【第三章 託された手紙】第五話 記憶
「はい。マホが私に”見つけてほしい”と言っています。見つけて、帰ってきて欲しいです」
鈴の宣言を聞いた4人は覚悟を決めた。
「美和。悪いけど、沙奈を呼んできてくれ」
「わかった。子供たちの様子も見てくるね」
美和が部屋から出ていく。追い出したわけではない。今後の動きを確認するためと、行動するのなら沙奈が居たほうがいいと判断したのだ。関係者だけで行動するよりも、部外者が居たほうが言い訳ができる。
「克己。どうする?内容から、俺は動けないぞ」
「そうだな。桜と進は動かないほうがいいだろうな」
「進は絶対にダメだ」
「なぜだ!鈴が、唯が、巻き込まれたのだぞ!」
進が言っているのは間違っていない。
桜も進が探しに出るのには反対した。克己も同じ気持ちだ。鈴は、進が一緒なら”いい”とは思っていたが、桜と克己に任せようと思っている。進から、二人の人となりは聞いているし、保護者会で話しをする。それだけではなく、二年上の先輩で、中学校でいろいろな伝説を残している人たちなのだ。
「だからだ」
「え?」
「進。桜が一緒に動かない理由は解るよな?」
克己が桜に変わって説明する。
「あぁ警察関係者だからだろう?」
「それもあるが、桜が見つけたときに、その情報はどこから得られて、なんで探そうと思ったのか説明が難しくなる」
「え?だって、マホの手紙を見たと言えば・・・」
「マホの手紙?なんだ?それは?桜が知っているのか?鈴は、知っているのか?」
手紙は、桜と克己と鈴だけしか見ていない。
そして、最初に桜と美和はいないと宣言されている。
「え?あっそう・・・。進さん。何か勘違いしていない?」
鈴は事情がすぐに解った。
そして、克己にはマホが居る場所に心当たりが有るのだと悟った。
進は、鈴の言い方でこれ以上は無理だと悟った。
克己と桜が、進を除外するのも理由があった。
進に仕事を休ませて一緒に行動するのには無理があった。美和が一緒に行くのはしょうがない。車の運転が必要になるだろうし、現場で何か見つかったときに桜に自然に連絡できるのは美和なのだ。克己は自由業ではないが、自由業のような状態なので問題ではない。鈴は、一緒でなければマホが出てこない可能性があると考えられた。進は、行く必然性が低い。それだけではなく、鈴が唯を心配してしまう状態をなるべく回避したかったのだ。
そして、本当にマホを見つけられたときに、夫婦でその場所に立ち会っていれば、警察が疑いの目を向けるのは避けられない。
「わかった。桜。克己。鈴を頼む」
「違うだろう。俺は行かない。克己と美和と鈴」「と、私ね」
美和が沙奈を連れて戻ってきた。
「沙奈さん。なんで?」
「え?だって、私は部外者よ。まさか、マホさんに近い。鈴さんと、那由多さんに近い。克己さんと美和さんが一緒では”何か知っています”と言っているようなものよ」
「そうだけど・・・」
「大丈夫よ。克己さんと私は、息子が違和感を覚えた場所を見に来た。美和さんと鈴さんは、子供から話を聞いて懐かしくなって来てみた。桜さん。この言い訳では通用しない?」
「そうだな。もう少しだけ言い訳が欲しいな」
「それなら、美和さんが子供の時に隠した宝物を探そうと言い出したって事では?」
「そうだな。偶然、克己と沙奈さんに現場で会って、子供のときに隠した物を探そうと言い出したなら、ちょっと苦しいが納得するだろうな。美和が弁護士だから余計に突っ込んではこないだろう」
悪巧みではないが、警察への言い訳が考えついた。
「なぁ克己も桜も、マホが見つけられると思っているようだけど・・・・」
進以外はマホを見つけることができると考えている。
「そうだな。克己。どうだ?」
「あぁその前に、美和と沙奈と進に、鈴が見た夢の話をしたほうがいいと思うけど・・・。どうだ?」
「そうだな。夢の話はしておいたほうがいいな。共通認識を持っていたほうが、話がしやすいな」
手紙ではなく、夢の話としてしまったのだ。
方便では有るし、解っていることだが、これから手紙ではなく、鈴が見た夢の中にマホが出てきて話をした・・・。と、いう説明になる。
あんな事件があったあとだし、マホの夢を見ても不思議には思われないだろう。
少しだけ、本当に、少しだけ、鈴が可愛そうな人と思われてしまうだけだ。警察もわざわざ夢の話だと発表はしないだろう。事実だけを発表するだろうと桜が言ったので、進も納得したのだ。
そして、皆が手紙を回し読んだ。
「ねぇ克己さん。この最後の人・・・」
「鈴には心当たりがないらしい」
「ううん。違う。私は、克己さんと桜さんと進さんに聞きたいのだけど、子供のときに腕時計ってしていた?」
「ん?」「え?」「・・・」
誰も”時計”はしていない。
