【第一章 スライム生活】第二話 山道

 

 学校のなんとも言えない状況を知ってしまった、女子更衣室を抜けて、プールから山道に入った。
 山道を、人の足で5分ほど歩けば、小屋が有るはずだ。まずは、小屋を目指す。スライムの身体での、移動時間の目安になるだろう。

 私のスライム生は始まったばかりだけど、かなり慣れてきた。跳ねる移動方法も、最初は”うさぎ跳び”の要領で疲れてくるのを心配したが、歩くように移動できる。手が無いのも、触手?を伸ばすことで対応できる。もしかしたら、人だったときの感覚とスライムの感覚が混じって使いやすくなっているのかもしれない。今も、木の枝に触手を伸ばして、身体を引き寄せるようにして進むことが出来た。

 それから、乙女として全裸なのは気になるが、スライムボディは優秀だ。暑くもなく、多分寒くもないだろう。風も感じられる。匂いも解る。弱点は、視線がかなり下からだということだけだ。知っている学校の中も別世界のように思えた。多分、女子高校生が近くにいたら、スカートの中が見えてしまうだろう。先程の更衣室で試したように、隙間があれば入り込める。猫よりも狭い場所に入られるだろう。あまり、狭い場所に入ると、黒い悍ましい奴らが居るかもしれないから、入らないようにしたほうがいいだろう。

 小屋にたどり着いた。
 体感では、人が歩く速度と変わらない。

 この小屋もいつから有るかわからない。
 入らないほうがいいのはわかっている。女子更衣室にあったような痕跡がここにもある。もっと酷い状況なのかもしれない。

 でも、どこかで休みたい。
 この山を越えて、谷を越えて、次の山の中腹が”我が家”だ。飛べたら、楽だったのに・・・。スライムじゃ飛べないよね。ワイバーンとかになっていたら、楽だったかな?ハーピーという選択肢もあるな。そう言えば、スライムの寿命ってどのくらいなのだろう?魔物としては、最下層だよね?

 私、ゴブリンに出会ったら殺されちゃう?
 何か、武器を考えないと・・・。

 思いついたのは、試してみよう。

 石を拾って投げる。石は、アイテムボックスに格納しておけば、拾う手間がなくなる。取り出す方法は、投げられたら考えればいいかな。

 石を触手で拾って見る。
 そのまま、振りかぶって投げる。腕を大きく降るようにして投げる。目標は、5メートル先の木!

”コツン”

 ダメだ。全力で投げたけど、人だった時とそれほど違わない。でも、投げられたのは一つの成果だ。

 石を集めて・・・。
 アイテムボックスに大きめの石を入れておいて、魔物の頭上から落とせば・・・。
 やってみよう。

 徐々に大きい石をアイテムボックスに入れていく、びっくりした。1メートル程度はある石・・・。もう、岩だね。岩を入れられた。大きさに限界なないのだろうか?この方法は、一つの問題があった。アイテムリストで把握が出来ない。

 石1/石2/石3/・・・・

 アイテムリストで別々に扱われてしまっている。他に、木を入れても同じだ。木の長さを揃えても、別々に扱われる。アイテムボックスの仕組みは、家に帰ってから考えよう。

 検証しながら、山道を頂上に向って移動する。

 岩を、目視が出来る範囲からなら落とせることが確認出来た。

 攻撃手段を手に入れて、少しだけ気分が楽になった。わからないことだらけだけど、生き抜かなければ、判明することも難しい。

 スライムボディの良いところを、更に発見。
 石を木に投げる練習をしているときに、石が木に当たって跳ね返ってきて、私に当たった。”ダメージが来る”と構えたが、痛くなかった。そこそこ大き目の石だったので、人のボディだったら骨折は大丈夫だろうけど、血が出るのは避けられない。痛みも感じたはずだ。もしかしたら、ゲームのように、HPが有るのかも知れないが、痛みを軽減?されているのは嬉しい。よく考えたら、私は全裸で山道を駆け巡っている変態だった。裸足で岩の上や木の根っこの上を歩いていて、痛みを感じていなかった。
 かなり目がいい。コンタクトレンズが手放せなかった私だが、スライムボディになってからよく見える。以前は、メガネやコンタクトレンズがなければ、伸ばした自分の腕に割り箸を持っていたとしても、何本の割り箸なのかわからないほどだったのだが、今では10メートルどころか、もっと先にある木に止まっている虫が把握できる。下草の上に居る小動物も認識できる。そして、夜目も利くようで暗い場所でもよく見える。もちろん、明るい場所でも同じだ。

 え?
 あ?

