仏舎利塔と青い手毬花の記事一覧

2020/04/30

【終章】最終話 始まり

「ママ!行ってきます」

「気をつけるのよ」

「うん。大丈夫。スズとナツミと一緒だから!」

 真帆は学校でいじめられている。家では、”いじめられている”とは言っていない。両親を心配させたくなかったのだ。

 家から出る時には、無理にでも元気に出ようと思っているのだ。
 両親は、真帆の気遣いを嬉しく思いながら、実際に”いじめられている”状態が解っているのだ。放置しているわけではない。学校に相談したが、担任の杉本が出てきて”いじめなんてない”と言うだけだ。校長に話をしたが何も変わらなかった。家族はそれでも諦めなかった。学校が当てにならないのなら自分たちで現状を変えるしかないと考えた。真帆を”いじめて”居る者たちは解っている。いじめている生徒を特定して、証拠を持って家族に苦情を言う。
 真帆の家族は、地方のタブーに触れてしまったのだ。いじめていたのは、この地方で絶対なる権力を持つ3つの家と、それに連なる3つの家の子息だった。

「真帆は、キャンプに行ったか?」

「うん。宮前さんと吉村さんが一緒だから安心出来るわよ」

「そうだな。鵜木先生も一緒らしいからな」

 両親は、鈴と菜摘が一緒だと聞いて安心材料になっていた。しかし、鵜木教諭は移動のときの引率だけで、キャンプには参加しない状況になっていたのを知らなかった。もし、鵜木教諭が参加していたら、これから起こる悲劇は起こらなかった。可能性の話だが、後から”鵜木教諭”が居てくれたらと考えてしまった。それが、鵜木教諭の心をすり減らしていると考える余裕さえもなかった。この町の特殊な状況が影響していた。有名な街道の宿場町にもなっているが、町の東西を狭まった誰も住めない場所となって、南は海が広がっている。北は、低いが山が連なっている。東西南北、全ての方向に抜け出す事が出来ない閉鎖的な空間になっている。猫の額ほどの土地に皆が生活していた。その中でも、海側に住む人間と山側に住む人間で対立が発生していた。

 子供たちは、小学校に集まってキャンプ場まで移動する。子供たちの中にもコミュニティが発生して構築されている。親たちと同じ海と山の区分になってしまっている。小さな町の小さな小学校の中に明確な派閥が出来てしまっている。

「マホ!」

 宮前鈴は、親友の須賀谷真帆を見つけて駆け寄る。

「スズ!あれ?ナツミは?」

「居るよ。ほら・・・」

 鈴は、先生が集まっている所に居る吉村菜摘を指差す。

「本当だ?どうしたの?何かあったの?」

「なんか、鵜木先生がキャンプにいけなくなっちゃったみたい」

「え?」

 明らかに真帆が落胆の表情を浮かべる。鵜木教諭は、いじめられている真帆を庇ってくれる数少ない先生の一人なのだ。そして、スズたちの班を引率する先生でもあるのだ。

「・・・」

「スズ?」

「あのね。杉本が引率になりそうなの・・・。それで、ナツミが鵜木先生に頼みに・・・」

 明らかに、真帆の表情が変わる。

「大丈夫。ナツミが頑張っている。私も、マホの側に居るようにする」

「う・・・うん。ボク・・・。ごめん」

「ほら、マホ。また、”ボク”って言っているよ。那由太さんから言われているよね?」

「あっごめん。ありがとう。スズ」

「大丈夫。私が、マホを見つけてあげる!どんなに、どんなに、マホがイヤって言っても、私がマホと一緒に居るよ」

「うん。ありがとう。ボ・・・。私も、スズとナツミと一緒に居る」

 鈴と真帆は小指を絡めて約束をする。そこに菜摘が帰ってきて、二人に引率は杉本じゃなくなったと説明した。

 3人は、約束をした。
 鈴は、真帆を見つけてあげると・・・。
 菜摘は、真帆を守ると・・・。
 真帆は、鈴と菜摘と一緒に居ると・・・。

 3人の約束は二日後の肝試しの後に破られる事になる。

「マホ!マホ!どこに居るの!出てきて!マホ!」

「スズ!マホは?」

「居ない。仏舎利塔まで行ったけど、誰も居なかった。アイツら!アイツらが・・・!」

 真帆が目を離したすきに逃げて、居なくなった。こっちに帰ってきていないかと杉本が教諭たちに話している。

「宮前さんと吉村さん。須賀谷さんは?」

「居ない。居ない・・・よ。先生。マホはどこ!杉本が知っている!知らないなんて嘘!嘘!嘘!」

 鈴がヒステリックに怒鳴っている。先生方もそのくらいは解っている。解っているが、何も言えない。

「スズちゃん。ナツミちゃん。あとは、私たちが探すから、二人は休んで・・・。ね。お願い」

 先生が跪いて、鈴と菜摘を抱きしめるようにして諭す。
 しかし、二人は首を横にふる。勢いよく横に振るから、涙が先生の顔を濡らす。

「お願い。二人には・・・。ううん。違うね。わかった。私と一緒にマホちゃんを探そう。山を降りちゃったかも知れないから、そっちを探そう」

「うん!」「はい!」

 先生は、二人を連れてキャンプ場の仏舎利塔とは反対側に歩いた。

”杉本が知っている”

 先生方の共通認識だ。
 杉本は、探し疲れたと言って、キャンプ場の事務所に閉じこもってしまっている。立花、西沢、日野の3人を連れてだ。

 他の先生方には、杉本が探していたというのは嘘には思えなかった。
 足が汚れている。生徒たちも手足が土で汚れているのだ。仏舎利塔までの間は草木が生えているが、土で汚れるような場所はない。それこそ、崖を降りたりしなければ汚れることはない。探してきたのだと思ったのだ。

 通報を受けて、警察と消防が集まってきた。
 杉本が、真帆が居なくなった状況を説明している。

 仏舎利塔の手間で崖の方に走っていったと言っている。
 制止したが、周りも暗く、他の生徒が居たので、追いかけるのが出来なかったと言い訳をしている。

 消防と警察は、杉本と3人の生徒の証言から、仏舎利塔近くではなく紫陽花の花が埋まっていない場所から、崖の下を重点的に、捜索を行う。
 先生という職業は”嘘を言わない”と思われている。杉本の証言は、子供たちの話しと合致して。

 鈴と菜摘以外は、皆が信じたのだ。

「違う!先生!真帆は、逃げたりしない!だって、私とナツミと一緒に居るって言った!だから、違う。絶対に違う。逃げない!杉本が・・。杉本が・・・。立花たちが・・・。西沢が・・・。日野が・・・」

「マホちゃん。先生や友達を悪く言わないの。いい。皆が・・・。マホちゃんが走っていったって話しているよ。何か、怖いものを見て逃げたと思うわよ?」

「友達じゃない!マホとナツミだけ!絶対に違う。マホは、二回目だよ?最初だって、怖がって・・・なかった。私とナツミと・・・一緒に・・・。なんで・・・。マホ・・・・。せん・・・。せい・・・。マホを。マホを・・・」

「うん。うん。大丈夫。消防の人も、警察も来てくれた、すぐに見つかるよ」

「・・・」

 鈴は、先生の顔を見つめる。
 涙を流しながら、先生の目をまっすぐに見る。

「先生。マホは、一緒に居る・・・。って、本当だよ」

 先生は、鈴の真っ直ぐな目を見られないで居る。自分自身が信じていない話を、子供に信じさせる事は出来ない。

「わかった。先生とマホちゃんを探そう。絶対に見つけようね。怪我をしているかも知れないから、包帯とか持っていくね」

 一晩中、それこそ、足を棒にして、鈴と菜摘は真帆を探した。
 小学四年生には過酷な状況だ。何度、先生方が寝るように、休むように言っても二人は首を縦に振らない。
 喉が潰れて、声が出なくなるまで、真帆の名前を呼び続けた。

「マホ!マホ!マホ!マホ!マホ!マホ!マホ!」

 真帆に使う予定だった包帯は、鈴と菜摘の足や腕に巻かれた。巻かれた包帯が血で汚れても気にしない。二人は、真帆を探し続けた。

 朝日が仏舎利塔を照らすまで、二人は真帆を探し続けた。
 疲れ切って、気を失うように寝るまで、二人は真帆を呼び続けて、真帆を探し続けた。

 足は土で汚れ、手は草木で傷つき、目は涙で腫れ上がって、それでも、諦めない二人が、真帆の片方の靴を見つけたの・・・だ。

 すべてが遅かった。

(スズ。ナツミ。ごめん。約束・・・。守れない。でも、ありがとう・・・。ゆるさない・・・。許せない・・・。スズ。ナツミ。ありがとう)

 仏舎利塔の周りには、小学生たちが植えた紫陽花が青い花を付け始めていた。

2020/04/29

【第四章 復讐】第六話 最後の1人

 警察の取調室。一人の男が警察官と対峙していた。ドアは閉められている。取り調べの前に、警察官がしっかりと宣誓している。取り調べの様子が録画される事や、記憶として残される事、弁護士を呼ぶのなら先に呼んで欲しいという事だ。

 男は、杉本という名前だ。
 元小学校の教師だ。元というのは、10日前に依願退職しているからだ。依願退職となっているが、スポンサー親戚の山崎からの圧力があり、辞めるしかなかった。本人は辞めるつもりはなかった。来年には、校長が見えていたのだ。校長になってから、無難に6年過ごして、スポンサー親戚の山崎のツテで地方議員になる予定だったのだ。それが全部崩れてしまった。

 杉本は、警察官の質問に黙秘を貫いている。
 証拠が何もないのは解っている。それも、25年も前のことなのだ

「杉本さん。この時計がなんで、須賀谷真帆さんの遺体と一緒に見つかったのか説明してください」

「・・・」

 警察は、同じ質問を繰り返すだけだ。杉本が答えないのも解っている。時間が来るまで拘束して帰す。警察が見張りに着いて数日後にまた呼び出す。繰り返されている。帰しているのには理由がある。

 杉本は、須賀谷真帆殺害の犯人と目されている。同時に、大量殺人事件の次のターゲットだと考えられている。大量殺人の犯人が、杉本を狙うと考えているのだ。そのために、自由にさせる時間を作ったのだ。

 しかし、杉本を狙う者は現れない。警察は、杉本が逃げ出さないかと期待していた。別件になるが、逃げ出した先で警察官の制止を振り切れば、逮捕出来る。逮捕してしまえば、落とせると考えているのだ。
 証拠はないが状況証拠は真っ黒なのだ。当時の記録を精査しても、須賀谷真帆を殺した犯人は立花祐介/日野香菜/西沢円花/杉本保都たもつだと思える。当時の様子を覚えている者は少なかったが、当時の様子が書かれた手記が見つかったのだ。当時の校長が書いたメモで、校長はすでに鬼門をくぐっていたが、遺族が大事に保管していた。警察は、4人+3人の犯行で間違いないと断定したのだが、すでに6人は死んでしまっている。そのために、残された杉本を守る名目で監視しているのだ。

 杉本は荒れていた。
 忠誠を尽くしてきた(と思っている)山崎家や立花家や日野家から見捨てられた。自分は、こんな場所で一生を終わるはずではなかった。立花祐介たちがいじめていた事実を山崎家や立花家から言われて隠蔽した。事故が発生したのはしょうがない。しかし、その事故もうまく矛先を変えることが出来た。それが今になって責任をとれと言われても、両家が余計なことを言い出さなければもっとうまく出来ていた。
 と、考えている。

 山崎家、立花家、日野家は、杉本をかばえる状況ではないのだ。
 特に、日野家は没落への坂道を転げ落ち始めている。誰が流出させたのかわからないが、マスコミが詳細な情報を入手していた。別荘で行われていた、乱交パーティーの様子や反社会的勢力との繋がりを示唆する資料も出てきた。一番問題になったのは、献金ではない金の流れがあった事だ。
 帳簿データまで出てきてしまって、日野は大臣を辞め、議員辞職に追いやられた。それだけで追求は止まらなかった。贈収賄での立件を視野に捜査が進められた。日野の私設秘書が”自分がやりました”的なメモを残して自殺をしたが、自殺にも不自然な部分が多く、追求が日野元議員にまでおよんだ。議員は、わざとらしくTVカメラが来ている前で倒れて、入院した。演技だと炎上した。すぐに、入院した病院が特定され、何も書かれていないカルテまで流出した。
 不可解な事は、それらすべてが内部資料なのだが、なぜか入手できた者たちが居た。入手経路が不明だが、正式な書類なのだ。

「くそ!なんで俺だけ・・・」

 杉本は、外に飲みに行くことも出来ない。マスコミがすぐに集まってくるからだ。
 家にある日本酒を煽る日々を過ごしている。

 何度目かわからない呼び出しがかかった。

 杉本は、警察車両に乗せられて、警察に向かった。

「刑事さん。いい加減にしてください。俺は、何もしていませんよ?」

「そうですか?それなら、知っていることを話してください」

「話していますよ」

「そうですか?それなら、腕時計をどこで無くしたか思い出しましたか?そう言えば、新しい証拠が出てきましたよ」

「え?証拠?」

 杉本は、証拠がないと思っていた。
 実際に、今まで何も見つかっていない。大丈夫だと思っているのだ。

 取調室に通された杉本は、若い刑事が座っているのが気になった。どこかで見た記憶があるが思い出せない。

「杉本さん。この写真に見覚えはありませんか?」

 提示された写真をひと目見て、杉本は顔色が変わる。あるはずがない写真だったのだ。
 杉本と立花と山崎と三好と西沢と日野と金子が、須賀谷真帆を紐で縛って連れて歩いている写真だ。杉本の左腕に、しっかりと時計が写っている。

「杉本さん。この写真は、とある人が見つけてきてくれた物でしてね。内容は、今はいいでしょう。この部分を拡大した物がこれです」

 刑事が杉本の腕を指差している。腕時計が拡大されているのが解る。

「最近のデジタル技術はすごいですね。こんな小さな画像からでも、腕時計の文字盤に描かれている模様がはっきりと見えるのですよ。ほら、これ・・・。須賀谷真帆さんと一緒に見つかった時計と同じですよね?」

 時計の文字盤には、大きく校章が描かれているのが解る。

「あっそうだ。同じ、校章が描かれている物は、杉本さんが持っているはずの時計以外はすべて所在が解っていますよ。そして、次はこれです」

「・・・。え?」

「そうです。須賀谷真帆さんが行方不明になった翌日です。集合写真は見つかりませんでしたが、下山する杉本さんが写っています。時計をしていませんよね?どうしてですか?そして、最後の写真です」

