【第一章 少年期】第二十八話 冒険者ギルド

 

 俺とラウラとカウラは、先に拠点に向かった。そのまま、学校に戻る事にした。
 夜間の移動になってしまったが、拠点に居るよりはマシと思った、これ以上の面倒事を避ける意味もあった。

 学校に着いた時には、翌朝になっていたが、そのまま先生方に事情を説明する為に、集まっている場所に移動した。

 説明が終わって、寮に戻ってきたのはもうかなりの時間が過ぎていたが、皆起きていた。
 食堂に集まってもらって、簡単に顛末を話す。疲れたので、今日はそのまま休ませてもらう。座学の試験は明日。大丈夫だろうとは思うが・・・今は、疲れて眠くなってしまった。

 ルットマン達は座学の試験までに帰ってこなかった。怪我をした奴をかばっての事だと説明を受けたが、どうやら別の理由が有ったようだ。
 3人は後日、座学の試験を受ける事になった。3人は、座学の試験は満点だったという話が漏れてきた。しかし、試験にあたって、子爵家が引率した先生を買収して、試験内容を盗み出した結果だった事が明るみに出て、3人の試験は無効になった。その上で、実地訓練での単独行動が問題視され、個別に面談が行われる事になった。
 結果、二人はルットマン子爵家の寄子であって、家の力関係から断れなかったと証言した。したがって、リーヌス・フォン・ルットマンが命じた結果生じた事だと結論付けられた。
 二人は、座学を再度受ける事と休み返上での奉仕活動をする事で許される事になった。一人ルットマンは、退学”相当”という処分になった。実際には、退学にはならないが、追試もないので”留年”が決定する。リーヌスは、学校を自主退学する事になって、領地に戻って再教育される事になった。

 これで、一連の問題が解決した。

 成績考査は、主席から12番までは特待生クラスが独占した。順番は、ユリウスの名誉のために考えでおこう。
 しかし、成績考査の結果、二年度も同じメンバーで過ごす事になる。

 それから、二年間は何事もなく、小さなトラブルだけで過ごす事が出来た。
 俺に弟が出来た。ライムバッハ家の後継ぎだ。

 ユリウスが何故か強固に反対したが、父と母を説得して、弟が成人するまでの間は、俺が後継ぎ”相当”という事にしておくが、弟が成人したら、弟が後継ぎにとなる事になった。
 これで、俺は自由な身になる事が出来た。この二年間で、マナベ商会として、トランプ/花札/麻雀/すごろく/将棋/チェス/バックギャモン/囲碁/軍人将棋/かるた/ドミノを作成して、いくつかのカードゲームのルールを作成した。これらを、シュロート商会から販売した。これらに合わせて、干物と燻製のアイディア料は0となるように申請した。誰でも作って販売出来るようにしたのだ。道具などは、シュロート商会に一日の長があるので、販売は絶好調だと言っていた。各種ボードゲームも工房をフル回転で作らせているらしい。

 エヴァから遠回しに告白されたり、イレーネの実家について行ったら誤解されたり、計5回の実地訓練の成績が今までの最高になっていたり、充実した中等部での生活だった。
 来週が卒業式で、その翌週からユリアンネが中等部に入試を受ける事になっている。合わせて、父や母が、弟を連れて王都にやってくる事になっている。
 俺は、クヌート先生の研究所に残る事にしている。ラウラとカウラも一緒だ。ギルは商会を手伝う為に寮から出ていく事にしているが、王都に居るので顔を合わせる事も多いだろう。エヴァも教会の仕事を手伝う事になっているので、寮から出て教会の方に住むことになる。母親と一緒だ。
 寮も次からは、10名となるが、ユリアンヌも特待生クラスになれば、クヌート先生の研究所に入る事を希望している。
 話を聞いた限りでは、余程の事がなければ特待生にはなれるだろうという事だ。

 明日、ラウラとカウラが、父達を迎えに出ていく事になった。ロミルダも一緒についていく事になっている。
 街道を3日程度行った街で、待ち合わせをする事になっている。ラウラとカウラやユリアンネの服を買う事になっている。

