【第二章 王都脱出】第十一話 おっさん悩む

 

 朝からカリン糸野夕花は食堂で、まーおっさんに自分の考えを伝えていた。

「本当にいいの?」

「はい。自分で考えて決めました」

 カリンからの話は、予想の斜め上で、まーさんは話を聞いて戸惑ってしまった。同時に、困ったことになりそうだと悩み始めた。
 それでも、戸惑っている状況を見せないようにして、カリンの真意を聞き出そうとしている。

「それにしても思い切ったね」

「そうですか?まーさんから言われて、彼ら勇者たちの行動を考えてみました。その結果、最善の方法だと思います」

「そうだね。順番に、対処していくしかないと思うけどいいよね?」

「はい」

 カリンは、まーさんが自分の考えに賛同してくれたと思ったのだが、実際にはまーさんは”なに”も約束をしていない。言質を取られないような言い回しを使っている。悲しいことに、まーさんは、どこに居てもまーさんなのだ。そして、カリンがまーさんの気持ちを悟るのには絶対的に経験が足りていない。

「辺境伯の所では、不安なのか?」

「・・・。はい。辺境伯を信じないわけではありませんが、辺境伯の家臣は?街の住民は?」

「そうだな。それで?」

彼ら勇者たちは、スキルやステータスだよりの戦い方をすると思います。ゲームの様な話ですが・・・。私は、プレイヤースキルを磨こうと思います」

「冒険者になるというのか?」

「はい。そのあとで、帝国以外の場所でも活躍が出来るようになりたい。帝国と王国の間にある森で生活できれば・・・」

 カリンの考えは、帝国と王国の間にあり、魔物が徘徊する森で生活をする。カリンの予想では、彼ら勇者たちがカリンやまーさんを追いかけてくることは無いだろうと考えている。誰かに命令強制すると考えている。そのために、国を出てしまえば、追ってから逃れられる可能性は高い。

 カリンが考えている内容は、まーさんも一度は検討したが、難しいと判断している。
 主に、森での生活の安定が図れるのかわからないからだ。戦闘力という部分でも問題はある。それだけではなく、国々の関係性も解っていない。いろいろ不明な部分が多く判断が難しい状況なのだ。
 自己の安全だけを考えれば、どこの国の領地にもなっていない”森”は潜むのには最適だが、”領地”になっていないのには、なっていない理由がある。
 まーさんは、王都を歩いていて、”命の価値”が想像以上に低いと感じている。奴隷商も存在しているし、スラム街では道端に死体が転がっている。裏路地に足を踏み入れたら、スリだけならましな感じになっている。貴族の馬車が平民を跳ねても、馬車は止まらずに走り去るのは、当たり前のことだ、跳ねられた者が起き上がれないと、ストリートチルドレンだけではなく、身なりがしっかりしている者まで集って身ぐるみを剥いでいく。

 国が領地として考えていない場所。
 盗賊の根城になっていると考えるのが妥当だとう。まーさんが調べた限りだと、森の大きさは”青木ヶ原樹海”と同等だ。樹海の広さを持つ”森”だ。盗賊の根城が一つだと考えるのは無理がある。中心部は、聖獣が住んでいると言われている。入った者は居る可能性があるが、確証がない話で、誰も見たものがいない。森の中心部は、いつしか”誰も立ち入られない”場所だと言われている。中心部だけではなく、森の周辺部以外の場所は、文献や情報を調べても”確実”な情報にはたどり着けていない。魔物に関する情報も錯綜している状態なのだ。

「目標としてはいいと思うよ。まずは、目先の問題を解決していこう」

「はい!」

 まーさんは、カリンの目標を認めつつ、話を直近に考える必要がある物事に誘導する。
 情報が不足している状態では、目標を達成するための、確かな道筋を考えることも不可能なのだ。

「それで、まーさん?」

「ん?」

「王都を出るのですよね?」

「そうだな。逃げ出そうと思っている。俺は、名前を知られていないと思うし、バステトさんは存在さえ認識されていない。カリンも名前が違うから、容姿で手配されない限りは大丈夫だと思う。堂々と逃げ出そう」