「なんで・・・」

「そう思いますよね。この写真は、肝試しが終わって、須賀谷真帆さんを先生方が探しに行くときの様子ですね。ほら、ここ、杉本さんですよね?」

「・・・」

「拡大したのが、これです」

 刑事が新しく写真を出してくる。

「ほら、これ。杉本さんですよね?それに、腕時計をしていません。どこで無くしたのですか?思い出しては頂けませんか?」

「知らん。合成でもして作られた写真じゃないのか?」

「そう来ますか・・・。いいですよ。今日は、時間もありますからゆっくりお話を聞きますよ。思い出したら、話しかけてください」

 刑事は、そう言って目を閉じた。
 杉本は、写真を食い入るように見る。あの時に、こんな写真を撮った記憶はない。もちろん、写真を撮られた記憶もない。ならば合成なのか?でも、立花や山崎たちがまさにあのときの服装なのだ。須賀谷真帆も覚えている限り、間違いなく同じ姿だ。

 杉本は、写真から目を離して二人の刑事を見る。自分を見ていない。しかし、視線を感じて後ろを振り向く。壁しかないのは解っている。事実、杉本の目には壁しか映らない。刑事を見るが同じ格好だ。

「ひっ」

 写真の須賀谷真帆が、杉本を見た気がした。自分の悲鳴で刑事が反応したのかと見たが、先程と同じ様な姿をしている。
 もう一度写真を見るが、写真の中の須賀谷真帆は同じ格好だ。

「え?ち・・・がう?」

「杉本さん。思い出しましたか?」

「写真がうご・・・いた!」

「杉本さん。思い出しましたか?」

 ゲームの中に居るNPCの様に同じセリフを繰り返す。杉本が必死になって、写真の中の須賀谷真帆が動いたと説明しても、目の前に座る刑事は同じ言葉を繰り返すだけだ。

「なんだよ!!!バカにしているのか!」

「杉本さん。思い出しましたか?」

「いい加減にしろ!写真が動いていると言っている!なんだよ!俺が何をした!何もしていない!知らない!ふざけるな!」

 杉本は、立ち上がろうとしたが立ち上がれない。目の前に座る刑事が、いつの間にか杉本の後ろに回って、肩に手をおいて立てなくしている。

「おい!何をする!暴力か!訴えてやる!絶対に後悔させてやる!」

 記録を付けていた刑事が杉本の前に座る。

「なんだ!俺が何をした!」

「何をした?先生。私の顔を殴ったよね?殴った時に、時計が壊れて、弁償しろと言ったよね?先生。まだ思い出さない?先生。土の中は冷たかったよ。寂しかったよ。苦しかったよ。先生。まだ思い出さない?」

「え?誰だ!」

「先生。まだわからない?私だよ?」

 杉本が最後に見たのは、にっこり笑った。
 須賀谷真帆の顔だった。

「桜。本当なのか?」

「本当だ。杉本が、取調べ中に死んだ」

「どうやって?自然死か?」

「いや・・・。不審死だ」

「不審死?」

「それ以外に言いようがない。多分、病死と発表されるだろうな」

「どういうことだよ?」

「杉本は、取調べ中はいつものように目をつぶって何も見たいし何も答えない状況だった」

「あぁ前に聞いたな」

「突然、喋りだした。『俺が何をした』とか『写真が動いている』とかだな」

「え?」

「事実だ。他に言いようがないしばらく、喚き散らして、急に立ち上がったら、死んだ」

「は?」

「だから、事実だ。何か、頬を殴られた様には思えた。傷も出来ていた。その後、頭蓋事が陥没して死んだ」

「・・・。桜。それは・・・」

「真帆と同じだ」

「そうか・・・。それで、不審死か・・・」

「あぁそうだ」

2020/04/28

【第四章 復讐】第五話 須賀谷真帆

 須賀谷真帆の毛髪は、ナツミが保管していた。正確には、ナツミが子供の時に使っていたブラシに毛髪が残っていた。お泊り会をしたときに、ナツミがマホに貸した物だ。そのまま使わないでしまわれていたのだ。ブラシからナツミとスズ以外の髪の毛を探して、白骨死体から見つかった物と突合した。結果、かなりの確率で白骨死体が須賀谷真帆だと断定された。
 翌日、白骨死体が須賀谷真帆だと確定した。

 記憶を無くしていた、那由太が仏舎利塔に現れたのだ。
 那由太のDNAと白骨死体のDNAが調べられた。兄妹関係が確認されて、行方不明になっていた、須賀谷真帆だと確定した。

 そこから、マスコミは同窓会の事件と結びつけた。
 死者からの報復なのかと怪奇現象のように扱った番組まで有った。実際に、警察の捜査は手詰まりだった。いじめていた人間の殆どが同窓会の事件で死んでしまっている。残されているのは3人だけだ。3人と杉本には護衛として警察が付いたが、監視しているのは誰の目にも明らかだった。
 3人は、親や旦那の権力を使って警察を遠ざけた。自身の安全を図ると言って、姿を消した。

 白骨死体と一緒に見つかった腕時計は、記念の腕時計だった。
 持ち主はすぐに判明した。杉本だ。杉本は、警察の取り調べを受けた。証拠は腕時計だけだ。自供でもしない限り、起訴は難しいと判断されたが、執拗に呼び出しては取り調べを行っている。

 そこに、杉本以外の3人が死んだという知らせが届いた。

(スズが私を見つけてくれた)

 須賀谷真帆は、思考の中で過ごしていた。
 自分が死んだ、殺されたのは理解していた。最終的に、誰に殺されたのか解らなかった。

(スズの知り合いの人が推理してくれた)

(やっと。わかった。本当にお礼をしなければならない人が・・・・)

 真帆は、仏舎利塔の周りに咲く紫陽花を見ながら長い年月を過ごしていた。徐々に、自分が自分でなくなっていくのも認識していた。
 毎年行われる。仏舎利塔を回る肝試しと、その後の紫陽花の植え付けだけが楽しみだった。いつの頃から、紫陽花を植えられなくなったが、肝試しは行われていた。

 最初は悲しかった。辛かった。なんで自分が・・・。そんな思いに支配された。

 真帆の気持ちを抑えたのも、スズとナツミだった。数年経ってから、スズとナツミは、仏舎利塔まで来て手を合わせるようになった。定期的ではないが、思い出した時に来るようになっていた。結婚してからは来る頻度が減ってしまったが、それでも、真帆にとっては瞬きをするに等しい感覚だった。

 真帆の周りには、両親だけでなく祖父母や柚月が集まってきていた。
 兄の那由太は、東京で生活していた。真帆たちは、那由太が生き残ってくれたのが嬉しかった。

 そして、有り余る時間を使って、自分たちを殺した者たちを探し当てた。

 真帆は、本当に殺したい復讐の相手は一人だと思っていた。
 両親が、祖父母が、姉が、真帆をいじめていた者たちを許せなかった。真帆と違って、訪ねてくる者も居なかった者たちは、心が闇に染められてしまっていたのだ。

 復讐劇は始まった。
 真帆の思いとは違う形で開始されてしまったのだ。

(でも、もう終わり。終わらせなきゃ最後の一人は、私が、スズとナツミに謝らなきゃ)

 真帆は、仏舎利塔の天辺に座りながら自分が住んでいた街を見ている。
 そして、ゆっくりと溶けるように姿が見えなくなった。

「桜。本当なのか?」

「あぁ間違いない。日野香菜。西沢円花。立花祐介。3人が死んだ。不審死だ。いや、違うな。日野香菜は、薬物の乱用が原因での事故死として処理される」

「どういうことだ?」

 森下家のリビングに集まっているのは、家主の桜。妻の美和。隣に住んでいる、篠崎克己と妻の沙奈。それと、九条鈴の5人だ。鈴の旦那である進は仕事の都合で時間が合わなかった。

 桜は、調べた内容がメモされた紙を見ながら説明する。現場には出られないので、調べさせた内容なのだ。

「ねぇ桜さん。3人って・・・」

「そうだ」

「でも、マホが・・・。ううん。なんか、違う。マホじゃない」

「そうか、鈴が言うのならそうなのだろうな」

 桜にもわからないが、鈴がそう断言するのなら、マホじゃないのだろう。マホだったとしても、桜には何も出来ない。死んでしまった者を逮捕出来ない。桜は、須賀谷真帆の件で動くつもりはないと宣言した。ただ、鈴が知りたいだろうと情報だけを持ってくると約束したのだ。
 情報も、警察発表に毛が生えた程度の物だ。”毛”が少しだけ長くて、知らなくていい情報まで話してしまったのだが、それは弁護士資格を持つ美和が鈴に忠告する形で収まっている。

「なぁ桜。そうなると次は・・・」

「そうだろうな。杉本だろうけど、何も出来ないな」

「出来ない?」

「鈴。考えてみろよ、『唯が肝試しで、マホから手紙を貰って来て、いじめを告白した。書かれていた3人が全員死んだから、次は先生の番です』なんて話して誰が信じる?一応、警察も杉本を任意で呼んで調書を取っているし、刑事が張り付いているから大丈夫だろうけどな」

「そうなのか?」

「須賀谷真帆を殺した犯人として、杉本の名前が上がっている」

「本当か?」「桜さん!」

「本当だ。連日、取り調べを受けている。証拠が腕時計だけだから、弱いと判断されて、自供を引き出す様に動いているようだが、杉本は黙秘を貫いている」

「え?だって、時効じゃないの?杉本は罪に問えないよね?」

「それは大丈夫だ。鈴。美和。説明してくれ」

「はぁ・・・」

 簡単に言えば、杉本は真帆の失踪事件があって、学校を追われた。その後、海外に研修の名目で数年間留学している。山崎の金でだ。
 海外に言っている間は、時効の時計が進まない。

「へぇそうなの?それじゃ、杉本は真帆を殺した犯人として逮捕できるの?」

「微妙だな。証拠が何もない。腕時計が有っただけだ。杉本は、真帆が盗んだのではないかと言っているようだ」

「なにそれ!あの屑が!真帆を殺しておいて・・・」

「そうだな。でも、鈴。杉本はどのみち終わりだぞ?」

「え?」

 桜が、紙の束を鈴に見せる。

「これは?」

「明日発売の週刊誌の記事だ。東京でブローカーをしている知り合いが送ってくれた。実家まで届かなくて残念だと話していた」

「え?実家??」

 鈴は、記事を読んで、桜を見る。克己も内容を知っている。

 記事の内容は、杉本にまつわる不正と疑惑のオンパレードだ。それに伴い、山崎家に対する疑惑も記事には書かれている。
 誰かからの情報提供が有ったのだろう、腕時計の事や、小学校当時の暴力事件なども書かれていた。須賀谷真帆に関わる事は事細かく書かれていた。

「桜さん!」

「杉本は、終わりだろう?山崎も手を切るだろうし、立花も守らないだろう。”蜥蜴の尻尾切り”だけどな。雅史は悔しいだろうな」

「桜さん・・・」

「すまん。鈴。これが限界だ。あとは、切られ捨てられる尻尾に期待だけど・・・。無理だろうな」

「いえ、雑誌が出たら、仏舎利塔と真帆のお墓に報告に行きます」

「そうだな。真帆がどこに居るのかわからないからな」

 スズは、一人で仏舎利塔に来ていた。
 桜から教えられた雑誌が発売されたのだ。近くのコンビニで買って、そのまま仏舎利塔に来たので中身は確認していない。表紙にはアイドルがにこやかに笑っている写真が使われている。グラビア写真の次に杉本の記事が書かれていた。
 杉本とは名前は出ていないが、目線が入った写真が使われていて、見るものが見れば解るだろう。

 スズは一人で青い紫陽花が咲いていた場所に、花を手向けてから、レジャーシートを敷いて雑誌を広げた。記憶を頼りに、スズはマホが好きだった食べ物や飲み物を用意してきていた。レジャーシートの上に広げた。

「マホ。遅くなっちゃったし、今更だけど、お祝い出来なかった。マホの誕生日会をやろう!参加者は、私だけだけどごめんね。今度は、ナツミも誘ってみるよ」

 そう言って、スズは持ってきた小さいケーキを取り出して、マホが居なくなってしまった翌年から分の誕生日を祝った。
 最後は、涙で何を言っているのか解らなかったが、マホにはしっかりと届いていた。

(スズ。ありがとう。本当に、ありがとう)

 スズは、見えないが確かにマホが居ると確信していた。
 見えないし、声も聞こえないが、マホが居る。マホが居て、自分の行動を見ている。自分がやっている行動を見たら、”笑う”か”お礼を言う”のどちらかだろうと思っていた。そして、後者であると確信している。

「いいよ。マホ。私こそ、探すのが遅くなってごめんね」

(ううん。スズは、約束を守ってくれたよ。ボクを見つけてくれたからね)

「ほら、マホ。また、ボクって言っている。駄目だよ。私って言うの・・・で・・・しょ」

(本当だ。スズ。ありがとう。本当に、ありがとう。覚えていてくれて嬉しかったよ)

「・・・。ねぇマホ。私・・・。やくそ・・・く。守ったよ・・・ね?マホ。お願い。マホ。会いたい・・・。笑ってよ!マホ!一緒に遊ぼうよ!マホ!」

(ごめん。スズ。私、約束を守れない。ごめん。でも、用事が終わったらスズに会いに行くね!会ってくれると嬉しいな。またね!スズ。大好き!)