 俺は、出来た6日間を使って、魔法の訓練をして過ごす事にした。
 冒険者や商人になって、各地をめぐるのもいいだろう。まとまった金も出来たので、悠々自適な生活を送ってもいい。

「アル様。行ってまいります」「行ってくるにゃ」
「あぁ気をつけてな。お前たちを傷つける奴らは居ないだろうけど、十分注意しろよ」
「はい」「はいにゃ」

 二人とロミルダは、馬車を使って待ち合わせ場所に移動を開始した。

「アル。俺達も行くな」
「あぁ次に会うのは、1ヶ月後だったな?」
「そうだな」「わたくしも行きますわね」
「クリス。結局、フォイルゲンには戻らないのだな」
「えぇわたくしは、ユリウス様の婚約者ですわよ。ユリウス様が行かれるのなら、わたくしも着いていきますわ」

 ユリウスは、クリスとギードとハンスを連れて、先祖が眠る霊廟に行く事になっている。1日程度で行ける距離だが、中等部卒業の報告を行う事になっていると話していた。
 また、クリスが婚約者として正式に発表されたこともあり、その為の報告という名前の儀式を受けに行く事になっている。儀式は、それほど長時間にはならないようだが、少しの間寮を開ける事になる。

 ザシャとディアナは、自分達の里に戻っている。
 エヴァも昨日から教会に行ってしまっている。
 イレーネも、自領のモルトケに戻っている。
 ギルは、ちょくちょく顔を出しているが、シュロート商会に戻って、手伝いをしている。先日来た時には、金を貯めて、独立を考えていると話していた。その為に、俺に何かアイディアがないか考えてくれと言ってきた。ボードゲームは、あらかた出してしまったので、なにか日用品や開拓で使えそうな事を考えてみる事にした試作品でも作りながらゆっくりやる事にした。

 結果、寮は俺一人だけが残っている事になる。

 魔法の確認をしておこうと思っていた。

名前:アルノルト・フォン・ライムバッハ
[異世界日本語変換:1.50]
[鑑定:3.02]
[思考加速:1.00]
魔法制御:3.45
精霊の加護
 地の加護:1.38
 火の加護:1.49
 [水の加護:1.13]
 木の加護:1.35
 風の加護:1.85
 [闇の加護:0.13]
 [光の加護:0.83]
 武の加護
  剣の加護:0.97
  刀の加護:1.35
 [守の加護]

 と、なっている。日々の勉強や新しい詠唱方法の開拓で、ステータスプレートの検証を含めて確認していなかった。
 どこかで、魔法に関しての師匠を見つけないと、この先、確認作業だけで終わってしまいそうだ。
 詠唱もかなり”ふざけた”感じでも発動する事がわかっている。
“火の精霊よ。我アルノルトが命じる。炎龍となりて敵を焼き尽くせ”と、詠唱を行う事で、本当に”厨二”が喜びそうな炎龍が発現した。
 多分、俺のイメージなのだろう。こちらで”竜”とは違った形状になっている。同じ様に、水龍/風龍も発現した。地は、範囲指定した部分に地震を起こさせることが出来る。自然現象を操る事が出来るのだ。魔力もかなり必要で、連続は出来ないが、それでもかなりの威力で、ワーウルウの群れを炎龍で攻撃して全滅させただけではなく、素材も一切なくなってしまった事もある。それから、風龍を使って攻撃する事にしている。ダメージコントロールがし易いのだ。

 俺のこの辺りの魔法に関しては、注意しながら使っていた。確実に知っているのは、ラウラとカウラだけで、他はかなり強い魔法が使える程度にしかしらないはずだ。

”配置”がわからなかったが、今日鑑定が3を越えた所で説明が出てきた。
 魔法をステータスプレートに配置出来ると言う事だ。容量は、魔法制御に依存するとなっている。やり方も説明されていた。
 詠唱した魔法をステータスプレートに配置出来るのだと書かれている。先に、配置を宣言する。その後で、配置したい魔法の詠唱を行う。最後に命名すればそれが使えるようになると説明されている。

 試してみようと思う。
”ステータスプレートに配置せよ”
”火の精霊よ。我アルノルトが命じる。集まりて闇を照らせ”
”命名:ライト”

