【第一章 スライム生活】第九話 練習
僕が得たスキルは、ギルドで検索を行っても”未知”のスキルのようだ。
やはり、僕だけの素晴らしいスキルなのだ。
当然だ。魔物にしてしまうという凶悪なスキルだ。もしかしたら、ギルドは、この偉大なスキル”魔物化”を知っていて、Aランクという規格外のスキルを隠しているのかもしれない。
そうなると、僕もスキルを隠したほうがいいだろう。
スキルを隠すようなスキルを取得すればいい。
なんだ、簡単なことだ。
僕には、魔物を作り出せる能力がある。
スライムを作って、殺せばいい。
どうする?
誰にも見られないほうがいいだろう。国家権力に狙われる可能性だってある。僕の偉大さが世間に知られるのは当然な流れだけど、まだ早い。大々的に発表をしないと、偉大な僕にはふさわしくはない。
そうだ、小学校とか中学校なら、虫の一匹や二匹はすぐに見つかるだろう。小学校は監視カメラが備え付けられていると言われているけど、中学校なら大丈夫なはずだ。
よし、中学校に行こう。
最小の力で、魔物化を発動しよう。
魔物なら、スキルを得られる。最弱のスライムでも問題はない。
さすがは、僕だ。
中学校で正解だ。セミやアリが大量だ。
まずは、セミを魔物化しよう。ギルドの情報では、木の棒でも大丈夫だと書いてあった。ナイフでもいいとは思ったが、ショッピングセンターでハンマーを買ってきた。力も入る。武器としては、格好は良くないけど、スライムを倒すのには丁度いい。
天才の僕は、魔物によって最適な武器を選択することができる。
だから、スライムにはハンマーだ。大きいものは、目立ってしまって、国家権力が僕を見出して、国会機構に組み込むだろう。優秀な僕だから、間違いではないが、僕は、そんな小さなことをやりたいわけではない。偉大な僕は、皆を導く使命がある。その時まで、見つかるわけにはいかないのだ。だから、大きいハンマーではなく手頃なハンマーを購入した。
セミを魔物化する。
力の加減が難しい。でも、天才な僕ならすぐにマスターする。
ほら、うまく出来た。気絶しないで、魔物化できた。
木に止まっていたセミが、スライムになって地面に落ちる。
それだけで死んでしまった。
ん?なんだこれは?
スライムが死んだ場所に光る石が残った。ハンマーを振り下ろすと、砕ける。
スマホで検索する。
”魔石”と呼ばれている。そうか、”魔石”だったのだな。魔石の利用方法は、まだ見つかっていないようだ。ただ、魔物が魔石を食べると、強化されるようだ。見つけたら、その場で壊しておくほうがいいようだ。別に、魔物が吸収しても、僕なら勝てるし、倒せる。でも、リスクは少なくしておいたほうがいい。
—
彼は、スキルの練習と、スキルを得るために、黙々と昆虫を魔物にして虐殺している。
ギルドを調べれば、”スライムからスキルを得られたことがない”と、いう情報に触れられるのだが、彼は、”魔物を倒せばスキルが得られる”と、いう情報だけを信じている。情報を自分に都合が良いように解釈して、それ以上は新たな情報に触れようとしない。
スライムはたしかに最弱な魔物だ。彼が、スキルで作り出している魔物は、彼との繋がりを求めて、途切れされて、感情が彼らと同一の魔物に流れていく、彼が使っているハンマーにも、そんな魔物たちの断末魔が、感情の断片がこびりついていく。
魔物や魔物に関する事柄は、全てが解明されているわけではない。世界規模で手探り状態なのだ。
皆が、情報を共有し、情報を求めて、そして、新たな発見の為に、最前線に向かっている。新しい、魔物。新しいスキル。そして、未知との遭遇を望んでいる。
彼は、既知の情報を自分なりに解釈して、全てを知った気持ちになっている。愚かな行為だと、誰からも指摘されずに、虐殺を繰り返している。
20匹の昆虫を、スライム化してハンマーで殺した時に、ハンマーが微かに光った。
彼は、そんな些細な変化には気が付かない。