「あ・・・」

 スズは、近くに感じていたマホの気配が感じられなくなった。マホが消えた事ですべてを悟った。

「マホ・・・」

 スズは、翌日、桜から杉本が死んだと教えられた。
 驚かなかった。やはりという気持ちが強かった。

 そして、ナツミを誘って仏舎利塔に行くと決めた。

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2020/04/27

【第四章 復讐】第四話 立花祐介

 西沢円花が、東京に向けて高級外車を走らせ、日野香菜が別荘で悪態を付いている頃。立花祐介もマスコミから身を隠すように父親から命令されていた。立花祐介は、他の二人と違って細かい指示はされなかった。
 蝿のように集ってくるマスコミに見つからないようにすればいいと考えたのだ。

 立花祐介は、インテリジェンスビル高度情報化建築にある自身が契約した最上階の部屋に居る。
 同級生で、同窓会の時に犠牲となった山崎の実家が持っているビルの最上階をタダ同然で借りているのだ。

 タダ同然というのにも理由がある。毎月の賃料はしっかりと請求されている。月で180万円だ。このクラスのビルでワンフロアーを借り切っている状況を考えれば、適正価格だろう。立花は、”現金で”払っている。ことになっている。領収書も発行されている。浮いた180万は、立花が一ヶ月に自由に使える現金となる。
 山崎の実家としても、地元では絶大な権力を持つ立花家と繋がりを持てるという利点があるのだ。ビルの最上階は、独立したシステムになっていて、セキュリティも万全な状態だ。

 買い物も、ビルの受付に連絡すれば、欲しい物が手に入る。

 立花祐介が、ビルの最上階に避難してから3日が過ぎた。
 ネットもあるので、情報は入ってくる。

 TVでは連日、見つかった白骨死体と同窓会の内容が流れている。新しい情報がない代わりに、かなり突っ込んだ内容が報道されるようになった。

 須賀谷家の家族構成までもが流れ始めた。
 立花家や山崎家や日野家としては嬉しくない情報だ。日野家は、姉である柚月の死に関係している。山崎家は、祖父の死に関係している。そして、立花家は父親と母親の死に関係しているのだ。もちろん、直接手を下したわけではない。金で動く奴らを使ったのだ。

 立花祐介は、父親の地盤を継ぐのは自分だと思っている。弟は居るが、弟は政治に興味がない。そして、立花の家を嫌っている。もう何年も本家に顔を出していない。立花家の人間で連絡先を知る者は居ない。

「アイツら!全員覚えたからな」

 立花祐介の言っているアイツらとは、警察官の事だ。議員の息子である立花祐介でも、今回の事件では参考人として考えなければならない。見つかった白骨死体である須賀谷真帆をいじめていた主犯格なのだ。それだけではなく、同窓会で名指しされた中の一人である。犯人ではないが、何か知っていると考えるのが一般的だ。そのために、警察も立花祐介を呼んで話を聞いた。議員の息子で、次の選挙では父親の地盤を引き継ぐのではないかと言われている人物なので、警察も十分に配慮はした。

 配慮はしたが、立花祐介という男には届かなかった。
 父親に言って、首にするとまで警察の会議室で喚いていた。参考人なので、会議室のドアは開けられているし、弁護士を呼んでも問題はなかった。そもそも、不可能犯罪の捜査をしているのだ、立花祐介が犯人だとは思っていない。

「絶対に許さない。上級国民である。俺を、公務員ごときが呼びつけるだと!」

 立花祐介は、買ってこさせたウィスキーをコップに注いでストレートで煽った。

「ふぅ・・・」

 喉を焼くように流れるアルコールで気持ちも少しだけ落ち着いた。
 立花祐介は、西沢円花や日野香菜の翌日に聴取を受けたのだ。その前から、立花祐介の名前が出ていたために、長期に渡ってビルの最上階での生活を覚悟している。父親からもほとぼりが冷めるまで出てくるなと厳命されている。

 空調を効かせた部屋の中で、立花祐介はウィスキーを飲み続ける。日野香菜の様に薬を使ったりはしない。純粋に、ウィスキーの味を楽しむ。

 自分でも、どのくらい飲んでいたのか判断できなくなってしまった。
 ビルの空調は夜になり弱められている。立花祐介はブラインドを開けて、夜の街を見下ろす。

 立花祐介はこの明かりを見下ろす風景が好きだ。支配している感じがして心を満足させるのだ。

『フフフ』

「誰だ!」

 このビルのセキュリティはしっかりしている。立花祐介が居る最上階には、地下から直通エレベータでしか移動できない。荷物などは小型のエレベータが設置されていて、搬送される仕組みになっている。エレベータも、立花祐介が部屋に居る時には、許可しなければ動かない仕組みになっているのだ。
 したがって、この部屋に自分以外が存在するわけがない。声が聞こえるわけがないのだ。

「気のせいか・・・」

『フフフ。違うよ。立花くん。キミに会いに来たよ』

「誰だ!姿を見せろ!隠れているのか!」

『隠れていないよ。立花くんは逃げているみたいだけどね。ハハハ』

「ふっふざけるな!俺は、逃げていない!うざいから、避けているだけだ!」

『そうだね。そうだね。立花くんが逃げるわけはないよね!』

「当たり前だ!俺が逃げるわけがない!」

『フフフ。ハハハ。キャハハハ。かっこいいね。すごいね。さすが!立花の跡取りだね。西沢さんや日野さんとは違うね。すごいね!』

「西沢?日野?お前は誰だ!?」

 立花祐介は、声がする方向を探すが一定ではない。いろいろな方向から声が聞こえてくる。声も、子供の声だったり、男性の声だったり、女性の声だったり、年寄の声も聞こえる。

 恐怖よりも、わけのわからない状況にイライラが積もっていく。

『誰?わからない?当ててみてよ!当たるまで・・・』

”バッチン”

 何かを殴るような、切れるような音がした。
 立花祐介が開けたブラインドが閉じられた。部屋の明かりが全部消える。映画を見るためだけに付けたプロジェクターの電源が入り、壁に明るく枠が表示される。そこに、小学校くらいの女の子が映し出される。顔は笑っているように見えるが、暗くてよくわからない。

『立花くん!』

「誰だ!お前は!」

”バァン”

「な・・・。ぎゃぁっ」

 立花祐介は、耳に痛みを感じて、手で耳を触るがなんの問題もない。

「隠れてないで出てこい!」

”バァン”

 両方の足首を掴まれて、前に引っ張られて仰向けに倒れてしまった。足首には、ベルトのような物が巻き付いて居る。

「何をする!貴様!許さんぞ!」

”バァン”

 今度は、手首を掴まれた。そのまま手首を足とは反対方向に引っ張られて”大の字”になってしまった。
 首にも同じ様にベルトが巻かれる。”バァン”という音とともに、立花祐介の自由が奪われていく。

 仰向けになった天井に、プロジェクターで映し出されていた女の子が見下ろす形で立花祐介を見る。

『キャハハ。無様だね。見下させる気分はどう?思い出した?』

「貴様!許さない!絶対に、殺してやる!」

『いいよ。出来たら、殺してみて、その前に、立花くんが死なないといいね!そうそう、寝られると思わないでね。簡単に死なないでね!』

「うるさい。さっさとはずせ!今なら許してやる!俺を誰だと思っている!」

『立花くんでしょ?それ以上でも、それ以下でもないよね?早く思い出したほうがいいよ?』

「なっ何を言っている?」

”バァン”

「ん?あぁぁぁギャァァァ痛い!痛い!痛い!医者を呼べよ。俺の指が!痛い。痛い。パパ!」

 左手の小指の第一関節が何かで切られた。

”バァン”

 5分後に、また同じ音が鳴り響いて、今度は、左足の小指が切り落とされる。

「誰か、誰かいないのか!警備員は、何を・・・医者を呼べ!警察だ!早くしろ!」

 立花祐介は、怒鳴るが誰も答える者は居ない。
 まだ死の恐怖は迫っていない。立花祐介は、この状態で気を失いそうになると、指が切り落とされる。

「だ・・・れ・・・か・・・。た・・・す・・・け・・・ろ」

”バァン”

「ひっ!」

 ナイフのような物で腹部を刺されることもあった。髪の毛を引っ張ってブチブチと音を立てて抜かれる事もあった。

 どのくらいの時間が経過したのかわからない。
 最上階の部屋には、朝日が差し込み始める。朝が来て、立花祐介は助かったと思った。朝になれば、異常を感じた警備員が来るはずだと・・・。

 しかし、どのくらい待っても誰も来ない。それだけではなく、開けられたブラインドから注ぐ太陽の光が自分に集まっているようにさえ思える。

「あ・・・つ・・・い」

『キャハハ。暑い?そうだよね。部屋の温度は、40度を超えたよ!どこまで耐えられるかな?早く思い出さないと大変だよ?』

「な・・・ぜ?」

『なぜ?ハハハ。面白いことを聞くね。それを聞いているのだよ?だから、早く思い出してね。それとも、心当たりが多すぎて絞れないの?』

 立花祐介は、最後まで”須賀谷真帆”を思い出さなかった。思い出したのか知れないが、最後まで名前を呼ばなかった。
 動かなくなって、声が出さなくなった時には、両手両足の指がなくなり、太ももに11本のナイフが刺さって、腹部には3本のナイフが刺さっていた。身体を自分の血の海に沈めていた。

『あぁぁ死んじゃった。バイバイ』

「主任!」

「どうした?」

「最上階から緊急連絡です」

「また、あのぼっちゃんの呼び出しか?」

「いえ、違います。本当の緊急通報です」

「何!何があった!」

「わかりません。5分前に一回と3分前に一回です。今、オーナーに確認しています」

「オーナーの許可が出ました。マスターキーで最上階に向かいます」

 ビルの警備員たちが見たのは、すでに事切れて、高級そうなソファーに座って居る立花祐介だ。
 手には、昨晩命令されて買ってきた高級ウィスキーが入ったグラスが握られていた。テーブルには、コップ一杯分が減ったウィスキーのボトルが置かれていた。

 すぐに警察が呼ばれた。
 不思議なことに、30代のはずの立花祐介の肌は60代・・・80代といわれても納得してしまいそうなほどだった。まるで、何日にも日干しにされた様に思えた。

2020/04/26

【第四章 復讐】第三話 日野香菜

 西沢円花が、東京に高級外車を走らせている頃、日野香菜は父親が用意した別荘に居た。

 日野香菜も、西沢円花と同じ様に地元では有名だ。祖父が長年に渡って町議会で委員長を勤めた。地盤を継いだ父親は、町議会から県議会に、そして国政に打って出た小選挙区では相手候補が強すぎて負けてしまったが、比例で復活当選を果たしている。

 その娘なのだ。現在、同じ派閥の議員の息子と婚約をしたばかりなのだ。
 そこに、スキャンダルと言える、同窓会での事件が発生した。日野香菜も他の参加者と同じで参加する予定ではなかったのだが、なぜか参加して事件に巻き込まれた。父親の派閥は、警察関係者も居たために、形だけの調書を取られただけで終わった。婚約者である、議員の息子は次の選挙で父親の地盤を受け継ぐことが決定している。今は、スキャンダルは避けたい状況なのだ。

 日野香菜は、少数の世話をする者と一緒に父親が用意した別荘に避難していた。別荘は、伊豆半島の中央にある小高い山の中腹にあった。別荘に至る道は一本道になっている。道は私有地なので、誰かが勝手に入ってくることも無い。父親が、懇意にしている建築会社に買わせた物件で、元々は派閥の議員たちが使う為に用意した別荘だ。領収書のいらない金の受け渡しや、密会や、それこそ仮面乱交パーティーを催すために使っているのだ。
 私有地の道に入る両脇も、反社会的勢力まるやの事務所があり地元の人間も滅多に近づかない。

「本当に!何なのよ!」

 日野香菜は、自分が置かれた環境に満足していなかった。不満だらけなのだ。
 今まで、ワガママを言い続けて生きてきた。家でも学校でも、それは同じだった。大学を卒業後に、就職するのがイヤで海外留学という名目でカナダの大学に行った。その後、ニュージランドに渡って、フランスで芸術の勉強という名目で贅沢三昧の生活をしていた。曽祖父が築いた財産の残り滓を喰い潰していたのだ。それでも、父親は国会議員だ。ある程度の金を用意する事は出来る。

 資金が有ったのに、フランスでの勉強する堕落した生活から呼び戻された。おかげで、嗜んでいたドラッグの入手も難しくなってしまった。これが1つ目の不満。
 婚約者を親から決められたが問題ではない。相手も愛人や肉体的な関係を持つ友達がダース単位で居る。お互い様なのだ。子供を産めばそれ以外はお互いに干渉しないと決められている。子供も別に誰の子供でも問題なかった。血液型さえ問題なければあとはどうとでもなる。遺伝子検査なんて誤魔化せばいいとまで言われている。しかし、別荘に軟禁された状態では好きなホストも呼べない。昔から身の回りを世話している奴らで満足するしかないのが、2つめの不満。
 3つめの不満は、そもそも、自分は何も悪くないのに、逃げるように隠れなければいけない状況になっていることだ。

 世話をする者たちに当たり散らしても不満が解消されるわけではない。
 従順な者をいじめるのは楽しいが、抵抗する者をいじめるほうが興奮するのだ。自分より若くて可愛い女の男を薬漬けにして、女の目の前で抱かせる。それだけではなく、何人もの熟女に奉仕させる。そして、最後は男性をむかい入れるようにする。女の絶望する顔にたまらなく興奮するのだ。
 目の前に居る男たちはたしかに自分好みの顔をしているが、従順すぎて楽しくない。命令すれば何でも実行するからだ。

 この男たちも後戻りが出来ない所に居る。須賀谷真帆の姉である柚月を犯して殺したのだ。借金と薬で縛り付けられているのだ。

「あぁイライラする。舐めなさい!」

「はい。香菜様」

 男がひざまずいて、言われたとおりにする。

「痛い!下手くそ!」

 香菜は、全裸の男の顔を蹴り飛ばす。男は、頭を下げてから、香菜の前で土下座する。香菜が頭を踏んでから謝罪の言葉を口にする。

「お風呂」

「はっ」

 この別荘は、ホームアシスト機能が充実している。密会現場として使われるので当然だと言えば当然だ。それだけではなく、風呂は離れにあり、露天風呂感覚を味わえるのだ。日野香菜は、この風呂は気に入っている。下々の生活する慎ましい光をみながら飲む高級ワインが最高だと思っているのだ。上級国民である自分に許された特権だと思っている。

 命じられた男が、離れの風呂に行き、綺麗に洗ってからお湯を溜める。日野香菜は、お湯が溜まる前に浴室に入り、男たちに体の隅々まで洗わせる。その後、自分が満足するまで楽しんでからワインを飲みながら風呂に入るのだ。

「ふぅ・・・」

 日野香菜は、身体を満足させてから、湯船に身体を預ける。
 心地よい温度のお湯が心を満足させる。そして、1人になった浴槽で”薬が入った”高級ワインを飲んで更に気持ちを充足させる。

”バッチン”

 何かが切れる音がして、浴室の辺りが消えた。浴槽の中のLDEだけは充電式のライトの為に、7色に光っている。ジェットバスが止まった浴槽には、不自然なくらいの静けさが訪れた。

「なに!なにが有ったの!誰か!すぐに対処しなさい!命令よ!」

 日野香菜は取り乱して大声で男たちを呼んだ。命令と強く言っているが、外からの反応が何もない。

「誰でもいい。早く来なさい!命令なのがわからないの!」

 浴室には日野香菜のヒステリックな怒鳴り声だけが響いた。何も反応がない状況に不満を持った日野香菜は、持っていたグラスを浴室の入り口付近に投げる。グラスが割れる音が虚しく響くだけだ。それでも、誰も現れない。近くにあった、ワインのボトルを投げつける。しかし、激しく割れる音がするだけで、何も変わらない。

「グズ!のろま!さっさと来なさい!私が呼んでいるのよ!早くしなさい!」

”バッチン”

