【第四章 スライムとギルド】第四十四話 そのころ(3)

 

東京の神保町にある雑居ビルが、その協会の登記場所となっている。実際には、理事の全員が揃っているわけではない。受付や職員は別のビルで仕事のような業務を行っている。

日本異能推進協会。通称、日本ギルド。

豪華な部屋で、豪華な椅子に座りながら、送られてきたリストを見ている男がいる。

魔物素材でもっとも価値がある物はなにか?
魔獣のドロップ品は研究材料としての価値が高い。また、牙や爪も装飾品としての価値がついている。
やはり金銭的な価値という意味では、もっとも価値があるのは”魔石”だと思われている。

ギルド日本支部の桐元から連絡を受けた。
正確には、桐元からの連絡は上部の会が受け取ったのだが、におhンギルドに流れてきて、対応を依頼された。

豪華な部屋でニヤニヤしながらリストを見ている男の役職は、両者共に”日本異能推進協会理事”だ。何十人といる理事の中で、数少ない常任理事だ。
部屋の主はとある省庁からの天下りだ。省庁の出世レースで敗れたが、日本ギルドに滑り込めた者だ。
もう一人は、魔物の素材を取り扱う企業からの出向だ。企業体の不祥事に巻き込まれた形だが、出向扱いで日本ギルドに来ている。報酬も、企業に居た時よりも多く貰っている。
普段は、何かと反目している二人だが、今日は機嫌が良い。待ち望んでいた物が手元に届いたのだ。

「スパイから連絡が来たと言うのは本当か?」

部屋の主人である男に向って、部屋に入ってきた男が問いかける。
既に、情報として伝えている。官僚出身の男では魔物素材を捌こうにも、中間マージンを多くとられるルートになってしまう。しかし、元々、魔物素材を取り扱っている企業なら直接的に捌ける。そのために、企業からのバックマージンが期待できる。

「協力者だ。間違えてはダメだ。スパイではない」

部屋の主は、建前を大事にして、いい直しを要求するが、言葉には”侮蔑”の感情が多く含まれる。スパイをしている者への感情なのか、それとも部屋に入ってきた自分よりも劣っていると思える男に向けた感情なのか、言葉を発した本人もよくわかっていない。
自分以外は、全てが愚か者に思えているので、どちらでも同じだと感じている。

「そうだったな。協力者から、奴らが保持している物資のよこながし・・・。正当な所有者への提供が行われるのだろう?」

「まだ、リストの段階ですが、こちらです」

そこには、信じられないくらいの量のアイテムが書き出されていた。
総額として、安く見積もっても2億円にはなる。うまく捌ければ、その10倍にも膨れ上がる可能性がある。

日本ギルドの理事達は、お互いを見て、笑いを堪えるのに必死になっている。

もっとも価値が高いと思われている”魔石”が大量にリストに載っている。

「会からは何か要求があったのか?」

部屋に入ってきた男が、部屋の主に重要なことを訪ねる。
自分たちの上前を跳ねる組織がある。逆らうのは得策ではないのは解っているが、何か言われてから動くのでは、自分の首が飛んでしまう可能性がある。せっかく、旨味が多い立場についている状況を失いたくない。

「直接には」

部屋の主の言葉を聞いて、眉を顰める。
やっかいな展開になっている。要求されるほうが楽だ。

「わかった。売り上げの1割も流せば十分だろう」

「そうだな。海外からの買い付けも期待できるのか?」

「出来ます。特に、魔物が発生しない地域からの引き合いもあるかと思いますが、当協会は、”日本国”のための協会のために、海外には顧客を持っていません」

話をしている者たちではない第三者が海外への販売を行う。
日本ギルドでは、適正価格で販売を行う。上部組織への上納金は、日本ギルドの売り上げに依存している。第三の会社が、日本ギルドから購入した物を別の会社に10倍で転売しても、上納金には含まれない。
転売した会社から、紹介した日本ギルドに紹介料として活動資金という名目で、バックマージンを貰えば、懐も温まる。
そんな未来を考えて、二人は資料に視線を落とす。