気が付かないままに、次の虐殺を始める。昆虫たちは、スライムになって自我がはっきりとする。言葉の理解が出来るわけではないが、感情がはっきりと認識できる。
彼は、虐殺を辞めない。次々に、昆虫たちを殺していく、ハンマーでの叩き方を変えて、外側から死なないように痛めつけてから殺す場合もあった。
殺される昆虫たちは、彼に憎しみを向ける。スライムになったことに怒りはない。感謝する者も存在する。しかし、彼は昆虫たちをただ殺すためだけのためにスライムにしている。感謝の感情が、受け取ってもらえないばかりか、すぐに殺されそうになる。逃げるにも逃げられない。昆虫の時には可能だった動きが出来ない。そして、彼が振り下ろすハンマーに叩かれてしまう。感謝の感情が、怒りに支配される。
スライムの残滓がこびりついたハンマーは、意味もなく殺されたスライムの無念を、恐怖を、怒りを、自分たちと同じ状況になった仲間に伝える。そして、破壊されるはずの、魔石を吸収して、仲間に託す。ハンマーが、付喪神のように意思を持った存在に変わり始めているとは、彼は知らない。今後も彼は気が付かないだろう。
無残に殺された仲間たちの感情と共に、彼への憎悪が仲間に届けられる。
彼が、この短時間になし得たものは、彼に向かう憎悪が増えたことと、仲間への力の譲渡が行われたことだ。
彼に殺されたスライムたちは、仲間の魔石を仲間に届けようとした。そして、思いを通して、仲間に魔石を届けることに成功する。静かに行われた、この世界で初めてのことは、彼が成し得たことでは、最大の功績だろう。
ただ、それは彼にとってプラスなのか、マイナスなのか、そして、人類にとっては・・・。まだわからない。
—
おかしい。
100匹近く、スライムを殺しているのに、スキルが得られない。
さっきから、ハンマーが重く感じる。
スマホを確認すると、4時間くらいやっている。
しまった。早く帰らないと、ママに殴られる。
スキルは、後で確認すればいい。多分、僕が偉大すぎて、スキルを得るための経験値が必要なのだろう。
掲示板でも、スキルを得る条件はわかっていないと書かれていた。
家に変えると、ママはいなかった。
リビングのテーブルにメモが残されていた。”勉強をしなさい”と、何かの会合があるとだけ書かれていた。食事は、どうせレトルトか冷凍食品だ。僕にも用意が出来る。
動いていたから疲れた。
ご飯を食べて、寝よう。
家にあるパソコンは、ママがロックして使えない。
でも、僕にはスマホがある。今日から、動画も見られるし、調べ物も困らない。宿題も、大丈夫だ。
そうだ、今日は塾がある日だ。
眠いけど、塾には行かないと、ママに殴られる。塾から、ママに連絡が行ってしまう。
スマホのタイマーをセットして、仮眠をしよう。
ママがテーブルに置いていった500円を使って、コンビニでおにぎりでも買って食べれば、塾の間くらいは大丈夫だ。天才の僕には、塾は必要ないけど、塾でしか学べないこともある。それに、塾にはアイツらがいない。優秀な僕を羨む者はいるけど、バカにする奴らは存在しない。
塾の時間は、すぐに過ぎてしまった。
家に帰るがママは居なかった。
会合と言っていたが、奴の所に行ったのだろう。
全ての始まりは、奴だ。僕に暴力を奮った。僕が、ママに言っても、ママは奴の味方だ。
ヘラヘラ笑うだけで、中身がまるで成熟していない。要領がよくて、学校の勉強だけは出来た。東京の大学に進んだ。僕なら余裕で入られる学校に、ギリギリの合格だ。ママも、パパも、喜んだ。
奴のせいだ。
全部、奴のせいだ。奴が居なかったら!!
そうだ、ママは奴を連れて帰ると言っていた。
ママと奴を一緒に魔物化しよう。ママも、奴も、僕には必要ない。奴と、ママを、かばうのなら、パパもいらない。
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