 さっきと同じ音が浴槽に響くだけで何も変わらない様に思えた。

 浴槽に残っていたLEDの明かりが消えた。窓から見えていた家の明かりも優しく光っていた月明かりもなくなった。

 浴室は漆黒の闇に支配された

 外からの明かりがなくなって、唖然としていた時に、後ろから風が吹いた。背中に軽く感じる程度の風だ。

「なっなに?」

 扉からの風ではない。扉が無い場所から風が吹いてきたのだ。

「はっはやく。なんとかしなさい」

 大声をあげて自分の気持ちを落ち着かせようとしているが、逆効果だ。浴槽では大声を出せば響くだけなのだ。

 目の前にあるホームアシスト機能の電源が入った。モニタが明るく光ったのだ。

「ひっ・・・。びっくりさせないでよ。でも、これで・・・」

 ホームアシスト機能が復活すれば、電話も使えるようになるし、外に居る男にも連絡が出来る。日野香菜は、今日は激しくしたから、男どもは母屋に戻っているのだと考えたのだ。

 暗闇に慣れた目には、モニタの光は眩しかった。
 大丈夫だという安心感から、モニタの操作をするために手を伸ばそうとした。

「え?だれ?」

 モニタに、いきなり中学生くらいの女の子が現れた。
 笑っているのだ。

 恐怖心から、モニタに手を伸ばす。

「え?な・・・・。きゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!誰か、誰か!誰か、早く、来なさい。命令よ。すぐに来なさい」

『キャハハ。怖い?怖い?怖い?でも、誰も呼ばないほうがいいと思うよ!』

「え?」

 お湯から出した腕は赤黒く染まっていた。モニタの光に照らされた湯船は、血の海に見えた。

 扉を叩く音で、日野香菜は男たちが駆けつけたと思った。

「早く助けなさい!扉を壊して入ってきなさい!」

 内鍵がかかっている。扉の近くには、ガラスの破片が散らばっている。そして、なぜか・・・自分の足が動かないのだ。日野香菜はさっきから立ち上がろうとしているが、なぜか立てないのだ。それがまた恐怖を煽っている。

「か・・・な・・・さ・・・ま・・・」

「はや・・・く?」

 扉を叩く音はするが気配がない。声は聞こえるが、扉からではない。

「か・・・な・・・さ・・・ま。ご・・・め・・・い・・・れ・・・い・・・を・・・。お・・・ゆ・・・る・・・し・・・く・・・だ・・・さ・・・いィィィィィィ」

 窓を乱暴に叩く音が浴槽に響く。見ては駄目だと頭が訴えている。目の端に信じられない。見ては駄目な物が見えている。綺麗だった顔が崩れ落ちて、目が飛び出ている男たちだ。腕の肉は腐っているように見え、窓を叩いた後に糸を引いたような跡さえ見える。腕だけでなく、身体の肉が剥がれ落ちて内臓が顕になっている。

「ご・・・め・・・い・・・れ・・・い・・・ど・・・お・・・り・・・お・・・か・・・し・・・て・・・こ・・・ろ・・・し・・・ま・・・し・・・た・・・く・・・す・・・りィィィィ」

 日野香菜は面倒になったホストや女を、男たちに命じて殺させている。

「ひっ!知らない。知らない。知らない。知らない。私は、知らない。お父様よ。お父様が悪いのよ!」

『キャハハ。だから、言ったのに!ほら、貴女が好きだった男たちでしょ!愛し合っていたでしょ!中に入れてあげないの?』

 モニタに映っている女の子が日野香菜に話しかける。

「知らない。知らない。こんなの!知らない。夢よ。夢よ!だから、夢よ!」

『そうね。夢なら良かったね』

”バッチン”

「え?」

 明かり何もかもが戻った浴槽で、日野香菜は1人で湯船に浸かっていた。手には、空になったワイングラスがあり、浴槽の中には同じく空になったワインボトルが浮かんでいた。

「ゆ・・・め?そうよね。あんな・・・こと・・・ある・・・わけがない。のぼせちゃったかな。もう出たほうがいいわね。誰か!タオルを持ってきなさい!」

 浴槽から外に声をかけるが反応がない。立ち上がろうとするが、立ち上がれない。

「え?」

 モニタには笑っている女の子が映し出される。

『だから、”夢なら良かったね”と言ったのに、信じないのね。でも、日野さんに取っては、全部が幻みたいな物でしょ。都合が悪い事は、誰かがなんとかしてくれると思っているのでしょうね』

「え?な・・・んのこと?」

『思い出さない?残念。まぁ思い出しても、許すつもりもないけどね。キャハハハ』

「え?」

 日野香菜は、身体が自由に動かない恐怖を感じていた。
 ホームアシストのモニタには、女の子が消えて、浴槽の温度の調整する画面に切り替わっている。

『ほら、早く思い出して!』

「知らない。知らない。知らない」

 日野香菜は慌てだす。当然だ。
 ホームアシストの温度が、43度から、44度に自動的に上がった。1分程度で1度上がる身体を動かして湯船から出ないと、生きたまま・・・。

 湯船の温度も上がってきている。ヒステリックに喚くが、女の子が望んだ答えではない。女の子の笑い声だけ浴槽に響き始める。すでに、温度は50度になっている。日野香菜は、死の恐怖を感じている。徐々に熱くなる風呂に耐えている。喚いても誰も助けが来ない。気を失いそうになると、温度が下がる。そして、また上がる。永遠と思える時間の中、恐怖で気が狂いそうになっている。

『まだ思い出さない?』

「・・・す・・・が・・・や・・・さ・・・ん?」

『当たり!やっと思い出してくれたのね。んじゃバイバイ!』

「え?」

 日野香菜が聞いた最後の音は、自分の心臓が止まる音だったのかも知れない。

 翌日、消防に一本の電話が入る。
 山の中腹にある別荘の離れが燃えている・・・と。

 消防は、電話の発信元にある別荘に駆けつけた。とある企業の保養所になっている別荘だ。消防が駆けつけたときには、離れの火は消えていた。離れに繋がる渡り廊下から失火したようだ。

 しかし、消防はすぐに警察に連絡した。
 警察の上層部は、別荘の本当の持ち主は知っていたが、消防から人が死んでいると言われたら行かざるを得ない。そして、別荘の当たりを管轄していた警察署にも内定が入って上層部から捜査員まで総入れ替えが行われた直後だ。警察の不祥事をもみ消すために丁度良いと思われた。

 警察が駆けつけた別荘は不思議な状況になっていた。
 死体は、全部で4つ。女性が浴室で死んでいる。男性がリビングで椅子に座った状態で死んでいたのだ。男性には目立った外傷も毒物反応もなかった。不審死には違いないが、心不全で処理された。
 そして、警察は別荘を捜査した。女性が飲んでいたと思われる浴室の床に置かれていたワインのグラスとボトルから違法薬物反応が有ったのだ。
 別荘から、収賄罪に繋がる証拠や、スキャンダラスな写真や、20年以上前の未解決殺人事件に繋がる証拠まで出てきて、大騒ぎになった。

2020/04/24

【第四章 復讐】第二話 西沢円花

 西沢円花は、旦那が会社の資金を流用して購入した高級外車を走らせていた。

「なんで私が、私は社長夫人なのよ!」

 旦那のIT企業は本社を地元に置いて、都内に支社を作っていた。規模は、支社の方が大きいのだが、本社機能だけを残している。

「あの人も、あの人よ。今更、なんだって言うのよ!」

 円花は、先日警察から呼び出しを受けた。地元の古くあまり使われていないキャンプ場で白骨化した死体が見つかったのだ。

 同窓会の時に起きた凄惨な事件と相まってマスコミが騒いだ。
 見つかった当初は、20年近く前の白骨死体とだけ報道された。

 数日後、身元が判明してからマスコミの動きが変わった。

”須賀谷真帆”

 見つかった死体の身元だ。
 マスコミや世間は、円花が出席した同窓会で発生した事件と結びつけた。

 そして、どこから情報が漏れたのかわからないが、当時須賀谷真帆をいじめていた生徒が居たと報道した。
 名前までは出ていなかったが、とある雑誌社がイニシャルで報道した。

 地元では有名な話だったので、覚えている人も多かった。
 そのために、円花だけではなく旦那の会社にも影響が出始めてしまった。

 旦那は、”円花のためを思って”というもっともらしい理由を付けて、円花を地元から遠ざけた。

 地元が好きではなかった円花は、旦那の話を受けて、都内のホテルでしばらく身を隠すことにした。

(無駄だよ。どこに隠れても見つけ出すよ)

「え?なに?」

 円花は、子供の声が聞こえた気がした。

 マホの復讐は始まったばかりだ。

 円花は、旦那に指定されたホテルにチェックインした。部屋はセミスイートだ。旦那からはおとなしくしておくように言われていたが、円花が従うわけがなかった。
 泊まった部屋がスイートではなかったと、旦那に電話で抗議した。それだけでは怒りが収まらなかった円花は旦那の会社の支社に電話をかけて、数名をホテルに寄越すようにお願い命令した。1人では何も出来ない自分の世話をさせるためだ。地元なら許されたかも知れない行為だが、東京では許されなかった。すぐに、支社から本社に連絡が入って、社長である旦那に抗議が入ったのだ。売上を支社に依存している関係で、強くも出られない状況で丁寧な苦情を旦那は聞かされ続けた。

 円花が従業員召使いが来ない状況に痺れを切らして支社に電話をかけるが、誰も出ない。無視されたと考え、旦那に電話をかけるが、旦那にも繋がらない。

 イライラが収まらない円花は、ルームサービスで一番高いワインを注文する。
 注文は、端末からする仕組みになっていて円花が望んだワインの注文は受け付けられた。

 しかし、何分待ってもワインが届かない。円花は、フロントに電話をかけるが繋がらない。泊まっている部屋がセミスイートなので専属のコンシェルジュサービスが付属しているのを思い出して、コンシェルジュを呼び出すが反応が無い。

「どうなっているのよ!!!」

 円花は持っていたグラスを窓に叩きつける。グラスが割れる音だけが部屋の中に響くだけだった。

 円花のスマホが鳴った。旦那からの折返しかと思って、スマホを見るが知らない番号からだ。

「誰?クズ?ルームサービス?さっさと持ってきなさい!それから、グラスが割れたから、片付けもしなさいよ!」

 いきなり相手を確認しないで自分が言いたい事を言い放つ。

『西沢円花さん。貴女は、旧姓も西沢でしたね。須賀谷真帆さんの事で聞きたい事があります』

「何よ!須賀谷真帆なんて知らないわよ!誰!名乗りなさい!私は、西沢なのよ。社長夫人なのよ!無礼よ!」

『貴女はそういう人でしたね』

 電話の声色が変わった。男性の声から、急に女性の声になった。喋り方も柔らかくなる。

「誰!私のことを知っているのなら、私がどんなに偉いのかすごいのか知っているわよね!」

 ヒステリックに喚く円花の声を聞いて、電話の相手は静かに笑っただけで、円花の反応を楽しんでいる様子だ。

「誰なの!!私は忙しいの!いい加減にして!」

 円花は、スマホを操作して通話を切る。

 急に、部屋のTVの電源が入って、女の子の後ろ姿が映し出される。
 TVから声が聞こえてきた。

『西沢さん。偉いのは、貴女じゃないでしょ?貴女が出来たのは、須賀谷真帆さんに暴力を振るうことだけですよね。それも、周りに人が居ないと何も出来ない』

 円花はTVのリモコンを持って、電源を落とそうとするが、電源が落ちるわけがない。
 TVに映っている女の子のシルエットも最初は1人だけだったのが、徐々に増えてすでに10人にもなっている。円花が、リモコンを乱暴に操作するのに合わせて、笑い声をあげている。

『こうやって、よく笑っていたよね』

 TVの真ん中の女の子が振り向いた。顔はよくわからない。
 その子が、円花に話しかける。

 錯乱した円花は、リモコンをTVに投げつける。激しい音が部屋中に鳴り響いて、TVから女の子が消えた。

「知らない。知らない。私は、なにも知らない!私が何をしたの?私は選ばれた人間なのよ!こんな事!おかしい!おかしい!おかしい!」

『おかしくないよ!西沢さんは、昔から変わらないね。自分が気に入らない事があるとすぐに逃げたり、言い訳したり、誰かのせいにするよね!』

 セミスートの窓に、1人の女の子が居て、円花に話しかける。

 隣の窓にも女の子が現れる。

『西沢さん。須賀谷真帆さんが大事にしていた筆箱を捨てたのは、貴女だったよね』

 その隣にも・・・。順番に、部屋にある窓やガラスに女の子が現れて、西沢が真帆にした行為を笑いながら話し始める。

「ち・・・ちがう・・・。わた・・し、かん・・・け・・・い・・・な・・・い。し・・・ら・・・な・・・・い」

『『『『そう?知らないの?だったら、いらないね。殺しちゃう?』』』』

 女の子たちが声を揃えて円花に話しかける。

「え?」

『『『『だって、西沢さん。必要ないなら死んじゃえと言ったよね?』』』』

『『『『言った。言った!』』』』

「言って・・・ない」

『『『『言ったよ!仏舎利塔で時計も探せないのなら死んじゃってもしょうがないねと言ったよ!』』』』

「・・・。ゆ・・・る・・・し・・・て。あれは、そう!先生が・・・。そう!先生が悪いの!私は悪くない!私は、何もしてないよ!須賀谷さん何でしょ!許してよ!もう・・・。昔の話・・・」

『『『『昔!?』』』』

 円花のセリフに女の子たちが激しく反応する。
 部屋の明かりも心臓が脈打つように点滅し始める。円花の心臓にリンクしているかのように点滅も徐々に早くなっていく。

「そう、昔の話!私も、反省している。許して。許して・・・。許してください」

 床に頭を付けるようにして、何に謝っているのか、わからないが、円花は必死に謝った。このままでは、殺されると思ったのだ。

『『『『ふーん』』』』

 明かりの点滅が少しだけゆっくりになった。
 円花は、許されたと甘い考えが頭をよぎった。自分が謝っているのだから、許されて当然だと思っているのだ。

 最初に窓ガラスに映った女の子が振り向いた。

『西沢さん。須賀谷真帆さんがそうやって謝った時に貴女は何をした?』

「え?」

 円花はそんな事を覚えているわけがない。

「わたし・・・。そう!須賀谷さんを許して、立たせて、膝に着いた汚れを払ったよ!そう、そう、私は何も悪い事はしていない。許してあげたよ!」

 もちろん、そんな事はない。
 何も悪くない真帆を、ただ前を歩いていたというだけで、真帆を後ろから蹴飛ばして、土下座させて、謝る真帆の頭を足で押さえつけた。その後で、何度も何度も笑いながら背中を蹴ったのは、西沢円花なのだ。

 窓ガラスに映った姿は、小学校のときの西沢円花にそっくりだった。
 悲しそうな目をして、大人になった西沢円花を見ている。

『『『『ふーん。そう?だったら、立っていいわよ?立てたらね』』』』

 顔が解る女の子以外の女の子が一斉に喋りだす。

「え?は?」

 円花は、立とうしたが、膝から下に力が入らない。

「さ・・・。さむ・・・い。し・・・にた・・・・くな・・・い。わ・・・た・・・・し・・わ・・・く・・・・・ない。な・・・ん・・・で、あ・・し。わた・・・しの・・・な・・・い・・・の?」

 円花の最後の声を聞いた者は居なかった。

 翌朝、朝食を持ってきたボーイが目にしたのは、膝から下が切断された状態で横たわる西沢円花の姿だ。
 部屋の中央で土下座の格好になっている西沢円花が、目の前にある自分の足に手を伸ばして息絶えている状況だ。スマホには、西沢の旦那や支社からの着信が数十件残されていた。

 不思議な事に、遺体からは血が一滴も出ていない。部屋にも、血の匂いも荒らされた様子もない。グラスも割れていないし、TVも壊されていない。円花の部屋には、封が開けられていない。高級ワインが一本だけ置かれていた。

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2020/04/06

【第四章 復讐】第一話 赤い手毬花

(スズ。ありがとう)

「え?」

 私は、掘り起こした場所を、”ぼぉー”と眺めている。

 本当に、マホが見つかるとは・・・。違う。まだ、マホだと・・・。ううん。マホだ。私の記憶している服装と同じだ。片方の靴が無いが、マホがよく履いていた靴だ。スカートも破れているが、マホが着ていたスカートと同じだ。

 誰が・・・。いや、解っている。杉本だ。許せない。許せない。許せない。

 許せなければどうしたらいい。

 そうだ、簡単だ。

 マホと同じ苦しみを味わえばいい!

