【第三章 スライム今度こそ街へ】第十三話 使い方
ギフトの使い方は、クロトが教えてくれた。
猫語が解るようになったわけではないが、私はクロトとラキシが何を言っているのか解るようになった。
どうやら、こちらに友好的な魔物とは意思が通じるらしい。クロトの上に乗っていたスライムが、アトスの上に移動した。
アトスの上に乗っていたスライムは、茜を見てから、アトスと何か話をする。
話をしているのは解るけど、私にはアトスの話は解らない。
「千明?」
アトスの話を聞いていたのだろうか、千明が少しだけ困った表情をしている。
「茜。スライムの話を、アトスが翻訳?してくれたけど・・・」
スライムの話を通訳って表現がおかしいけど、アトスを経由してってことは、私も他の魔物と会話ができる?
聞きたくないけど、聞いたほうがよさそうだ。
円香さんや、孔明さんや、蒼さんの視線が怖い。
「どうしたの?」
「うん。このスライム君。名前は、”ライ”というのらしいけど、正確には、ここに居たスライムは、全部”ライ”というスライムだと言っていて・・・」
「ちょっと待て!千明。このスライムは、ネームドなのか?!」
「え?円香さん。見えないのですか?」
円香さんなら、何か見えていたのかと思った。
通常のスライムが、会話ができるくらいに知能があるとは思えない。でも、このアトスの上に居るスライムは、アトスと話をしている。
円香さんの圧が怖い。
「あぁ・・・。前に、遭遇したスライムと同じだ。違いは・・・。ない」
「え?」
今度は、千明がびっくりする。
「ん?」
「いえ、このスライムを・・・。あっ!」
千明が何か言いかけて、言葉を濁す。
クロトが、私の足を”テシテシ”する。そして、”にゃ!”と短く鳴いた。
そうか、スキルを使えって事だね。
使い方は、魔物を見て、スキルを思い浮かべる。発声すれば、確実に起動できるが、発声しなくても大丈夫だとクロトが教えてくれた。詠唱もあるらしいが、私たちが取得したスキルには詠唱はない。詠唱が無かったのは、純粋によかった。
”魔物鑑定”
名前:ライ(一部)
種族:キメラ・スライム
他にも取得スキルが並んでいる。
「・・・。魔王?」
「茜!どうした!」
ふらついた私を、円香さんが支えてくれた。
ラキシを意識して見てから、スキルを発動する。
名前:ラキシ
種族:シティー・キャット
スキル:隠密 風爪
ん?
名前:クロト
種族:シティー・キャット
スキル:跳躍 雷爪
そうか、”ライ”には、スキルはあるが使える状態になっていない?
スキルらしき物だと判断すればいいのか?
ラキシとクロトと違うのは、スキルが淡い色で表示されている。スキルが使えないのか?
あれだけのスキルがあるのは、この目の前に居る”ライ”だけなの?
それにしても、家の子は、シティー・キャットなのか?
それで、アトスがハウス・キャット。街猫と家猫?意味が解らないけど、種族としては別なのか・・・。
よくわからない事は、考えない。
「茜!茜!」
「あっ・・・。円香さん。大丈夫です。少しだけ立ち眩みがしただけです」
「本当に大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
円香さんが支えてくれていたのを思い出して、地面に手をついて立ち上がる。
「茜?」
千明も近くまで来てくれた。
どうやら、私と同じように”ライ”を魔物鑑定したようだ。
「円香さん。少しだけ、あと、少しだけ、千明と話をさせてください。その後に、話せることは、説明します」
円香さんは、私と千明を見てから、足下にクロトとラキシとアトスを見て、最後にスライムを凝視してから頷いてくれた。
「あっ!円香さん!」
千明がキャンピングカーに戻る途中で思い出したかのように、円香さんに話しかけた。
「なんだ?」
「スライムは、この子の他に、もう一体のスライムが居ますが、攻撃はしないようにお願いします」
「なぜだ!」
「この子が言うには、もう一体は土の中に居て・・・。女王蟻だと言っています」
「千明。茜。後で、説明してくれ・・・」
円香さんの戸惑は私にも理解ができる。
このスライムは、”ライ”という名前の”キメラ・スライム”だ。
円香さんが言っているようにネームドなのも問題だが・・・。それ以上に、”会話が成立するほどの知恵”を持っている事が、問題になってくる。キメラ・スライムという種族は、”知能”が高いのか?それとも、この”ライ”だけなのか?