「ハハハ。”堂々と逃げ出す”の?」

「あぁコソコソする方が目立つ。だから、辺境伯の馬車が王都を出るときの護衛役にでもなろうと考えている」

「そうですね。時期は?」

「うーん。勇者(笑)たち次第かな・・・。ロッセルに頼んで、状況を調べてもらっているけど、それ次第だね」

 お披露目があるのは確定しているけど、お披露目の前後で王都が混乱するのは解っている。
 入ってくる者たちへの警戒が強くなるけど、出ていく者への警戒はすくなくなると考えている。

「辺境伯には、お土産を大量に渡すから、大丈夫だとは・・・。考えているけど・・・」

「ん?」

「俺たちを、辺境伯が宮廷に売り渡す可能性があるだろう?他にも、ロッセルやイーリスだって同じだぞ?」

「え?だって・・・」

「”だって”じゃない。カリンも、大人が手のひらを返す場面を見てきただろう?」

「・・・。うん」

「辺境伯やロッセルやイーリスが、自分のためにとは考えていない。別の理由があれば、可能性があるだろう?」

「別の理由?」

「例えば・・・」

 まーさんは、極端な例をカリンに説明する。
 たしかに、”無い”と切り捨てることは難しい。そうならないためにも、対策を考えておくと同時に、目的をはっきりとさせておく必要があると、カリンに説明する。

「カリン。俺の目的は、平穏な生活だ。日本に帰ることができれば、それはそれでいいと思うが、どうやら難しい。それなら、この世界で”平穏”に暮らしていければいい。魔物や魔王を倒して、英雄になりたいとも思わない。画期的な開発をして”富”を得たいとも思わない。やりたいことがやれて、手の届く範囲で幸せに慣れれば十分だ。ひとまずは、自分とバステトさんが食べるに困らなければいい」

「うん。私は、搾取されない生活がしたい。自分で、考えて・・・。生きていければいい」

「今なら、搾取する側に回ることも出来るぞ?」

「ううん。それはなにか違う。私は、ちょっとだけ刺激的で、ちょっとだけ楽しくて、たまの贅沢ができる生活がしたい」

「最高の贅沢だね」

「はい!」

「お互いの願いを叶えるためにも、まずは辺境伯に渡す物を精査しよう」

「全部を渡すのではないのですか?」

「うーん。全部を渡してしまってもいいけど、交渉に使えるように優先順位をつけておきたい。勇者(笑)たちが好みそうな物を優先しよう」

「はい!」

 まーさんとカリンは、辺境伯に提供する”物”を選別していった。
 酒類は、蒸留の方法を提供するので、問題はないと考えている。果実酒は、蒸留酒ができれば自然と産まれるだろうと考えている。

 勇者たちが好みそうな”レシピ”に関してもできるだけ提供を行う。
 まーさんとカリンは、異世界物で定番になっている調味料や味塩は提供することにした。発酵食品も考えたのだが、カリンから勇者たちは日本的な発酵食品をあまり食べていないと言われた。しかし、まーさんが食べたがったことや、隠す必要性も少ないということで、提供することにした。勇者の世界にある食べ物だと言うことで、辺境伯の取引に使えるだろうと考えたのだ。
 ボードゲームの類は、辺境伯に渡さないで、自分たちで申請を行うことにした。

 登録者は、第一にバステトさんにしておいて、ダメならまーさんの名前を使うことにした。
 まーさんなら、貴族が囲いに来ても、けむに巻くことが出来るという判断だ。

 二人で決めたことだが、申請に関しては、まーさんは悩んでいた。
 カリンの名前にして、カリンが生活出来る基盤を作ったほうがいいのではないかと思っていたのだ。しかし、申請をした場合に貴族が群がってくる可能性だけではなく、勇者たちの攻撃対象になってしまう恐れもある。
 今の所は、問題は出てきていないが、綱渡りをしている感覚があり、無茶ではないが無理を通そうとしている自覚がある。まーさんは、そんな状況にカリンを巻き込んでいいのか、悩むのだった。

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