 そうだ、殺そう。

 簡単だ。

 立花を、西沢を、日野を・・・。

 杉本を殺せば、許せる。

 苦しめばいい。

 マホを殺した、マホを放置した、マホを苦しめた。

 奴らなんて死んで当然だ。死ねばいい。

 私が殺してやる!

「鈴。鈴」

 肩が痛い。何?

「え?」

 克己さんが、私の前に座って・・・。え?

「鈴。いいか、杉本は、桜が対応する。いいか、お前は動くな。いいな。絶対だぞ!進や唯を悲しませるな!お前がしなきゃならないのは、日常に戻る事だ。進や唯が待つ日常だ。お前が本来守るべき場所だ。間違えるな!間違えるのは・・・。一人・・・。いや、二人で十分だ!」

 真剣な目で克己さんは私を見る。

 何を当たり前の・・・。言っているの?唯と進さんが大事にきま・・・。

 え?

 私、今・・・。何を考えていたの?

「・・・」

「鈴。いいか、間違えるな。マホの死に、お前は責任を感じなくていい。殺した奴、埋めた奴らが報いを受ければいい。復讐するなら、マホや那由多がする。柚月だって考えているだろう。お前が考えることじゃない」

「・・・。うん。ありがとう」

 克己さんが、私の肩に置いた手を離してから立ち上がった。

「(よかった)」

「え?」

「鈴の感じが、彼らに似ていたからな」

「え?」

「もう。大丈夫だろう。鈴。いいか、マホが死んだことに、お前に責任はない。間違えるなよ。間違えると、お前の大事な物を失うからな」

「うっうん」

 克己さんが何を言いたいのか解った。
 あの事件のことだろう。桜さんと克己さんの二人が解決した悲しい事件。

(そうだよ!スズ。あとは、私がやるから大丈夫!フフフ。やっと始められる。やっとだよ)

「え?克己さん。何か言った?」

「俺か?何も?何かあったのか?」

「ううん。子供の様な声が聞こえただけ」

「そうか、マホがお礼を言っているのかも知れないな」

「そうだね。あれ?そう言えば、沙奈さんと美和さんは?」

「美和は、桜を呼び出すための手続きに入った。沙奈は、美和に着いていった。花を買いに行った。青い紫陽花・・・。青い手毬花ばかりじゃ寂しいだろう」

「そうだね・・・。紫陽花の花は綺麗だけど、少しだけ怖い・・・」

「そうだな」

「ねぇ克己さん。手毬花って何?」

「ん?紫陽花の別名だ」

 克己さんが持っていたスマホを操作して私に見せてくれた。

手毬花テマリバナ紫陽花の別名』
手毬花テマリバナの花言葉:私は誓います、約束を守って、天国、華やかな恋』

「え?紫陽花の花言葉と違うの?」

「さぁな。俺は詳しくないからな。でも、紫陽花の花言葉である『移り気』『浮気』『変節』よりは、手毬花の方がいいだろう?」

「そうね。天国に行っているかわからないけど、マホは約束を守ってくれる」

(うん!スズも約束を守ってくれたよ)

 懐かしい声が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。

 克己さんが居ない?
 どこに・・・。

「克己さん?」

「すまん。こっちだ」

 青い紫陽花の向こう側に行っているようだ。

「どうして?」

「紫陽花がどのくらい花を付けるか知らないけど、鈴の話だと、鈴たちは紫陽花を植えていないのだろう?」

「うん。記憶では準備だけして植えなかった」

「俺たちは、元々植えてあった紫陽花の手前に植えた記憶があるが抜いた記憶はない」

「うん」

「そうなると、この紫陽花は鈴たちの前年に植えられたのだろう」

「そうですね」

「鈴。夢の中で、マホは”時計を投げつけられた”と言っていたよな?」

「え?あっ。そうです」

「それも、肝試しの最中だよな?」

「そうですね」

「投げた、腕時計を回収する時間が有ったと思うか?」

「え?後から拾いに来たのでは?」

「俺の記憶が正しければ、杉本はマホが行方不明になったと報告して、探しに行かなかった。その後で、責任を取って謹慎処分になった。それから、別の県に移動になったと思うのだが?」

「全然覚えていない。ごめんなさい」

「いいよ。探しに来て、持って帰った可能性もあるが、多分、探しに来ていないしと思う。翌年から、キャンプ自体は残ったけど、肝試しに仏舎利塔は使わなくなったと思うから・・・。どこかに壊れた腕時計が・・・」

「克己さん。そんなに必死にならなくても・・・。マホだって・・・」

「そうだな。でも、美和の探しものに来たのだから周りを探しておかないとおかしいだろう?それに・・・」

「それに?」

「マホだって証明できる物がないからな」

「だって・・・。私・・・」

「そうだ、夢の話だけだ。骨だけだ」

(大丈夫。お兄が居るよ)

「克己さん。那由多さんなら」

「そうだな。でも、那由多は記憶を無くして、別人になって生活している。頼めると思うか?マスコミが集ってくるぞ?」

「あっそれなら・・・」

「歯型とかいろいろ考えられるけど、マホが歯医者に行っていなければ無理だし、歯医者が潰れているだろう?残っているとは思えない」

 たしかに、あれから街にあった歯医者は潰れてしまった。
 新しく歯医者ができたが、カルテやレントゲンが引き継がれているとは思えない。

 そういいながらも、克己さんは紫陽花の根元や離れた場所を掘り返している。

「そう言えば、克己さん。なんで、青い紫陽花の手前を掘ったのですか?」

「ん?周りは、ピンクの紫陽花だろう?」

「はい」

「マホが居るなら、青い紫陽花の場所だと思ったからだぞ」

「だから、なんで、獣道のすぐ脇で、紫陽花の手前を掘ったのですか?」

「酸性とアルカリ性の話を覚えているか?」

「はい」

「仏舎利塔から流れ出た雨水が土壌を変えているのなら、仏舎利塔と青い紫陽花を結ぶ直線上にあると思うのが妥当だろう?それに、鈴の記憶では、居なくなったと騒いだ奴らがいたのだろう?それほど遠くに埋めるのは無理だろう?靴やスカートの一部が見つかっているから余計に・・・。な」

(お兄の友達ってすごい)

 誰かまた何か言っているようだけど・・・。

「おっ戻ってきたな。これからは、桜の仕事だな」

 遠くから、私と克己さんを呼ぶ声が聞こえる。美和さんと沙奈さんが帰ってきたのだろう。

「美和。桜は?」

「一時間くらいで来るよ。鑑識を手配するから、”もうこれ以上何もするな”と言っていたよ」

「了解。花を手向けたら、駐車場に戻るか」

 そういいながらも、まだ地面を掘り返している。

「克己さん。桜さんから、”美和の忘れ物は、覚えていた場所が間違いで仏舎利塔の反対側から見つかる”そうですよ」

「わかった。それなら、もう探す必要はないな。駐車場で待っていよう。案内は、俺と沙奈でやるから、状況の説明は美和と鈴で頼むな」

 それから、打ち合わせと称した雑談を行った。マホには悪いとは思ったが、もう少しだけ待ってもらう。

 45分後に、桜さんを先頭に警察が6人やってきた。
 私と美和さんは、桜さん相手に説明を始めた。完全に茶番なのは本人たちが解っているが、桜さんと一緒に来た警察官に説明しなければならない。捜査一課の人だと教えられた。桜さんが信頼する数少ない警察関係者だと言っていた。

 私が、首かり同窓会事件の時に現場に居たのを桜さんが説明して無理やり連れ出したのだと言っていた。
 マホだとわかれば、事件が動く可能性が有るためだ。実際に、マホなのだ。そうなると、あの事件は誰がやったのだろう?ぼんやりと考えている間に、美和さんによる状況説明が終わった。

 克己さんと沙奈さんは、鑑識と桜さんの部下と挨拶した女性の警察官を連れて、マホの所に移動した。

「警部。白骨が出ました。年齢は、10歳前後だと思われます。確実ではありませんが全身です。服も見つかっています。女性ものです」

「桜。ここからは、捜査一課の仕事だ。資料課は遠慮してくれ」

「解っています。後でお茶菓子を持って伺います」

「そうだな。2日・・・。いや、3日後にしてくれ、お茶菓子と一緒に、10歳前後の女児の行方不明リストも頼む」

「わかりました」

 警部が仏舎利塔に向けて走っていった。

 入れ替わるようにして、克己さんと沙奈さんが女性警官と戻ってきた。

「さて、克己。沙奈。鈴。悪いけど、もう少し付き合ってもらうぞ」

 マホが見つかったら、事情聴取は必須だから帰るのが遅くなると言われていた。進さんにも連絡は入れてもらっているので大丈夫なので、桜さんの問いかけにうなずく。

 先日は、容疑者の1人のような扱いだったが、今日は美和さんが居るので、扱いが違う。
 それに、白骨化した死体を見つけたのだ、今の段階では扱いが違っていて当然だ。聞かれる内容も、事前に桜さんから教えられているので、スラスラではないが答えられる。それに、今日は応接室みたいな場所で、克己さんや沙奈さんも一緒だから気分的にも楽なのだ。

 それでも、2時間くらいはいろいろ聞かれた。

 警察署を出る時には、すでに暗くなってしまっていた。
 進さんに連絡したら、もう夕ご飯も食べ終わっていると言われたので、克己さんと美和さんと沙奈さんに誘われて、丸大飯店にご飯を食べに行った。

「鈴」

「はい?」

「マホの髪の毛とか持っていないよな?」

「えぇ・・・。無いと思う・・・」

「そうだよな・・・」

「どうして?」

「マホだと証明するために、マホの髪の毛があればと思っただけ・・・」

「あ・・・。そうね」

(スズ。なつみの家にお泊りした時に、みんなで・・・)

2020/04/05

【第三章 託された手紙】第六話 青い手毬花

「それで、沙奈。いつにする?」

 克己が沙奈に予定を訪ねる。

「そうね。美和さん。次のお休みは?」

 沙奈は、美和の予定に合わせるようだ。

「土日なら休めるわよ」

 鍵となる鈴の予定を最後に聞いたのは、鈴の予定次第でスケジュールを決めなければならないためだ。

「鈴さんは?」

「え?あっ私も大丈夫だけど、進さんが休みの時がいいかな?唯をお願いできる」

 鈴はいつでも大丈夫だというが土日だと唯の学校が休みで家に居る。
 進が居ないと1人に鳴ってしまうのは心配だと考えた。

「それなら、土曜日だな。日曜日は呼び出しがあるかも知れない」

「桜さんも、土曜日なら家に居ますか?」

「大丈夫だ」

「それなら、土曜日の午前中に動きましょう」

 沙奈が時間を決める。

「なぜだ?」

 進が沙奈の決めた時間を疑問に思う。

「まずは、一度場所を見て軽く掘ってみて、見つからなければ、本格的に掘るための道具を取りに戻る必要があるでしょ?」

「最初から用意しておけばいいのでは?」

 進が当然の疑問を口にするが、沙奈ではなく克己が進に説明する。

「進。俺たちは、偶然居合わせて、偶然マホを見つける。そうでなければ、鈴が疑われてしまうだろう。西沢や日野が鈴やなつみを殴った過去を思い出したら厄介だ」

「あ・・。そうだな」

 克己の話で、進は設定やら手紙の内容を思い出した。
 マホからの手紙というだけで眉唾だが、鈴がマホの字だと言っている。桜や克己も、マホからの手紙だと断定して動いている。

「なぁ桜」

「ん?」

「素朴な疑問だがいいか?」

「あぁ」

「桜も克己も、鈴が持っている手紙を、マホが書いたと断定しているよな?俺や鈴が書いたと思わないのか?」

「ハハハ」「・・・。ハッ」

 桜は笑いだして、克己は笑うのも億劫なのだろう、苦笑したのにとどめた。

 質問されたので、桜が進に考えを教えるようだ。

「進。手紙の内容は覚えているよな?」

「あぁ」

「鈴が知っているのは、殴られた事実や、傘を隠された事実だ」

「そうだな」

「時計の話や、傘を壊されたのは知らない」

「かもしれないが」

「それに、鈴や進にはメリットが全く無い」

「え?」

「順番が逆なら、俺は鈴を疑うだろう」

「順番?」

「あぁ同窓会が行われる前にこの手紙を見せられて、同窓会が行われていたら、鈴と進を疑う可能性だってあった」

「順番が違っても、怪しいのは同じだろう?それに、マホからの手紙だと断定するよりも、鈴や俺の自作自演の方が自然な考えだろう?」

「だとよ。克己はどう思う?」

「進。この手紙の話を、鈴が俺や克己や美和に直接持ってきたのなら、自作自演を疑った可能性は高い」

「え?」

「忘れていないか?この手紙を持ってきたのは、唯だぞ?」

「だったら・・・」

「そうだな。お前か鈴が持たせたと考えるのが自然だろうけど、唯は”肝試しで貰った”と言っている。渡された手紙だと言っている」

「それを信じるのか?」

「当然だろう?唯は1人の人間だぞ?その証言を信じないでどうする?」

「・・・」

「それに、もし、鈴が先生や他の生徒に頼んで唯に手紙を渡すようにしたとして、すぐにばれるよな?」

「・・・」

「そういう事だ。だから、手紙はマホが書いたと考えるのが自然だ。秘密の暴露もあるし、マホじゃなければ、マホを殺めた奴が書いたのだろう」

「そうか・・・。すまん」

「気にしなくていい。疑われる危険性を考えれば当然の質問だ。だからこそ、手紙ではなく夢の話にしておいたほうがいい」

「わかった」

 男性陣の会話を聞いていた美和が新しい紅茶を入れる。
 沙奈が鈴を誘って家にお菓子を取りに戻った。日程も決まったので、眠くなるまで昔話しに花を咲かせたのだ。

— 後日

「進さん。行ってきます」

「うん。唯は任せろ。ショッピングモールに連れて行って、向こうで何か食べてくる。夕ご飯も、適当に食べてくるから安心していいよ」

 進は、克己からマホが見つかった時には、帰るのが遅くなるだろうと説明した。
 警察に説明しなければならないためだ。美和が居るので長時間の拘束は無いだろうが、それでも夜になってしまうと考えられた。

