【第五章 ギルドの依頼】幕間 ミーシャ
私は、ユーラットのギルドから領都のギルドに栄転となった。・・・・事に、なっている。
実際には、姉さんが裏で何かやったのだろう。そうでなければ、デイトリッヒまで一緒に領都の冒険者ギルドに移動になるわけがない。デイトリッヒは、ギルド職員ではないのだ。それがいきなり領都の冒険者ギルドの職員となる事になったのだ。
そして・・・。今度、何年かぶりにリーゼ様に会える事になった。
姉さんは何年か前にリーゼ様を領都に行かせるつもりだったのだが、ロブアンが反対して流れてしまった。人族の成人が15歳なので、それに合わせてリーゼ様に外の世界を見せる予定だったのだ。そのために、私やラナやデイトリッヒが領都で頑張ってきたのだ。
2年伸びたが17歳になったリーゼ様は領都に来る事になった。私が少し用事で外に出ていた為に、ろくでもない護衛をユーラットに送ってしまった。
それが原因で、リーゼ様がゴブリンに殺されそうになってしまった。
もちろん、護衛を放棄して逃げて、且つリーゼ様の私物を換金したバカどもはデイトリッヒたちが捕まえて私たちの拠点の地下に監禁している。
冒険者ギルドには捕らえているとだけ報告を上げている。
ギルド長は反対したのだが、今の領都でエルフ族が一斉に退去することの方が怖いのだろう。
リーゼ様のお父上が残された技術を失う事はできないのだろう。領主である辺境伯からも言質を取っている。問題は何もない。冒険者たちの処遇は領都にいるエルフ・コミュニティーで処理する事が決定した。
姉さんから連絡は受けた。鉄のような物でできた馬が無くても走る馬車。姉さんからの連絡では、今日の朝にユーラットを出発したはずだ。
それが・・・。
「ミーシャ!ミーシャ!急げ!」
デイトリッヒが慌てて冒険者ギルドの私の部屋に駆け込んできた。
「どうした?」
「警備兵が慌てて出ていった。話を聞くと、どうやらリーゼ様が乗ったアーティファクトが到着した。今、警備兵が周りを囲んでいる」
「え?まだ・・・今朝出たはずだぞ!早くないか?」
「わからん。ただ、鉄でできた馬が居ない馬車だと言っている!」
「わかった。警備兵には話を通してから行くぞ!」
「大丈夫だ。隊長には話を通した」
「さすがだ!行くぞ!(フィジカルバースト)」
デイトリッヒから信じられない報告が来た。
ユーラットを朝出たリーゼ様が到着したという話だ。こんな事なら、屯所に詰めていればよかった。
私は身体強化魔法を発動して全速力でリーゼ様がいる場所に向かった。
警備兵が武器を構えながら囲んでいる。確かに、可愛く素敵に成長されたリーゼ様だ!本当に、すて・・・きに・・・なんですか、その耳は!隣の男が、姉さんから話があった男ですか?姉さんが言っていた通りの耳を見て愕然とした。
姉さんから、ヤス殿がもしかしたら人非人かもしれないと言われた。
まだ確証が無いし突っ込んでも意味が無いからするなと言われた。でも、人非人だとしたら・・・。リーゼ様のお父上と同じなのでしょうか?
”血は争えない”ということでしょうか?
姉さんから託された事は2つ。
リーゼ様とヤス殿を同じ部屋に泊める事。これは、ラナとも話し合った。最初は、ラナとデイトリッヒが反対した。私もラナと同じで反対だったのだが、姉さんから”リーゼの耳を見て判断しろ”と言われた。私たちは姉さんの言葉通りにリーゼ様が来られた時に耳を見て判断する事に決めた。
見事に垂れている。あそこまで耳が垂れるのかというくらいに垂れている。
私もラナもデイトリッヒも納得するしかなかった。
次はヤスの人となりを私なりに判断しろということだったのだが、正直わからない。
アーティファクトを操る事から、姉さんから連絡があった通り神殿を攻略したのだろう。しかし、神殿を攻略できるような武勇は感じられない。デイトリッヒではなく、私が腰の剣を抜いて切りかかれば殺せてしまいそうなくらいだ。
不思議な男だ。それが話をした私の印象だ。
ラナも同じ様に感じていた。
ラナがリーゼ様とヤスを部屋に案内する前に、私に少し待っていて欲しいと言ってきた。
私もラナと話をしたいと思っていたので、宿の食堂で待つことにした。
10分くらいしてラナが降りてきた。
リーゼ様の湯浴みを手伝っていたらしい。リーザ様が湯浴みをしている最中にヤスは部屋の前で待機していたという事だ。
「ミーシャ。どう思う?」
「ヤスの事か?」
「リーゼ様のことを含めてだ」
デイトリッヒは、アーティファクトのことを含めて、冒険者ギルドと警備兵の屯所に説明に言ってもらった。
「どう思うと言われても・・・。リーゼ様は御母上にそっくりだ」
「そうだな。それで、ミーシャ。リーゼ様の耳は・・・」
「最初からだ・・・そうだ」
「最初?」
「あぁヤスが言うには、ヤスがリーゼ様を助けた時から、あんな感じだったと言っていた」
「へ?」
「でも、ヤスはエルフ族の耳の事を知らなかった。知らないフリをしていた」
「そうなのか?」
「あぁリーゼ様も自分からいい出して気がついたようで必死に誤魔化していた」
「そうか・・・それで・・・」
「どうした?」
「あぁ用意した部屋だけどな」