 そうか・・・。

 スライムボディだよね。どこに目があるのかわからないよね?

 自分で言って、自分で納得したが、全方位を見ることが出来る。地面を見てしまった時は、少しだけパニックになったが、前を見ながら後ろを認識したりできる。何かと、戦うとは考えられないが、慣れておく必要がある。

 やることが山積みだな。
 夏休みの宿題はもう終わっているけど・・・。提出は出来ないだろうな。スライムになるのなら、宿題はやらなければよかった。友達と遊びに行く予定も無いし、親戚も訪ねてくる予定もない。もちろん、リア充イベントは都市伝説だと思っている女子だ。それに、近所付き合いも、全くではないけど、やっていない。寂しい女子高校生だったな。これからは、寂しいスライムとして生きていくしか無いのかな?でも、スライムの雄が居たとして、仲良く出来る自信はない。ゴブリンも、オークも無理だ。
 ドラゴンさんとは仲良くなってみたいけど、ドラゴンが見つかったという報告はまだ無かったはずだ。
 どんな基準で、魔物が産まれているのか知らないけど、スライム以外に会いたくないな。

 この辺りの山は、富士山から離れているし、富士川もあるから、大丈夫だよね?魔物は居ないよね?

 ふっふふふふ
 頂上に到着!完全に夜になっているけど、夜目が利く。月が出ていて、よく周りが見える。ここからは、道がない場所を進む必要がある。

 そうだ!
 丸まって、転がれば楽に下まで移動できる?危ない?

 やってみて、ダメだったら・・・。短いスライム生で解ったこととして、物理的なダメージはかなり軽減されている。転がっても、木にぶつかるくらいでは大丈夫ではないだろうか?速度を落とすのは、触手を伸ばせば大丈夫のはず、ダメなら身体の形を変えればいい。

 伸びをしたり、跳ねたり、薄くなったりしていたら、思い通りの形になれるようになった。
 視線の動かし方も、おおよそ解ってきた。

 ダメなら、ダメで考えよう。

 方向を確認。
 頂上から、海を見る。視線が低いので、よくわからない。
 木に登る。木登りなんてしたことが無かったが、スライムの身体になると木登りも簡単だ。

 木の上から、周りを見つめると、海が確認出来た。海の方向とは反対方向に降りていけばいい。多少の違いはしょうがない。向こうの山にたどり着いて、登っていけばなんとかなる・・・。はずだ。最悪は、谷を流れる川に沿って、下っていけば、国道にぶつかる。夜なら、車も少ないだろうし、ヘッドライトに照らされても、動かなければスライムだって気が付かれないだろう。その瞬間に人間に戻らなければ大丈夫だ。全裸の女子高校生として、捕まりたくはない。

 よし、夜の間に、家の近くまで行こう。そのためにも、やはり山を転がり落ちたほうがいい。
 多少の危険は、時間を短縮するために必要なことだ。国道に出てしまえば、見覚えがある場所に移動して、家にむかえばいい。

 10メートルくらいある木の上から飛び降りた。
 地上に降りても痛さはない。多少跳ねた気がしたが、大丈夫だ。

 方向を確認して、ボディを丸くする。楕円状の方が、転がる速度が抑止できそうだ。

 坂道を転がるように、急な山を転がり始める。
 最初は速度が出ていなかったが、徐々に速度が上がる。岩に跳ねると、空中を数秒間、飛んだ。着地のときに、身体を替えた。跳ねないようにしたら、また転がり始めた。

 あっ・・・。
 谷・・・・。

 ダメ!

 止まろうと思ったときには、全てが・・・。遅かった・・・。