さらにいうと、今でも時計をしているのは進だけだ。
「そうか、先生か・・・」
皆が鈴を見るが、鈴は首を横にふる。
わからないようだ。
「鈴。お前たちの中で腕時計をしていた奴は居たか?」
鈴は何かを考えていた。
時計をしていた人間を記憶から呼び起こそうとしていたが、不意に肝試しの時の風景が頭に飛び込んできた。
「・・・。違う。6人居だ」
「ん?鈴。どうした?」
「班わけで、3人だけだと思ったけど、違う。立花と山崎と三好と西沢と日野と金子が一緒の班!思い出した。なんで3人だけだと思ったのかも思い出した!肝試しのときに、山崎と三好と金子は先に帰ってきた!マホが居なくなったと騒いだのも彼ら・・・。だった」
「ん?そうなると、鈴となつみが会話したのは誰だ?」
「わからない。わからないけど、私たちは・・・。そうだ!私たちは、最初に肝試しに行って、マホも一緒だった。帰ってきて、マホが連れて行かれた」
「そうか、だからマホと肝試しをしたし、帰ってきてから話した記憶もあるのだな」
「だと思う。自信は無いけど、多分そう!それで、明るかったのは・・・」
「月が出たか、先生がライトを着けたのだろう。それに、子供にはそれほど奥まで探しに行かせなかったのだろうな」
「そうだと思う・・・。ごめん。マホ・・・」
鈴は記憶していたのが間違っていたわけではない。小学四年生で、親友といえる友達が居なくなってしまった。あの夜の出来事を鮮明に覚えていても、後から告げられる大人たちの勝手な想像で上書きされてしまっても不思議ではない。
「鈴」
美和が慌てて持ってきた。水を一気に飲んだ。
「美和さん。ありがとう」
「鈴。思い出したのなら教えて欲しい。最後の1人は誰だ」
「杉本・・・。先生だと思う」
「杉本か・・・」
桜の呟きを克己は聞き逃さなかった
「桜。知っているのか?」
「あぁよく知っている」
「どっちだ?」
桜の言い方で、克己はおおよそ理解できた。美和も長い付き合いだから解った。
「杉本は、山崎の親戚だ。関係までは覚えていないが、間違いない」
「縁故か?」
「そうだ」
「山崎は・・・。そうか、同窓会の時の犠牲者だな」
「そうだ」
「そうなると、マホが名前を出した連中は・・・。”まだ”生きているのだな」
「そうなる」
「桜。どうする?」
「ん?マホの夢の話を真に受けて上司に報告したら、俺は首になってしまう」
「ならないだろうけど・・・。了承した」
進と鈴は完全に会話についていけていない。ただ、唯が安全になるのならいいと思うことにした。
雰囲気を察した美和が二人に説明した。
「それで、克己。何か心当たりが有るのだろう?」
「あぁほぼ間違いないと思っている」
「なぜだ?」
「その前に・・・。鈴。お前たちの卒業文集に仏舎利塔での記念写真はあるか?」
「え・・・。ちょっとまって、覚えてないよ?小学校の時のだよね?」
「あぁ」
「ごめん。やっぱり覚えてない。そもそも、卒業文集がどこにあるのかも忘れちゃったよ」
「そうか・・・。桜も俺も無いのは確定だし、美和も無いだろう?進も・・・」
進も首を横にふる。
「克己さん。なんで、小学校の時の文集が必要なの?鈴さんと克己さんたちでは年が違うわよね?」
1人部外者の沙奈が克己に質問した。
「ん?確認したかっただけだから問題はない。鈴も、進も、仏舎利塔の周りは覚えているか?」
「ん?なんか、紫陽花が咲いていた印象だけど・・・。確か、ピンクの紫陽花だったと思う」
進が記憶を引っ張り出してきた。
「そう。紫陽花が咲いていた。今はやっていないけど、俺たちの時には、毎年植えていたよな?」
「覚えている。確かに、植えたな」「あぁ」
「鈴。紫陽花を植えた記憶はあるか?」
「・・・。ない。でも、準備はしたよ?あれ?なんで、植えなかったのだろう?」
「鈴が植えなかったのは想像でしか無いから今はいいとして・・・。タクミが帰ってきてから面白いことを言っていた」
「面白いこと?」
「進が言ったように、ピンクの紫陽花が咲いていたらしいが、一部分だけ青色の紫陽花が咲いていたらしい」
「え?」「ん?だから?どうした?」
「あの辺りは土壌がアルカリ性になっているらしい。仏舎利塔の石が雨で削られて土壌がアルカリ性になっているのだと言っていた」
「ん?まて、克己。それなら、なんで紫陽花が青くなる。アルカリ性ならピンクで、酸性なら青だったはずだな?」
「そうだ。だから、タクミも不思議に思ったようだ。紫陽花は同じ色で咲くのに、一部だけ違う色で咲いているのかを知りたかったようだ」
「そうか・・・。青い紫陽花の下を掘ってみればいいわけだな」
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