ステータスプレートには何も変わりは・・・あった。最後に
アイテム:1/345
 配置:1
アイテムという言葉が気になるが、まずは魔法の検証を行う。
“ライト”
 おぉぉぉ魔法が発動した。次は魔力を込めないで叫んで見るが、発動しない。魔力はパラメータとして渡せる感じの様だ。範囲や場所の指定も任意で出来るようだ。かなり便利に使えそうだ。
 各魔法のキャンセルも組み込んでおこう。対人戦ではかなり役立つ。同じく危ないけど、炎龍/水龍/風龍も組み込んでおこう。
 もっと複雑には出来ないのか?詠唱だと長くなってしまう事でも、配置を使えば短い言葉で魔法を発動させる事が出来る。
”ステータスプレートに配置せよ”
“刀の精霊よ。我アルノルトが命じる。火の精霊の力にて炎を纏い、風の精霊の力にて風を纏い、我が持つ刀に力を宿せ”
“命名:炎風剣”
出来た。

アイテム:2/345
 配置(1):11
 配置(3):1

 呼び出す精霊の数毎にアイテムとして認識されて、同じ数なら、複数入れる事が出来るという事かな?
 削除や変更はどうしたらいいのだろう。ステータスプレートをフリックでスライドさせると、配置(1)や配置(3)と表示されたアイテムがある。タップすると、今作った魔法が表示されている。ふむそういう事だろう。長押しすると、”削除”/”変更”とある。中身の変更ではなく名前の変更だが、なんとなく理解出来た。階層は二階層までだ、”ライト”を削除してみた。表示方法は、地球で使っていたリンゴマークやAn○roid端末ではなく、”窓スマホ”のようなタイル式になっている。

 部屋で有意義な時間を過ごしていた。
 これなら、多重防御陣や複数の加護を使った魔法を作る事ができそうだ。プログラムといえるほどの物ではないが、なかなか楽しい。後は、メソッドやプロパティがもっと解れば魔法の利用価値も広がるだろう。

 寮でゴロゴロ過ごしていたが、食料も少なくなってきたし、街まで行く事にした。
 ついでに、今後の事を考えて、冒険者ギルドの登録条項を確認して置くことにした。エヴァやイレーネと、よく来た奢らさせられた食堂で昼ごはんを食べて、街の中を散策した。
 そう言えば、不思議な事に、あれから何度も探したが、あの刀を狩った武具屋を見つける事が出来なかった。

 冒険者ギルド向かいながら、ユリアンネが王都に来たら、どこに連れて行ってやろうと考えながら店を散策している。
 住み始めて9年になるが、まだ王都の全域を知っているわけではない。最近になって、少し怪しげな裏通りの店などを見るようになって、少しだけ散策範囲が広がった程度だ。
 こちらの世界も日本と同じで、表通りには大資本な店が多く並んでいる。一歩中に入るとこぢんまりとしているが個性豊かな商品を扱う個人商店がある。そんな個人商店は、値段的には安くはないが、変わった商品や工房ではなく自分の所で生産している事で我儘が言える商店が多い。
 俺の場合は、ギルにお願いすれば、嬉々として準備するので、工房にお世話にはなっていない。

 冒険者ギルドの場所は、前から知っているが中に入るのは初めてだ。
 幼年学校卒業程度の年齢から登録は出来るので、俺でも登録は大丈夫だろう。
 イーヴォさんとはあれからも懇意にさせてもらっていて、何度か稽古をしてもらったりしていた。

 冒険者ギルドは、商人ギルドと雰囲気が違っていた。
 商人ギルドが銀行のような雰囲気があったが、冒険者ギルドは市役所のような雰囲気だ。
 窓口が幾つかあって、どこの窓口でも良いとは教えられていた。窓口の案内を見ると、一番奥に”新規登録”窓口と書かれている窓口に向かった。