「それで、納品は?」

「先方からは、週明けの月曜日に、富士川の楽市楽座で引き渡すと連絡が来ている」

「楽市楽座?富士川の?」

「東名高速の上りのSAだ」

「あぁ車で持ってくるのだな。そうか、かなりの重さになるのか?」

「段ボールで3箱らしい」

「それは、それは・・・。わかった。こちらで手配しよう」

男たちは、自分たちだけが情報を握っていると思っている。
そして、自分たちこそが”正義”で、自分たちの行いに”間違い”は無いのだと思い込んでいる。

「大変です!」

別の男が会議室に駆け込んできた。
会との連絡を主に扱っている者だ。日本ギルドの中では、中堅に位置する者だが、やっていることは重要な仕事だ。ギルド日本支部の監視業務だ。

「何事だ!」

「奴らを監視させていた者が消えました」

「逃げたのか?」

「違います。消えたのです」

駆け込んできた男は、興奮した状態で、説明を開始したが、何も解らない。
ただ、興奮しているのが解るだけだ。

そこに、男の持っていたスマホに着信があり、男が電話に出る。
話している内容は”消えた男”が見つかったという情報と、男が何かに怯えている状況で話が聞けないことなどが報告された。
そのうえで、男が持っていたカメラに動画が残っているので、送るという報告だ。

送られてきた動画を見ても、何も解決しない。

「どういうことだ?」

「わかりません」

ギルド日本支部のメンバーが、ギルドから出てメンバーの部屋に移動する。
そのあとを追って、監視している者が部屋の前に移動する。

移動して、盗聴を開始しようとした瞬間に、動画が途切れた。
見つかったのは、安倍川の河口だ。持っていた身分証や現金は全て奪われていた。スマホだけが残されていた。すぐに、連絡員として静岡に来ている者に連絡をして、安倍川まで迎えに来てもらう手はずを整えてから、異常な状況を報告してきた。
ギルド日本支部があるのは、静岡市の市街地から少しだけ外れた浅間神社の近くだ。それでも、市街地と言ってもいい場所にある。ギルド日本支部の管理をしていて、マンションに突入したのには理由があった。ギルド日本支部のメンバーが集まったのが、自分たちが盗聴器を仕掛けていない場所だったために、壁越しに盗聴が出来ないか確認を行うためだ。
マンションへの侵入は問題にならなかった。宅配業者を装って侵入した。ターゲットになっている部屋の前に移動して、盗聴を開始しようとしたときに、意識が途絶えた。
正確には、暗闇に捕えられた。
狭い部屋に押し込まれた感じがした。そのまま、数分が過ぎた。殺されるのかと思った。暗闇がいきなり晴れた。

スマホで場所を確認してみたら、GPSは安倍川の河口を示していた。
ギルド日本支部から数分で移動ができる距離ではない。

「・・・」

「・・・」

「呼び出せ」

「え?」

「どうせ、盗聴に失敗した言い訳だ?瞬時に移動ができるわけがない」

「・・・。しかし、何かしらのスキルが」

「我らが知らないスキルを奴らが持っているのか?」

「いえ、そうは・・・」

「そうだろう。それなら、盗聴に失敗した言い訳だ。他の奴を派遣しろ!」

指示が出れば、指示を出した者が責任を取る。
不文律として流れている”常識”だ。そのために、指示が出れば、皆がそれに従って動き始める。誰も、自分で責任を取りたくない。そのために、指示が曖昧になる。誰かが決定しているのだが、決定している者も指示を実行したに過ぎないという逃げ道が用意されている。

『マスター』

『ユグドの部屋を探っていた者を捕えました』

『スマホだけを残して、安倍川にでも捨てておいて』

『記憶は?』

『いいかな。ギルドからの要請があれば考えよう』

『はい』

『フィズとドーンとアイズが、尾行したいと言っています』

『そうか・・・。そうだね。どこに行くのか調べておいて、逃げられそうなら、スキルの使用も許可する』

『わかりました』

『ライも行く?』

『もう一つの方に集中するので、フィズとドーンとアイズに任せようかと思います』

『わかった。無理をしないように伝えて、それから連絡が出来るようにしておいて欲しい』

『わかりました』

寂れた港町から大量のスズメと百舌鳥と椋鳥が飛び立った。

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