「わかった」

「鈴」

「ん?なに?」

「・・・。いや、なんでもない。無理しないようにね」

「はい」

 進は、正直に言えば引き止めたかった。
 本当にマホが見つかれば大変な状態になる。見つからなければ、鈴や唯に何かあるかもしれない。

 桜は手紙の件があってから、警察内部に張り巡らされた情報網から情報を集めた。使える人脈を使って話を聞いた。

 鈴の同級生にも話を聞いて、マホをいじめていた連中を絞り込んだ。
 いじめていた連中は、死んでいたり行方不明になったりしている状態だ。わかっているので、立花・西沢・日野・杉本だけが生きていると解っているのだ。

 この4人は渋っていたが、同窓会の招待状がこの4人と同窓会で殺された連中には、須賀谷真帆の名前で送られてきていた。
 殺された連中は捜査段階で解っていたが、新たに4人が加わった。

 桜が警告を出す前に、杉本を除く3人には警察が張り付いた。
 須賀谷真帆か、犯人が接触してくる可能性を考えたのだ。それ以外にも、立花には雇われた護衛がついた。日野と西沢も規模の違いはあるが、護衛がついた。

「桜さん。行ってきます。ユウキをお願いします」

「大丈夫だ。タクミとおふくろに預けてくる」

「それなら大丈夫ね。タクミが一緒ならご飯も食べるし、勉強もしてくれるでしょう」

「そうだな。美和」

「なに?」

「その・・・。なんだ・・・。無理するなよ」

「フフフ。解っています。私が無理して倒れたりしたら、彼と彼女に申し訳が立たないからね」

「そうだな。マホが見つかったら、彼らに会いに行ってもいいな」

「・・・。そうね。申請すれば許可されるでしょうし、彼らにも報告をしたほうがいいでしょうね」

「そうだな。那由多の事も覚えているだろうし、他にもいろいろ有ったからな」

「そうね」

 美和は、自分の車の鍵を持って玄関から出る。
 同じタイミングで隣の家から、タクミを連れた沙奈が出てくる。沙奈は、そのままタクミを桜に預けて、克己が暖気していた車に乗り込む。

 美和は、鈴を途中で拾ってから、キャンプ場まで行くのだ。

 標高こそ低いが、狭い道が続いている。崖にはガードレールがあるが、長年放置されているので、果たしてガードレールとしての役割を果たしてくれるか不安にもなる。車一台がギリギリ通れる幅の道が頂上付近にあるキャンプ場に向かうのだ。

「克己さん。イオンに寄って欲しいのだけど?」

「ん?イオンは、いつもの所でいいのか?」

「えぇお願いします」

「何か買うのか?」

「そうですね。お花を買っていこうと思いまして」

「ん?マホ・・・。あっそうだな。途中にあるな。寄っていかないとダメだな」

「はい。お願いできますか?」

 克己と沙奈は、途中にあるイオンで花を買った。通称”ひげ道”を登った場所にある用水路。今はもう綺麗になってしまった場所に花を手向ける。
 線香に火を着けて用水路の脇に桜と克己と彼が作った、小さな・・・。本当に小さな墓標に手を合わせる。墓標に書かれた名前は雨風に削られて判別できないが、桜と克己と彼にとっては大事な場所なのだ。

 数分間、黙祷をした克己は目を開いて、膝に付いた土を払う。

「よし。行くか」

 沙奈も克己に合わせて立ち上がる。

「はい」

 もう少しあがると民家もなくなる。

 今日は、キャンプ場が開かれていない。
 美和の車を見つけて近くに停める。

 美和と鈴は先に行ったようだ。
 克己と沙奈は靴を履き替えて、仏舎利塔を目指す。

 キャンプ場の駐車場からは1.2キロほどだと記載されている。

 二人は黙って歩いた。
 足跡から、鈴と美和も同じ道を通ったのだろう。

 ゆっくりとしたペースで歩いて仏舎利塔にたどり着いた。

「美和さん」

「鈴?」

「いえ、なんでも無いです。克己さんたちを待たなくていいのですか?」

 早めに着いてしまった美和たちは駐車場で待っていたのだが、独特のエンジン音がする克己の車が近づいてきていないのを悟って先に行こうとしていた。

「大丈夫よ。目的地は同じなのだから、待っていればマホが出てきてくれるかもしれないでしょ?」

「そんな・・・」

 鈴は気丈に振る舞っているが”おばけ”の類が苦手なのだ。マホなら怖くないと思っていても、仏舎利塔が怖いのだ。

 美和と鈴が仏舎利塔に到着した。

「あ」「本当だ」

 一部の紫陽花だけが青色の花を付けていた。

2020/04/04

【第三章 託された手紙】第五話 記憶

「はい。マホが私に”見つけてほしい”と言っています。見つけて、帰ってきて欲しいです」

 鈴の宣言を聞いた4人は覚悟を決めた。

「美和。悪いけど、沙奈を呼んできてくれ」

「わかった。子供たちの様子も見てくるね」

 美和が部屋から出ていく。追い出したわけではない。今後の動きを確認するためと、行動するのなら沙奈が居たほうがいいと判断したのだ。関係者だけで行動するよりも、部外者が居たほうが言い訳ができる。

「克己。どうする?内容から、俺は動けないぞ」

「そうだな。桜と進は動かないほうがいいだろうな」

「進は絶対にダメだ」

「なぜだ!鈴が、唯が、巻き込まれたのだぞ!」

 進が言っているのは間違っていない。
 桜も進が探しに出るのには反対した。克己も同じ気持ちだ。鈴は、進が一緒なら”いい”とは思っていたが、桜と克己に任せようと思っている。進から、二人の人となりは聞いているし、保護者会で話しをする。それだけではなく、二年上の先輩で、中学校でいろいろな伝説を残している人たちなのだ。

「だからだ」

「え?」

「進。桜が一緒に動かない理由は解るよな?」

 克己が桜に変わって説明する。

「あぁ警察関係者だからだろう?」

「それもあるが、桜が見つけたときに、その情報はどこから得られて、なんで探そうと思ったのか説明が難しくなる」

「え?だって、マホの手紙を見たと言えば・・・」

「マホの手紙?なんだ?それは?桜が知っているのか?鈴は、知っているのか?」

 手紙は、桜と克己と鈴だけしか見ていない。
 そして、最初に桜と美和はいないと宣言されている。

「え?あっそう・・・。進さん。何か勘違いしていない?」

 鈴は事情がすぐに解った。
 そして、克己にはマホが居る場所に心当たりが有るのだと悟った。

 進は、鈴の言い方でこれ以上は無理だと悟った。

 克己と桜が、進を除外するのも理由があった。

 進に仕事を休ませて一緒に行動するのには無理があった。美和が一緒に行くのはしょうがない。車の運転が必要になるだろうし、現場で何か見つかったときに桜に自然に連絡できるのは美和なのだ。克己は自由業ではないが、自由業のような状態なので問題ではない。鈴は、一緒でなければマホが出てこない可能性があると考えられた。進は、行く必然性が低い。それだけではなく、母親を心配してしまう状態をなるべく回避したかったのだ。

 そして、本当にマホを見つけられたときに、夫婦でその場所に立ち会っていれば、警察が疑いの目を向けるのは避けられない。

「わかった。桜。克己。鈴を頼む」

「違うだろう。俺は行かない。克己と美和と鈴」「と、私ね」

 美和が沙奈を連れて戻ってきた。

「沙奈さん。なんで?」

「え?だって、私は部外者よ。まさか、マホさんに近い。鈴さんと、那由多さんに近い。克己さんと美和さんが一緒では”何か知っています”と言っているようなものよ」

「そうだけど・・・」

「大丈夫よ。克己さんと私は、息子が違和感を覚えた場所を見に来た。美和さんと鈴さんは、子供から話を聞いて懐かしくなって来てみた。桜さん。この言い訳では通用しない?」

「そうだな。もう少しだけ言い訳が欲しいな」

「それなら、美和さんが子供の時に隠した宝物を探そうと言い出したって事では?」

「そうだな。偶然、克己と沙奈さんに現場で会って、子供のときに隠した物を探そうと言い出したなら、ちょっと苦しいが納得するだろうな。美和が弁護士だから余計に突っ込んではこないだろう」

 悪巧みではないが、警察への言い訳が考えついた。

「なぁ克己も桜も、マホが見つけられると思っているようだけど・・・・」

 進以外はマホを見つけることができると考えている。

「そうだな。克己。どうだ?」

「あぁその前に、美和と沙奈と進に、鈴が見た夢の話をしたほうがいいと思うけど・・・。どうだ?」

「そうだな。夢の話はしておいたほうがいいな。共通認識を持っていたほうが、話がしやすいな」

 手紙ではなく、夢の話としてしまったのだ。
 方便では有るし、解っていることだが、これから手紙ではなく、鈴が見た夢の中にマホが出てきて話をした・・・。と、いう説明になる。

 あんな事件があったあとだし、マホの夢を見ても不思議には思われないだろう。
 少しだけ、本当に、少しだけ、鈴が可愛そうな人と思われてしまうだけだ。警察もわざわざ夢の話だと発表はしないだろう。事実だけを発表するだろうと桜が言ったので、進も納得したのだ。

 そして、皆が手紙を回し読んだ。

「ねぇ克己さん。この最後の人・・・」

「鈴には心当たりがないらしい」

「ううん。違う。私は、克己さんと桜さんと進さんに聞きたいのだけど、子供のときに腕時計ってしていた?」

「ん?」「え?」「・・・」

 誰も”時計”はしていない。
 さらにいうと、今でも時計をしているのは進だけだ。

「そうか、先生か・・・」

 皆が鈴を見るが、鈴は首を横にふる。
 わからないようだ。

「鈴。お前たちの中で腕時計をしていた奴は居たか?」

 鈴は何かを考えていた。
 時計をしていた人間を記憶から呼び起こそうとしていたが、不意に肝試しの時の風景が頭に飛び込んできた。

「・・・。違う。6人居だ」

「ん?鈴。どうした?」

「班わけで、3人だけだと思ったけど、違う。立花と山崎と三好と西沢と日野と金子が一緒の班!思い出した。なんで3人だけだと思ったのかも思い出した!肝試しのときに、山崎と三好と金子は先に帰ってきた!マホが居なくなったと騒いだのも彼ら・・・。だった」

「ん?そうなると、鈴となつみが会話したのは誰だ?」

「わからない。わからないけど、私たちは・・・。そうだ!私たちは、最初に肝試しに行って、マホも一緒だった。帰ってきて、マホが連れて行かれた」

「そうか、だからマホと肝試しをしたし、帰ってきてから話した記憶もあるのだな」

「だと思う。自信は無いけど、多分そう!それで、明るかったのは・・・」

「月が出たか、先生がライトを着けたのだろう。それに、子供にはそれほど奥まで探しに行かせなかったのだろうな」

「そうだと思う・・・。ごめん。マホ・・・」

 鈴は記憶していたのが間違っていたわけではない。小学四年生で、親友といえる友達が居なくなってしまった。あの夜の出来事を鮮明に覚えていても、後から告げられる大人たちの勝手な想像で上書きされてしまっても不思議ではない。

「鈴」

 美和が慌てて持ってきた。水を一気に飲んだ。

「美和さん。ありがとう」

「鈴。思い出したのなら教えて欲しい。最後の1人は誰だ」

「杉本・・・。先生だと思う」

「杉本か・・・」

 桜の呟きを克己は聞き逃さなかった

「桜。知っているのか?」

「あぁよく知っている」

「どっちだ?」

 桜の言い方で、克己はおおよそ理解できた。美和も長い付き合いだから解った。

「杉本は、山崎の親戚だ。関係までは覚えていないが、間違いない」

「縁故か?」

「そうだ」

「山崎は・・・。そうか、同窓会の時の犠牲者だな」

「そうだ」

「そうなると、マホが名前を出した連中は・・・。”まだ”生きているのだな」

「そうなる」

「桜。どうする?」

「ん?マホの夢の話を真に受けて上司に報告したら、俺は首になってしまう」

「ならないだろうけど・・・。了承した」

 進と鈴は完全に会話についていけていない。ただ、が安全になるのならいいと思うことにした。
 雰囲気を察した美和が二人に説明した。

「それで、克己。何か心当たりが有るのだろう?」

「あぁほぼ間違いないと思っている」

「なぜだ?」

「その前に・・・。鈴。お前たちの卒業文集に仏舎利塔での記念写真はあるか?」

「え・・・。ちょっとまって、覚えてないよ?小学校の時のだよね?」

「あぁ」

「ごめん。やっぱり覚えてない。そもそも、卒業文集がどこにあるのかも忘れちゃったよ」

「そうか・・・。桜も俺も無いのは確定だし、美和も無いだろう?進も・・・」

 進も首を横にふる。

「克己さん。なんで、小学校の時の文集が必要なの?鈴さんと克己さんたちでは年が違うわよね?」

 1人部外者の沙奈が克己に質問した。

「ん?確認したかっただけだから問題はない。鈴も、進も、仏舎利塔の周りは覚えているか?」

「ん?なんか、紫陽花が咲いていた印象だけど・・・。確か、ピンクの紫陽花だったと思う」

 進が記憶を引っ張り出してきた。

「そう。紫陽花が咲いていた。今はやっていないけど、俺たちの時には、毎年植えていたよな?」

「覚えている。確かに、植えたな」「あぁ」

「鈴。紫陽花を植えた記憶はあるか?」

「・・・。ない。でも、準備はしたよ?あれ?なんで、植えなかったのだろう?」

「鈴が植えなかったのは想像でしか無いから今はいいとして・・・。タクミが帰ってきてから面白いことを言っていた」

「面白いこと?」

「進が言ったように、ピンクの紫陽花が咲いていたらしいが、一部分だけ青色の紫陽花が咲いていたらしい」

「え?」「ん?だから?どうした?」

「あの辺りは土壌がアルカリ性になっているらしい。仏舎利塔の石が雨で削られて土壌がアルカリ性になっているのだと言っていた」

「ん?まて、克己。それなら、なんで紫陽花が青くなる。アルカリ性ならピンクで、酸性なら青だったはずだな?」

「そうだ。だから、タクミも不思議に思ったようだ。紫陽花は同じ色で咲くのに、一部だけ違う色で咲いているのかを知りたかったようだ」

「そうか・・・。青い紫陽花の下を掘ってみればいいわけだな」

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2020/04/02

【第三章 託された手紙】第四話 邂逅

 鈴は、マホが自分を恨んでいると思った。だから手紙を唯に渡して、届けさせたのだと考えたのだ。

「鈴!鈴!いいか、手紙が、本当にマホが書いた物なら、お前や進や唯を恨む内容ではない。大丈夫だ。マホがお前たちを恨むはずがない。鈴やなつみを恨んでいるのなら、同窓会のときに対応していたはずだ。だから、鈴。大丈夫だ」