 窓口に座った。
「今日は、新規登録ですか?」
「あっその前に、冒険者ギルドに着いて教えていただければと思います。そうですね、商人ギルドへの併用の時の問題とかを聞きたいです」
「そうですか、ギルドの複数登録の問題はありません。業務内容も違います」
「そうですか」
「あっ一つだけど、注意点があります。商人ギルドで、口座を作っている場合には、冒険者ギルドで、口座をどうするのかを考えてもらう必要があります」
「どうするとは?」
「口座を一つにして、この場合は商人ギルドの方だけになると思いますが、毎回入れる方法があります。年会費などは、手持ちしてもらう必要があります」
「そうですか、冒険者ギルドの口座も商人ギルドと使い方は同じですよね?」
「えぇ同じです」
「それなら、別々に口座を作れるのならそうします。他の注意点は何か有りますか?」

 冒険者ギルドに関して簡単に説明してもらった。
 よくある設定のままでわかりやすい。ランキング制度も導入されている。最初は、ランクが12から始まる。これは、どんな人間でも同じだ。ランクで、受けられる依頼が違う事は無いようだが、違いはギルドに預ける保証金が違ってくる。上のランクを受ける時には、沢山の保証金を預ける必要が出てくる。以前に、貴族のボンボンが出来もしないで、上のランクの依頼を受けて、失敗を繰り返したのをうけての制度らしい。保証金が必要ないのは、ギルドからの強制依頼や指名依頼の時だと説明された。

 依頼は街ごとに張り出されるが、報告はどこの街でも良いとなっている。
 登録も簡単で、会費を払って、魔道具にて登録を行えば良い。後、討伐クエなどギルドで魔道具に触れたら、倒した状況がギルド側で参照出来るのだと言っていた。
 パーティの場合には、魔道具に、リーダ登録を行う事で、リーダが報告すれば大丈夫だという事だ。

「それで登録はどうしますか?」
「あっお願いします」
「登録料と初年度の会費で、5,000ワト必要になります」
「わかりました」

 銀貨を一枚渡す。
「お釣りは次年度以降の会費にしてください。後、金貨3枚を預けておきたいのですがいいですか?」
「あっはい。大丈夫です。ありがとうございます。それでは、文字が書けるのでしたら、必要事項を書いてから再度窓口に来てください」

 渡された物に必要事項を書き込んでから、窓口で登録を行った。
 名前は、”ライムバッハ”で登録を行う事にした。ラウラとカウラが帰ってきたら、二人にも登録してもらってパーティ組めばいいだろう。

 これで、冒険者登録も終わった。

「あっ」
「え?どうしました。」
「”アルノルト・フォン・ライムバッハ”様ですか?」
「え?あっはい。そうです。」
「申し訳ないのですが、”この”ような割符はお持ちでないでしょうか?」

 見せられた割符の片割れは確かに持っている。常に持っているわけではないが、イーヴォさんから冒険者登録する時に持っていけと言われた物だ。

「あります。これですか?」
「そうです。少しお預かりしてよろしいですか?」
「大丈夫です」

 受付の女性は割符を持って奥に入っていった。
 5分後に出てきた時には、袋を持ってきていた。

「おまたせいたしました。確認が出来ました。3名での達成となっていますが、どういたしましょうか?」
「え?状況が見えないのですが、どういう事なのでしょうか?」
「え?説明は受けていないのですか?」
「冒険者に登録する時に、その割符を持っていけと言われただけです」
「あっ・・・はぁそうですか・・・。それでは、説明します」

 この割符は、冒険者ギルドが発効している物で、冒険者に登録を行っていない者が冒険者の手伝いをした場合などに発効される物で、報酬の受け取りが出来る物だ。
 冒険者でなければ、そのまま現金化する事も出来るが、冒険者登録した場合には、ギルドポイントも付与される。

 この割符は、2年前にルットマンを救出した時の報酬だと説明された。
 俺とラウラとカウラに対しての物になっている。3名分となっているので、全員分を引き出す事も出来るが、どうするのかという事だ。
 取り敢えず、俺の分だけ取り出してもらう事にした。金は今困っていないので、そのままにしてもらった。

 ギルドポイントの加算で、俺のギルドランクが、11に上がった。駆け出しには違いは無いが、上がるのは地味に嬉しい。

 冒険者ギルドから街に出ようとした時
「アル!ここにいたか、探したぞ。大変な事になった、俺と一緒に来てくれ!」

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