【第一章 過去】第三話 忍び寄る影
『きゃぁぁぁぁ!!!!』
どこからか悲鳴が聞こえる。
鈴と菜摘も悲鳴の方を見ると、前面に備え付けられていたスクリーンが降りてくる。
スクリーンに何かが投影され始めたのだ。
最初は、最近死去した者たちの写真が流れた。
その後、鈴と菜摘も会場で見かけた者たちの名前が流れるように表示される。
「(山中と古谷?)」
鈴は後ろの席に座っていた二人の名前を見つけて、気になって後ろを振り向いた。
鈴と菜摘のテーブルは中央の最前列になっている。
横には、今は静かになっているが、騒がしかった立花たちが座っている。
確か、山中と古谷は後ろのテーブルに居たと記憶していた。
「(菜摘・・・。後ろ・・・)」
「(どうし・・・た・・・。え?なんで?)」
鈴に言われて、後ろを振り向いた菜摘も、後ろに山中と古谷が座っていたのを記憶していた。
しかし、二人が見たのは誰も居ないテーブルだけだ。
そして、テーブルの蝋燭も消えている状態だ。
いくつかのテーブルで同じ状況になっているようだ。
「(菜摘・・・。前・・・。見て・・・)」
菜摘は、鈴に言われて前にあるスクリーンに映し出された情報を見た。
文字としては認識できる。そこまでは耄碌していない。日本語で難しい言葉ではない。
しかし、文字として認識できることと、内容を理解することがイコールで結びつかない。
他の同級生や先生方も同じだ。
誰も声を出さない。”出さない”のではない、”出せない”状況なのかもしれない。鈴と菜摘は、流れる文章を目で追っている。
26年前から25年前に渡って行われたことが、”須賀谷真帆”の日記のように書かれている。
”4月25日 古谷さんから呼び出された。呼び出し場所で、後ろから殴られた”
事情が細かく書かれている。
そして、皆の目を奪っていたのは、その日の日記の終わりの部分だ。
”罪状:監禁と傷害”
”判決:死刑”
この同窓会の主催となっている川島も”死刑”とされていたことだ。名前が挙げられた者や、罪状有りと書かれた同級生の家族や関係者も存在している。
そして、数ヶ月の間に死亡した全員が”死刑判決”を言い渡されている。
「(真帆が?なんで?)」
鈴が不思議に思うのも当然だ。同級生や家族・関係者の葬儀に参列しても”殺された”や”殺人”ということは聞かされていない。本当の事件だったりしたら、警察が来ているだろうし、そんな気配はなかった。皆が、最近事故死や病死が多いな・・・。と、思う位で終わっている。
そして、真帆が復讐をするにしても、姿を見せて行うのでは無いかと考えたのだ。
今日、この場に居た者も”死刑判決”を受けている。
鈴が覚えている、真帆が行方不明になる前日の日記が表示された。
”8月22日 立花くん。西沢さん。日野さんから一緒に来いと言われた。私は、ここで行方不明になる”
”罪状:不明”
”判決:保留”
”事由:証拠が不十分”
皆が凍りついたかのように前を見つめている。
言葉を発するどころか、座った椅子から立ち上がろうともしない。動きが阻害されているわけではないのに、なぜか全員が動かないのだ。
突然、全ての電灯が光りを灯した。
暗い状態から、いきなり明るくなった。正面からは強い光が皆に照射されているようで、全員が眩しくて目を開けていられない。
光りが徐々に弱まってきて、皆が目を開ける。
「(え?)」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」
鈴と菜摘は、正面で見てしまった。
先程までスライドが流れていた場所に、明日から首の重さに耐える必要がなくなった、14体の胴体が椅子に座っていた。
そして、座った状態で、膝の上で首を持っている。
ただし、自分の首では無いようだ。
どういう理屈になっているのかわからないが、他の人の首を大事そうに抱えている。
不思議なのが誰も血を流していない事と、顔が皆笑っている状態になっている事だ。
その笑顔と状態のギャップが皆に恐怖心を受け付けていた。
悲鳴がだんだんと小さくなる。恐怖が突きつけると、人は冷静を取り戻すのかもしれない。それが勘違いだとしても、会場に静寂が訪れた。
徐々に、誰も喋らなくなってしまった。ただ、前面に並んでいる14のさっきまで動いていたであろう死体を見つめている。
菜摘が数えた出席者は、210名と6名。
アナウンスされた出席者は、197名と教師5名。
今、首を抱えている者は、先程のスライドで”死刑判決”が出ている者たちだ。
「警察を呼べ!!犯人は、この中に居る!」
誰が叫んだのかわからないが、警察が到着するまでの時間の事は、出席者全員が同じ供述をしている。しかし、”警察を呼べ”と言われる前の記憶が曖昧になってしまっているのだ。酷い者は、朝からの記憶が混濁してしまって、矛盾だらけの供述をした者も居る。
鈴は比較的記憶がはっきりしていた。
自分がボイスレコーダーで録音していたのを思い出した。警察に求められて最初から録音状態になっていたボイスレコーダーを提出した。
警察立会いで、ボイスレコーダーの内容を確認した。不思議な事に、鈴と菜摘の会話や周りの話し声は録音されていたが、主催や”須賀谷真帆”の日記を読み上げる声は録音されていなかった。
— 県警の資料課
「森下さん」
「なんだよ・・・。あぁその事件は、俺は担当から外されたぞ?」
「え?」