 克己が鈴を見てはっきりと宣言する。進も同調する。

「・・・。進さん。・・・」

 年齢で言うと、鈴だけ年下になる。それでも、一児の母親だ。自分の子供に被害が及ぶかも知れないと思って恐怖を感じていたが、手紙を開かないでは、終わらない。読まないという選択肢はないのだ。解っているのだ。でも、無性に怖いのだ。

「美和さん。桜さん。克己さん。手紙を・・・。読みます」

 3人がうなずく。

 震える手で、鈴は手紙を開く。
 変わった折り方だが、小学生の時によく開いていた。同じ折り方だ。鈴は懐かしく思いながら恐怖を感じている。

(なつみなら名前を書く。それに、なつみは不器用だから、この折り方を知っていても真似できない)

 手紙が開かれる。
 鈴には、見ただけでマホの字だとわかった。

(マホ・・・)

 鈴は、一筋の涙を流していた。
 自分が泣いているのも気が付かないで手紙を読み進めた。

 手紙を読み終えて大きく息を吸い込んだ。
 しばらく、自分の中で手紙の内容を整理するかのように目をつぶった。手紙は、大切な幼子を抱きしめるように自分の胸元で抱きしめている。

 一文字、一文字からマホの思いが、悔しさが、鈴に伝わってくる。

 4人は、鈴が口を開くまで待った。
 どのくらいの時間が流れたかわからない。1分も経過していないかも知れない、1時間が経過したかも知れない。時間が止まった世界の様な静けさの中に居た。

「進さん」

 鈴が泣き声で夫を呼ぶ。

「鈴」

「進さん。マホを、マホは、マホに、マホが・・・」

「鈴。落ち着け。ゆっくりでいい。俺は・・・。俺たちが居る。大丈夫だ」

 進も何が大丈夫なのかわからないが、鈴が取り乱しているわけではなく、考えがまとまらないだけだと思った。鈴の肩を抱きしめる。すでに震えは止まっている。自分の感情がわからないのだろう。

 複雑な想いなのだ。
 マホが自分やなつみを恨んでいなかった。感謝さえもしてくれている。マホが、居なくなった理由が解った。事実だとしたら、怒りや悲しみの感情が湧き上がってくる。そして、マホからの”見つけてほしい”という言葉。どうしていいのかわからない。

「進さん。ありがとう。もう大丈夫」

「鈴」

 進は、鈴の肩を抱きしめていた腕の力を緩める。

「美和さん。桜さん。克己さん。やはり、マホからの手紙でした」

 進が何か言いかけるのを、桜が手で制する。
 美和や克己も、桜に任せるようだ。美和は立ち上がって、すっかり冷めてしまった紅茶を入れ替えるようだ。

 美和が立ち上がったので、鈴は落ち着くためだろうか、冷めきった紅茶で喉を潤す。
 紅茶を入れている間、鈴は黙って手紙を読み直す。一文字、一文字を噛みしめるように読む。

 美和が人数分の紅茶を持ってきた。
 先程とは違う美和が好きな銘柄だ。ミルクがよく合う紅茶だ。温められたミルクも一緒に持ってきた。
 皆に紅茶が行き渡ったのを確認して、桜が鈴に確認するために質問する。

「鈴。マホと言ったが、須賀谷真帆で間違いないのか?」

「うん。絶対かと言われるとわからないけど、私が覚えているマホの字で間違いない。癖も同じ」

「内容を教えてもらってもいいか?」

「うん。読んで・・・。貰ったほうがいいと思う。お兄さんの友達だった桜さんや克己さんなら、マホも怒らないと思うし、美和さんや進さんでも怒らないと思う」

「わかった。まずは、俺が読んで、美和や進が読んでも大丈夫だと思ったら読ませるでもいいか?」

「桜さんに任せる」

 鈴は、桜に手紙を渡す。

 桜は、鈴から手紙を受け取ると、立ち上がって、家族で食事を摂る時に使っているテーブルに移動した。美和が桜の行動を理解して、紙とペンを桜に渡した。椅子に腰掛けて、背もたれに身体をあずけるようにして手紙を読み始める。

 一枚だけの手紙だが、子供の字なので読みにくい。
 それでも桜は、すぐに手紙を読み終えた。

「克己」

「あぁ」

 桜が克己を呼ぶ。
 克己も読んだほうがいいと判断したのだろう。克己は、桜の正面に座った。手紙をテーブルの上を滑らすように克己に渡して、桜は紙に何かを書き始める。

「どう思う?」

「そうだな。確認しなければならないけど、本物だろうな」

「そうだよな・・・。鈴。ちょっと来てくれ」

「何?」

 克己が桜の横に移動する。克己が座っていた場所に鈴を座らせる。

「鈴。俺と桜は部外者だ」

「はい」

「でも、桜は警察関係者だ」

「わかっています」

「だから、今からは俺と鈴で話をする」

「え?」

 鈴が桜を見る。手紙の内容から、桜が動けないと判断した。克己は、自分が主体となって動く覚悟をしたのだ。

「いいな。ここには、桜も美和も居ない。俺と進と鈴だけだ。進もいいな」

「わかった」「はい」

 美和も克己の宣言で事情を聞かないほうがいいと判断したが、桜が部屋に残っているので、自分も残っても大丈夫だと判断した。

「鈴。正直に答えてほしい。大事なことだ」

「はい。大丈夫です」

「それから、わからない事や知らない事も正直に”わからない”や”知らない”と答えてくれ」

「はい」

 鈴の宣言を聞いて、克己はうなずく。
 桜は自分が書いたメモの一部に”バツ”をつける。鈴かなつみの自作自演という項目だ。

「この手紙は、唯が受け取って、”鈴に渡してきた”で、間違っていないか?」

「はい」

「タクミもユウキも知らないと思うか?」

「わからない」

「手紙の中に、はっきりと解る名前は、須賀谷家の人間を除くと3人だけだ。鈴となつみと唯だ。間違っていないか?」

「はい」

「マホが書いたと思うか?」

「わからない」

「書かれている内容で上から聞いていくけどいいか?」

「はい」

「”私を見つけてください”に心当たりはあるか?」

「ないです」

「”男子が、傘を破った”は、知っていたか?」

「知らない。マホが大事にしていた傘・・・。おばあちゃんが買ってくれた傘なのは知っている」

「傘を探した?」

「うん。マホが泣いて、傘がなくなったと言っていてから、なつみと探した。覚えています」

「傘は見つかった?」

「見つからなかったと思う。よく覚えていない」

「”すずとなつみを殴った”とあるけど、誰に殴られたか覚えている?」

「・・・」

「鈴」

「西沢と日野・・・」

 桜が紙に名前を書く。

「肝試しを怖がったのは誰なのか解るか?」

「わからない。想像で良ければ・・・」

「想像でもいい。誰だ?」

「立花だと思う。彼、威張っていたけど、ビビリだったから・・・。それに、西沢や日野が立花と一緒によく居たから・・・」

「ありがとう。もうひとり名前らしき物が有るけど、わかるか?」

「ごめんなさい。わからない」

「想像でもいいぞ?」

「わからない。あの班は、3人だけだったはず・・・」

「そうか、班わけか・・・」

「鈴となつみが探しに行ったとあるが本当か?」

「よく覚えていない。マホが居なくなったと言われて、みんなで探しに行ったのは覚えているけど、明るくなってからだったと思う」

「おかしくないか?」

「でも、肝試しの後でマホと話をした記憶がある。マホが帰ってきて、私となつみで話をして一緒に寝た・・・。あれ?でも、マホが居なくなったってどうして思ったの?」

 鈴が昔の記憶を呼び戻そうと必死になっているが、記憶がおかしいのか呼び起こせない。

「鈴。肝試しの話は置いておこう。最後だ。鈴は、マホを探しに行きたいのか?」

 克己の問いかけに、鈴は顔を上げて、涙が出ていた目を拭って、自分の考えをまとめるように目を閉じた。
 2-3秒だけ考えてから、大きく目を広げて、克己を見る。

「はい。マホが私に”見つけてほしい”と言っています。見つけて、帰ってきて欲しいです」

2020/04/02

【第三章 託された手紙】第三話 託された手紙

「あ!ママ。忘れ物は見つかった?」

 美和と沙奈が制止しようとしたが、唯は鈴に抱きついた。

「うん。ありがとう。見つかったよ。それで、唯。手紙は読んだの?」

「うん!菜々ちゃんが書いたのは先生から貰ったよ!」

「菜々ちゃんが書いた?」

「うん!お休みするときに、書いてくれて、菜々ちゃんのママが持ってきてくれたの!」

 唯の話を聞いて、鈴と進は安心した。
 やはり、唯の話し方が悪かっただけで、先生が2つ先に居る唯に届けてくれたのだろう。そう考えた。

 しかし、桜は唯が不自然だと感じた。

「なぁ唯」

「何?ユウキのパパ」

「手紙は、一通だけか?」

「うーん」

「どうした?」

「桜くん」「桜!」

 桜の顔が友人を追い詰めた時と同じに見えた。
 美和と進が慌てて止めた。

「おっそうだった。美和」

 桜は、美和を読んで小声で指示を出す。

「何?」

「唯は手紙を二通持っている」

「なんで?」

「さっきの言葉で、先生には唯から会いに行っている。でも、手紙をもらうのが肝試しの約束だ。唯なら約束を守るはずだ」

「でも、子供だよ?」

「美和。小学校4年の時、俺と奴は何をしていた?克己も一緒にしてもいい」

「それは・・・。だって、彼と克己くん・・。それに、ヤスさん・・・。あとは、真一くんも万人くんもまーさんも異常だったよ?」

「反論できないけど、でも、それでも小学校4年の時にはしっかりと考えて居ただろう?唯も同じだと思うぞ?」

「解ったわよ。でも、鈴にも協力してもらうわよ」

「頼む」

 桜に怯えた唯だったが、沙奈とユウキと話をして落ち着いてきていた。

 美和は、唯を見たが落ち着いているので、鈴を呼んで小声で話をした。

 安心した鈴だったが、桜の問いかけに対する唯の返事が不自然に思えたのだ。母親の感だと言っているが、桜と同じように、唯が何かを隠していると感じたようだ。

「唯ちゃん」

「あぁユウキのママ!」

「お話を聞けなくてごめんね。ユウキから聞くね」

「うん!楽しかったよ!ユウキは何もしていないけど、タクミくんがすごかったの!」

「僕も頑張ったよ!」

「えぇユウキはタクミくんと一緒にいただけでしょ?」

「そうだけど・・・。違う!僕もいろいろやったよ!」

 美和は根気よく言い争いをする唯とユウキの話を聞いた。
 やっと二人が一段落した所で、本来の話に戻ろうとした。

 同じ話になるが、大丈夫だろうと思っていたのだ。

「そう?ユウキは、タクミに手紙を渡したの?」

「うん。僕は、ハルちゃんから持ったよ」

「晴海くんは鳴海ちゃんから?」

「そ!私が鳴海ちゃんに渡したの!」

「唯ちゃんは誰から貰ったの?」

「私は、菜々ちゃんからもらう予定だったの」

「あ!そうか、菜々ちゃん休んじゃったよね」

「うん。なんか、菜々ちゃんのパパが入院するみたい」

 唯の話を聞いて、進は桜に小声で確認した。

(桜。菜々ちゃんのパパって?)

(あぁ進は知らないのか?鈴と同学年で、現場に居た1人だ)

(母親は違うのか?)