キャンピングカーに戻って、茜の正面に座る。クロトとラキシは私の側に、アトスは千明の側に座る。
”ライ”は、テーブルの上に乗った。
「え?クロト。本当?」
”にゃ!”
「茜。どうしたの?」
「クロトから、”ライ”に触っていれば、『ギフトの力で会話ができる』と言われた」
「え?」
”みゃみゃ!”
どうやら、アトスも同じ事を千明に伝えたようだ。
スライムに手を伸ばして、恐る恐る触る。
少しだけ冷たい感触が心地よい。手をスライムに溶かされることもなく、スライムのボディを触る事ができた。
「貴方は、”ライ”なのですね?」
『はい』
え?こんなにはっきりとした意思なの?
クロトやラキシとは違う。完全に、会話が成り立つレベルだ。
千明も触っているが、会話の主導権は私が握ることになった。
ギルドとして、経験が長いのが私だから、一応・・・。先輩として、私の役目だと思う。本当は、千明の方が、インタビューとかしているから、得意だと思うのだけど・・・。
それにしても、魔物と会話して・・・。スライムから聞き取り調査を行うのは、私たちがギルドで初めてだろう。
「いろいろ質問していい?」
『はい。ですが・・・』
「解っている。女王様には攻撃しない」
『いえ、攻撃しても構わないのですが、暴走してしまうと、困るのは貴方たちだと本体が判断しています』
「え?本体?」
『はい。私の本体は、別に存在しています。女王様も、本体の一部です』
「え?スライムって、全体で一つなの?」
『他のスライムを知らないので、お答えできませんが、私たちは本体から分離した”キメラ・スライム”です。意識を共有できるようになりました。マスターが付けてくれた大切な”名”です』
「・・・。マスター?貴方たちは、元々は蟻だったのよね?」
『私は、そうです。他にも、いろいろな昆虫や動物が居ます。あなた方は、ギルドの方々で合っていますか?』
「え?ギルドを知っているの?それって、魔物の世界では常識なの?」
『いえ、他の魔物は知りません。マスターは、貴方たちの事を、ギルドの人なら、私を通して交渉したいと言っています』
「え?ちょっと待って、理解ができない事が多すぎて・・・」
『失礼しました。貴女のお名前を伺っても?』
「え?私は、里見茜。もう一人は、柚木千明」
『里見さんが、ギルドのリーダーですか?』
「違います。外に居る・・・。覚えているか解らないけど・・・。もう一人の女性がギルド長の榑谷円香さん」
『鑑定と隠蔽と感知系と光系のスキルを持っていた女性ですね。強そうだったので、覚えています』
「え?」「は?」
『鑑定のレベルが低くて、私たちのスキルは見抜けていないと思います。貴方たちの”魔物鑑定”が必要です。あと、私には”魔物支配”は通用しません』
「え?でも、大量に居たスライムが、スキルを使えたの?」
『本体と繋がったのが、私と女王様だけになってしまってからです。その前は、スキルは封印されています。これは、私たちを魔物にした愚か者のレベルが低いためです。あの愚か者は、あろうことか、巣穴全体をスキルの範囲に指定したのです。そして、この領域から出るなと初期の命令をしました』
「ちょっと待って、本当に、本当に、少しだけ待って、情報が・・・。解らないよ」
もう既に、千明は考えるのを辞めてしまっているようだ。
”ライ”に手は置いているが、反対の手で、アトスを撫でている。目線は、アトスに固定している。
今の話を、私が円香さんと孔明さんと蒼さんにするの?
無理。絶対に、そのまま精神が壊れたと思われる。私が、円香さんの立場なら、間違いなく、”壊れた”と思う。それか、”ライ”に乗っ取られたと思うだろう。どうやって説明しても、理解はしてくれないだろう。まず、私が”ライ”の話を理解ができない。
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