「当然だろう。俺の同級生の那由太が絡んでいると思われて、、知っている奴も多いし娘の同級生の母親や父親も被害者や参加者に居るからな」
「そうなのですか?」
「あぁあの問題が多い。同級生だからな」
森下と呼ばれた刑事は、準キャリアなのだが性格や普段の言動が問題視され閑職に回されている。
今は、地元の地方都市で資料課の課長やっている。地元では顔が利くために、他所から来た署長や他の課長から案内を依頼される事が多い。森下の欠点なのか美点なのか功績を欲しがらない所がある。自分がやりたかった事はもう終わったと言って出世を望むような事もない。署長や他の課長は、その事を知っている為に、森下をいいように使う事が多い。
資料課は、過去の事件の資料を整理して分析するのだが、奇怪な事件を担当して、解決に導いている。森下班と呼ばれるまでに実績を残している。
そのため、今回の事件も当初は森下班に回される事に上層部は決めたのだが、初動捜査に当たった所轄から被害者や状況が伝えられて、森下班は捜査から外される事になった。
「須賀谷那由太さんでしたか?」
「そうだ・・・。なんだ、捜査本部にでも聞いたのか?」
「森下さん。本当に、マスコミが嫌いなのですね?」
「ん?別に嫌いじゃないぞ?ただ、報道の自由とかいうわけのわからない物を振りかざして、自分が安全な位置に居ることを確認してから、対岸の火事を煽っているゴミが嫌いなだけだ」
「それだけ言えれば、十分マスコミが嫌いだと思いますけどね。まぁいいです。もう連日報道の嵐ですよ。全国的なニュースになっていますよ」
「そりゃぁそうか・・・」
「えぇ関係者だけ考えても・・・。直接の被害者が14人。会場に居た人たちの話では、それだけではなさそうな雰囲気ですからね」
「あぁそれも、いじめていた奴やその家族が被害者なのだろう?」
「そうですよ。それで、いじめの被害者からの復讐だって騒がれていますからね」
「でも、真帆は行方不明なのだろう?」
「はい。それで、生存している事になっている兄の那由太が犯人ではないかと言われていますが、保護プログラムを利用して名前を変えて、都内で生活しているので、今回の件は一切関係ない事が解っていますし、マスコミも兄が居た事は報道していますが、そこまでですね」
「そうか・・・ネット上は?」
「特定班が動いているようですが、那由太さんの現在の名前や素性は特定できていないようですね」
「そうか、それなら良かった」
「森下さんは、知っているのですか?」
「ん?那由太の事か?知らない。もし、知っていたとしても言うと思うか?」
「思いません。上も、那由太さんは今回の件は関係ないと見ているようですよ」
「そうだろうな・・・。それで?」
「え?それだけですよ?」
「そうか・・・」
森下は、それ以降黙ってしまった。
部下が自分から離れていった事実に気が付かないほどに”何か”を考えていた。
「(なぁ安城。井原。俺は、どうしたらいい?)」
森下は、服役している親友と言うべき男性と女性の事を考えた。
そして、”いじめ”と嫉妬で行方不明になって殺されてしまった初恋の相手に問いかけている。勿論、返事などはない。
「(あの街は・・・違うな。いびつな状態になってしまっているのだろう。俺たちの責任かもしれない・・・)」
警察は、必死に捜査を行っているのだが、証拠らしい証拠が見つからない。
容疑者と思われていた、須賀谷那由太は一切関係ない事や当日のアリバイも確認されている。
殺害結果は解っているのだが、殺害方法が一切不明。
殺害時間は、参加者の説明でおおよそつかめているが、正確な事は不明。
それだけでも不思議なのに、あの会場の設備や設営を行った者がはっきりしないのだ。運営会社に問い合わせても、明確な答えが返ってこない。
かなりの捜査員を動かして現場検証から聞き込みを行った。参加者で生き残った202名から聞き取りを行い、聞き取った内容の裏取りを行っただが、不思議な事に多くの者がなぜ参加したのかわからない状況なのだ。驚いた事に、ほとんどの同級生が最初は出席しないと考えていた、しかし急に予定がなくなったり、誰かに誘われて出席を決めたり、事情は異なるのだが最終的には参加を決めた。そして全員が最初から参加する予定だったかのように準備が行われていた。
”須賀谷真帆”からの招待状を受け取ったのは、死んだ14名と立花・山崎・三好・西沢・日野・金子と杉本だ。
全員が、警察の求めに応じて招待状を提出した。驚いた事に、筆跡は”須賀谷真帆”の物で間違いない。
まさに、行方不明者からの手紙だという事だ。
”須賀谷真帆”が生きていて、いじめた者たちに復讐したのではないかというストーリーも成り立つのだが、同窓会が開かれたビルの監視カメラを数日前から調べたが、不審な人物の出入りはなかった。
捜査範囲を広げたのだが、”須賀谷真帆”を発見する事はできなかった。
25年前に行方不明になっている少女を見つける事ができないまま捜査は暗礁に乗り上げる形となった。
マスコミは連日にわたって好き勝手な事を並べ立てるが、結局何も新しい発見がないまま時間だけが経過する結果となった。
そして、夏休み終盤。
今年も真帆が行方不明になった、小学生4-6年生によるお泊りキャンプが開催される事になった。
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