「あぁ姉さんからの指示があった部屋だよな?」
「それが用意できなかった。明日には開くのだが今日は開いていない。それでベッドが2つの部屋に通したら、リーゼ様が少しだけ機嫌を悪くされてしまった」
「ハハハ。何を期待していたのかわからないけど、多分ヤスはベッドが一つならリーゼ様をベッドに寝かせて自分はソファーかアーティファクトで寝たぞ?」
「あぁヤス殿も同じ様に言っていた」
「それで?」
「”帰りも一緒だろう”と、ヤス殿がリーゼ様に伝えたら機嫌をなおされた」
「ハハハ。簡単だな」
「あぁでも・・・」
「そうだな。耳がすごいことになっていそうだな」
「そうだな。それよりも、ミーシャは、ヤス殿と話をしたのだろう?」
「話をした・・・。確かに話はした」
「何を話した?」
「リーゼ様を見捨てて逃げた奴らの事と、リーゼ様がハーフだということを見下しているのは何故だと聞かれた」
「どう答えた?」
「本当のことを答えただけだ」
「それで、ヤス殿は?」
私は、ヤスの返答を素直に答えた。
「ハハハ。予想以上だね」
「あぁ今回も姉さんの目は確かだったということだよな?」
「そうね。そうなると・・・」
「原理主義者がどう動くのか・・・」
原理主義者がどう動くのかはわかりきっている。
神殿は自分たちの物と言い出すに決まっている。姉さんの話しが本当ならヤスは神殿を掌握している。攻略しただけではなく掌握している状態のようだ。でも場所が悪い。他の場所なら静かに暮らせたのかもしれない。しかし、ユーラットの神殿だけはダメだ。
原理主義者には到底承諾する事ができない状況になってしまう。
「リーゼ様の平穏だけは守らないとならない」
「そうだな。でも、ヤス殿と一緒だと難しいぞ・・・」
そんな話しをしている時に、冒険者ギルドから私を呼びに人が来た。
どうやら魔通信が入っているようだ。
これも、リーゼ様のお父上が開発した物だ。原理主義者は忌み嫌っているが冒険者ギルドだけではなく王国や帝国では無くてはならない必需品になっている。姉さんは全部の権利をユーラットのギルドに預ける形にしている。
成人した時に、リーゼ様に渡すのかと思ったのだがそのままギルド管理にしている。今回の資金もそこから出ている。
『ミーシャ!』
「はい。姉さん」
『あんた・・・。まぁいい。あんまり長く話していると、ダーホスがあんまりいい顔をしないからからな』
「はぁ」
『もう準備は大丈夫か?ラナの所の宿は開けさせたか?』
「姉さん。それなのですが・・・」
『どうした?無理なら違う方法を考えなきゃならないだろう?』
「いえ、違います。リーゼ様とヤスはもう到着して、ラナの所で休んでいます」
『どういう事だい?』
「言葉通りです。私も驚きましたが、1時間くらい前に警備兵が・・・」
姉さんに一通りの流れを説明した。黙って聞いてくれたのが救いだった。
『ミーシャ。ヤスは、疲れたと言ったのかい?』
「えぇそうですが・・・」
『なんだい。見たのか?』
「はい。体力も魔力も減っていませんでした」
『なんだって!ヤスは、魔力を使って動かすと言っていたぞ!』
「そう言われても、疲れたと言っていましたが、体力も魔力も充足状態でした。ほかはよく見えなかったのでわかりません」
私は、対象の体力や魔力を見る事ができる”目”を持っている。
数字ではなく、コップに水を満たすようなイメージで見る事ができる。ヤスを見た時に、体力も魔力も充足していた。
『そうか・・・ヤスにはまだ何か秘密がありそうだね。ミーシャ。ヤスを見てどう思った』
「怖かったですね」
『怖い?ヤスならすぐに倒せるだろう?』
「えぇだから怖かった。ヤスが神殿を攻略できたのかわからない上にアーティファクトがまったくわからない。リーゼ様のお父上に聞いた事がある物と同じだとは思うのですが結界が張られていますし自動で動くようです。それに、あまりにもアンバランスです」
『アンバランス?』
「えぇ知識は有るようですが、記憶が無いと言っている。その割には、焦っていない」
『それだけか?』
「いえ、ハーフの話を聞かれて・・・」
ラナにも話をした話を姉さんにもした。
『そうか・・・。それだけ聞くと、あの人とは大きく違うね』
「はい」
『ヤスは、人非人だと思うかい?』
「違うと思います」
『なぜだい?』
「まずひとつは文字を読めていました。ダーホス・・・。いや、姉さんの仕業ですか?ヤスの持ってきた書簡には、大陸語だけじゃなくて、エルフ語が書かれていました。ヤスは、間違いなく読んでいました」
『それはこっちでもロブアンが確認している』
「それだけではなく宿のメニューのハイエルフ語を読んで注文していました」
『やはりね。でも、ヤスはあの人と同じような記号のような文字も読めるようだ』
「ますますわかりません」
『ヤスとリーゼ様は予定通りなのだろう?』
「はい。4泊の予定です」
『わかった。観察を頼む』
「わかっています」
それから小言を言われてから通信は切れた。
すっかり遅くなったが、ラナにも伝言があったので宿屋:三月兎に戻った。
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