますよ?」

「篠崎・・・。そんな物を出せるわけが、無いだろう?」

 学校が、生徒にそこまでの金を積めるとは思っていない。
 俺が、把握しただけでも、不正ライセンスの製品を使っている科が存在していた。ライセンスを正規に購入させた。使えればいいと考えている連中が多い。特に、上の方に・・・。そして、そいつらが言うのは、決まっている。”一度作ったのなら、簡単だろう?”だ。
 部活で作らせるのなら金を払うつもりはないという事だ。そんな奴らの為に、指の一本も動かすつもりはない。

「だと思います。でも、この昼飯代くらいなら動きますよ?Google Meetなら、電脳倶楽部でも説明できるでしょ?」

「あぁ大丈夫だ。昼飯代には十分な情報だ。すごく助かる」

「それは良かったです。それにしても、本当に、何がしたいのかわからないで導入して、意味があるとは思えないのですが?」

「俺も、それは言ったけど、入れなければ駄目だの一点張りだからな。どうせ、上の上から言われたのだろう?アイツらが見ているのは、役人だけだからな」

「あぁ普通科の教員たちなのですね」

 戸松先生が頷いてくれた。
 俺の通っている高校には、厳密な意味で”普通科”は存在しない。各科別の教師たちと区別する為に、普通科と呼ばれているだけだ。詳しくは、知らないが、人事のラインが違うのだと教えられている。

「篠崎。助かった」

「いえ、資料はどうします?」

「電脳倶楽部にやってもらう。各部に配布したパソコンも落ち着いている」

「そうなのですね。それなら、電脳倶楽部にマニュアルを書かせるのですね」

「そうだな。報酬は、弁当とジュースだな」

「俺が口を挟む問題ではないので、彼らと交渉をして下さい」

「わかった」

 話しが終わったので、先生が会計をして店を出る。

 学校で必要になるリモート会議は、リモート会議という土台が必要になるだけで、実際に遠隔地との会議が必要になっているわけではない。工業が他の学校と足並みを揃えて何かを行うとは思えない。

「戸松先生。ごちそうさまでした。次の依頼は、ル・セールのディナーで受けます。そのつもりでお願いします。もちろん、ユウキと一緒に前日から飯を抜いてから行きます」

「お前な・・・。まぁいい。もうお前に頼らない・・・。ようにしないと駄目だな。でも、今回は助かった」

 校舎に入って、職員室まで一緒に行った。
 俺は、次の授業の自習室に向かう。先生は、職員室で資料をまとめると言っていた。

 戸松先生も大変なのだろうな。
 科ごとの確執もあるだろうし、普通科との確執も多いだろう。それだけじゃなくて、部活の顧問からの突き上げもありそうだ。

 放課後は、電脳倶楽部に顔を出して、簡単に説明した。
 戸松先生からも連絡が有ったようで落ち着いていた。Google Meetは、それほど難しくはないが設定を行うのに癖がある。そして、問題は、Googleという会社の性質だ。サービスを辞める可能性が高い。人気がなかったりするとすぐにサービスの継続を辞めてしまう。
 電脳倶楽部の面々には、情報収集を徹底するように伝えたが、彼らが卒業したあとの話しまでは責任が持てない。
 しっかりと、戸松先生には理解してもらう。その上で、電脳倶楽部も生徒会も、もちろん中に居る生徒たちには、責任が及ばないようにしてもらう。

 未来さんや美和さんの所の関係で、リモート会議を調べていたから良かったけど・・・。