(あぁこの町の人間じゃない)

「そうなの?唯ちゃんは誰から手紙を貰ったの?」

「あ!そうだ!ママ!」

 急に、何かを思い出したかのように、唯が鈴を呼ぶ。

「なに?」

「あのね。ママ!ママに渡してって言われたの!ちょっとまって!」

 唯は、自分のポシェットを持ってきた。
 進が唯の誕生日に買ってあげた日曜日の朝にやっているアニメのキャラクターが入った物だ。買ってあげてから気に入って毎日のように使っている。中には、家の鍵や迷子札が入っている。唯には内緒にしているが、二重底にして三千円が入っている。子供の足では迷子になったとしても、三千円あれば帰ってこられると思っての配慮だ。

 ポシェットは、唯の宝物入れになっている。
 何かを探し当てて、鈴の目の前に持ってくる。

「はい!ママ!」

「これは?」

「ママに渡してって頼まれた手紙!」

「え?誰に?」

「うーん。わからない。女の子?」

 疑問形になっているが、唯は実際に誰から貰ったのかわからないのだ。疑問形になってしまってもしょうがないことだ。

 唯は、鈴に手紙を渡したら、スイッチが切れたかのように目をこすり始めて、鈴が問いかけようとした時には、もう夢の世界に旅立ってしまっていた。

「寝ちゃったわね」「そうね」

「ユウキちゃんも?」

 大人たちは、急に眠ってしまった二人の子供を見ている。
 不思議に思ったが、寝てしまったのを起こして問い詰める必要もない。

 鈴の手は震えていた。
 唯から受け取った手紙を両手で大事な物を持つようにしているが、手の震えが止まらないのだ。

「鈴?どうした?」

「あっ進さん。あのね。この手紙の折り方・・・。私となつみと・・・。そんな・・・。違うわよね?」

「どうした?」

 進以外の大人たちが集まってくる。

「ねぇ桜さん。唯ちゃんもユウキちゃんも寝ちゃっているから、お家に連れて行かない?進さんも鈴さんも、今日は泊まっていってください。桜さんや美和さんに相談できたほうがいいですよね?私が、唯ちゃんとユウキちゃんを見ています」

 沙奈の申し出は他の4人も渡りに船の状態だ。
 子供が居ない所で話をしたほうが良いのは解っている。それではどうしたら良いのかが決められなかった。

「そうね。沙奈さんお願いできますか?」

 美和が沙奈の提案に乗る形で場をまとめる。

「いいですよ。進さんも鈴さんもいいですよね?」

「・・・」「あぁ」

 鈴は身体まで震えてしまっている。進が肩を抱きしめていないと歩けないほどだ。

 車で隣町まで一度出てから、バイパスに乗って桜の家に向かう。桜の家と克己の家は隣同士なので、寝ている子供二人を抱きかかえて、寝かしてから、桜の家で手紙を読むことになった。

「沙奈さん。悪いな。唯を頼む」

 進が鈴の肩を抱きながら沙奈に唯を頼み込む。
 大丈夫だとは思うが、鈴の怯えているのが気になってしょうがない。

「大丈夫ですよ。そのうちタクミも帰ってきますから、そうしたら克己さんも桜さんの家に行かせますね」

 沙奈は努めて明るく返事をする。
 それがわかるのだろう。進も笑顔で応じている。

「頼む。克己も知っておいたほうがいいかもしれない」

 桜は、それだけ言ってさっさと家の中に入っていってしまった。

「鈴も進も入って、お酒は・・・。止めておいて、克己が飲むように置いてある紅茶を出しますね」

 美和は、普通に克己のことを呼び捨てにする。
 子供の時からの付き合いだ。克己が、沙奈と結婚した当初は”克己さん”と呼んでいたが、本人と桜から気持ち悪いと言われて、呼び方を戻した。沙奈も気にしていないし、昔の呼び方で通している。

 4人は、家に入ってリビングのソファーに座る。
 鈴は、進の横に座って震える手で手紙をしっかりと持っている。

 美和が、克己が置いていった紅茶を用意した。
 4-5分の時間が永遠に続くかと思うくらい長く感じた。

「て」”ピンポーン”

 進が何か言いかけた時に、インターホンがなった。
 克己とタクミは帰ってきていたのだ、沙奈からの伝言を聞いたが、今から行ってもダメだろうと思って、家で簡単に食事をして帰りを待っていたのだ。帰宅した沙奈から事情を聞いて、桜の家に来たのだ。

「なにがあった?」

「克己か・・・。今、その話を始めようとしている所だ。沙奈さんからは聞いたのか?」

 進が克己に話しかけるが、鈴は克己が来て落ち着いたのだろう。顔を上げて皆を見回す。

「簡単に、だけどな。タクミからも仏舎利塔の話を聞いた。不思議に思っていたところに、答えが飛び込んできたからびっくりした。タクミはもう一つ気になっているようだけど・・・。あとだな。まずは、鈴が貰った手紙だな」

「克己。お前、事件は知っているよな?」

「桜。流石に知っている。知っているが、マスコミが報道した以上の話は知らないぞ?」

「そうか、ナユタとマホの事は?」

「知っている」

 鈴が、マホの名前を聞いて”ビクッ”と震わせる。

 克己も座った。飲み物は、桜が手を付けていない紅茶がスライドした。
 桜の前には、タクミがユウキのために作ったりんごジュースが置かれた。

「鈴」

 誰が、鈴の名前を呼んだのかわからないが、鈴は手紙を持つてに力を込める。潰そうとしているわけではない。怖いわけではない。
 ただ、ただ、事実として、手紙を握っていると感じていたいのだ。

「進さん。桜さん。克己さん。美和さん。私となつみは、よく手紙の交換をしていました」

 鈴は自分の考えを肯定するようにゆっくりとした口調で話し始めた。
 皆、鈴の話を遮らないようにうなずくだけだ。

「マホも私となつみと手紙を交換してくれた。何度も、何度も、何度も、交換している間に、クラス中で手紙の交換が流行って・・・。それで、マホが私となつみにだけわかるように手紙を折るように・・・。ううん。違う。マホは、私となつみのために、手紙の表や裏に名前を書かなくても、マホからの手紙だとわかるように変わった折り方をしていた」

 手を広げて、手紙を見つめる。

「この手紙。使っている便箋。マホ・・・。マホの手紙・・・。マホ・・・。なんで?」

 また、鈴が震えだしたので、進が鈴の手から手紙を奪うように取ってから、鈴を抱きしめる。
 見ている3人も鈴と進の様子を見つめているだけで、口を開かない。

2020/04/01

【第三章 託された手紙】第二話 星

 唯の話に補足を入れているユウキの言葉が余計に話を複雑にして大人たちを翻弄した。

 どうせいつも通りだろうと、その場に居た者たちは唯とユウキの話を聞き流していた。

「遅くなってごめんなさい」

 警察の取り調べが終わった鈴が丸大飯店に入ってきた。進が書いて置いた伝言を見て来たのだ。

「鈴。遅かったな」

「桜さん。”遅かったな”じゃないわよ。私に聞いたって何も知らないわよ」

 鈴は話を聞くという取り調べを受けていた。
 桜が関係していないのは知っているのだが、当たりたくなる気持ちもわかる。

「そうだろうけど・・・。な」

「うー。いいわよ。同じ内容を聞かれるだけだし、新しく思い出した情報なんてないと伝えるだけだし、そもそも、思い出したくないわよ!」

「そうだな。進。良かったな。これで飲めるな」

 桜が強引に、話の方向を変える。
 鈴にも解ったのだろう。でも、不毛な会話を続けてもしょうがないと思って、桜の切り替えをありがたく思った。

「桜さん。私が飲むから、進さんには勧めないで!」

「はい。はい」

「ママ!」

「どうしたの?唯?お話は終わったの?」

「ううん。あのね。あのね。肝試しをやったの!」

「肝試し?」

「うん!先生が怖い話を話して、星のお墓を1人ずつ回るの!」

 唯の説明を聞いて、大人たちも思い出した。
 仏舎利塔を回って手紙を渡す肝試しが昔から行われていた。伝統行事と言っても良いかも知れない。

「まだ続いていたのだな」

「そうだな。あの時には・・・」「進!」

 唯とユウキは桜が声を荒げたのでびっくりしてしまった。
 それほど桜は大きな声を出さない。美和や克己や沙菜も子どもたちをあまり怒らない。怒る場合でも、声を荒らげることなど無い。

「あっ・・・。すまん」

 進は、桜の気持ちを考えて素直に謝罪した。

「いや、俺が悪かった」

 大人たちの沈黙は、子供の沈黙を誘発してしまう。
 雰囲気を感じて、唯もユウキも黙ってしまった。

「ねぇ唯ちゃん。それで、星の周りをどうやって回ったの?」

 仏舎利塔や過去の話しは聞いているが、沙奈は直接関係していない。なので、仏舎利塔や紫陽花の話が出ても深く考える必要がないので話を聞けるのだ。

「あのね。唯が鳴海ちゃんに手紙を渡したの!」

 沙菜が唯の話を聞くようだ。ユウキは、鈴に一生懸命にタクミたちとご飯を作ったと自慢している。

「それじゃ唯ちゃんが最後まで待っていたの?」

「うん!」

「怖くなかった?」

「最初は、怖かったけど、町の明かりを見ていたら怖くなくなった。お家の明かりを教えてもらったの!」

 沙菜は、常識で考えて、唯が待っている間に怖くないように、先生が適当な明かりをお家の明かりだと教えたと考えた。

「へぇー。そうだったのね。唯ちゃんも手紙を貰ったの?」

「うん。貰ったよ」

「良かったね」

 沙菜は、友達が1人休んでいたことを知らない。

「楽しかったよ。菜々もお休みしなければよかったのにね」

「菜々ちゃんはお休みだったの?」

「うん。ね。ユウキ。菜々。お休みだったよね?」

「うん」

 桜と進と鈴は、鈴の体験を聞いていた。

 テーブルの上の食べ物は少なくなっているが、ビールはコップに注がれた状態から変わっていない。

「でね。桜さん」

「聞いているよ。詳細は回ってきていないけど、実現は不可能だという話だぞ?」

「だよね・・・」

「なぁ桜・・・。本当に、関係はないのか?」

 進が桜に何をききたいのか解っている。
 桜も、質問の内容を確認しようとはしない。

「防犯カメラにも映っていない。本部は、街中の防犯カメラ映像を入手して調べているけど、当日だけではなく数日前でも映っていない」

「・・・」

 桜は捜査には加わっていない。関係者ではないが、捜査対象に、幼馴染や旧知の者が居る。そもそも、資料課には捜査本部に加わるタイミングなど無いのだ。

「大規模な捜査をしたようだが、二人を見たという話は出てきていない」

 桜にも、独自の情報網があるのだが、秘匿されるような情報が出てきていない。”何も解っていない”ことだけが”わかった”だけだ。
 マスコミ各社も第一報を勢いよく放送したが、新しい情報がない状況では独自の展開など出せるわけもなく尻窄みになっている。

「あれ?鈴も来たの?」

 外で電話をしていた美和が帰ってきた。

「うん。美和さん?え?それじゃ克己さんとタクミの二人だけで?」

「そうだけど?」

 美和が不思議な者を見るような目で鈴を見る。
 鈴が”おかしな”感じになっているが、おかしいのは桜や美和だ。克己とタクミは、桜の母親に呼び出されているのだ。

「鈴さん。この人たちに常識を期待してもダメだと思うわよ」

 子供の相手をしていた。沙菜が振り返って鈴に忠告をする。
 鈴も解っているのだが、やはりどこかで突っ込みたくなってしまったのだろう。

「沙菜さんだけですよ」

「沙菜ママ!それでね。タクミに手紙を渡したの!」

「そう。よかったね」

「うん!5人だけど楽しかったよ!ハルちゃんも鳴海ちゃんも頑張ったよ!」

「そうだよ。私も、沢山我慢したよ!ママ!手紙も貰ったよ!」

 唯は嬉しそうに鈴に報告をする。

「ん?」

「ねぇ唯は、最初に手紙を渡したのだよね?」

「そうだよ!私が最初!」

「それで手紙を貰ったの?」

「うん!」

 鈴は、おかしな事実に気がついた・・・。

「ユウキちゃんは、誰から手紙を貰ったの?」

「僕?僕は、ハルちゃんから貰って、タクミに渡したよ?」

「晴海君は、鳴海ちゃんから受け取ったのかな?」

「うん。唯は、鳴海ちゃんに渡したよ」「うん!私は、鳴海ちゃんに渡したよ」

 唯は、誰から手紙を貰ったのか覚えていない。受け取った事実は間違いないのだが、誰から受け取ったのか覚えていない・・・。マホの名前を思い出せなかったのだ。

「ねぇ唯。唯は、誰から手紙を受け取ったの?」

「え?」

「手紙を受け取ったのだよね?」

「うん!そう!受け取ったから、先生の所に戻ったの!」

 鈴は、唯のテンションが高いのも不思議に思えた。普段は、もう少しだけ物静かな感じなのに、今日はテンションが高い。
 何か必死に隠している雰囲気は感じない。

「どうした?なんだ?」

 鈴の様子がおかしいので、進が心配そうに声をかける。

「沙菜さん。美和さん。すまん。少し、鈴を連れて外に出てくる」

 子供たちに聞こえないように進は声を抑えて鈴と桜を外に連れ出そうとした。

「ママ?どうしたの?」

 唯も鈴の様子がいつもと違っていると思って心配になったのだ。

「なんでも無いよ。ママ。車の中に荷物を忘れたから取りに行ってくるだけだよ」

「ふーん」

「ねぇ唯ちゃん。それで、タクミはどんな料理を作ったの?」

 沙菜が気を利かせて唯の気をそらす。美和がユウキと話始める。

 進は鈴と桜を外に連れ出した。

「桜?」

 進は、桜が何か考えていると感じて桜も一緒に連れ出したのだ。
 あんな事件があってから鈴の心が疲れているのではないかと思ったのだ。子供の前で泣き出すわけにはいかないので、連れ出しただけだが、桜が素直について来ているので、”何か”有るのではないかと思っているのだ。

「進」

「なんだよ?」

「お前、仏舎利塔は知っているよな?」

「あぁ」

「形を覚えているか?」

「星型だよな?」

「そうだ。星型だが、肝試しで使う仏舎利塔は・・・」

「進さん。仏舎利塔は、”ダビデの星”・・・」

「鈴の言うとおりだな。さっきの唯とユウキの話でも奥にある仏舎利塔だと言っているし、手紙をおける場所があるのは、ダビデの星になっている仏舎利塔だけだ」

「だからそれがどうした?」

 進は、桜と鈴が気にしている仏舎利塔は解っているが、だから何だと思っているのだ。

「進。お泊り会の唯たちの班は1人休んだのだろう?」

「菜々ちゃんだったか?休んだみたいだな」

「肝試しは、仏舎利塔の頂点から頂点に歩くよな?」

「そうだな」

「唯が最初なら、唯は先生から手紙を渡されるよな?」

「え?だったら先生から受け取った・・・。のでは・・・。ないのか?」

「進さん。唯は、先生から手紙を受け取っていないわよ。だって、唯はさっき・・・””と言っていたわよ」

「進。それに、”ダビデの星”の頂点は6つだ。1人休んで5人になった子供たちに先生がプラスされても、唯が手紙を受け取れない」

「ちょっと待て!桜。唯は誰から手紙を受け取ったのだ?」

「・・・」「・・・」

 1人足り無い状況だ。ダビデの星の周りを回るだけの肝試しが・・・。
 唯が手紙を受け取った事実が確かなら、あの時、あの場所に、子供が6人居たことになる。

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2020/03/30

【第三章 託された手紙】第一話 報告

「ママ!ただいま!」

 九条唯は、来たときと同じように長嶋校長が運転するバスに乗って家に帰ってきた。

 玄関は空いていたので、そのまま家に上がって、母親を探す。

 いつもは、パソコンが有る部屋に居るか家事をしているのだが、今日はどこにも居ない。

「あれ?ママが居ない?」
「唯。おかえり。早かったな」

 九条くじょうすすむ
 唯の父親だ。今日は、仕事が休みで珍しく家に居たのだ。

 進の仕事は、船大工で主に漁船のメンテナンスをしている。あとは、メカ音痴の為に魚群探知機やオート操舵のセッティングを行っている。
 漁が多いこの時期には、進の仕事は少ないのだ。メンテナンスは、船を休ませる必要があるために、漁がある時は行う事ができない。応急措置なら可能だがそれでもできることは限られている。その他の調整に関しても同じで船を丘にあげて作業する物が多い。海上で行う事もあるが、それは最終調整だけになってくる。

「パパ!お仕事は?」
「今日は、お休みだよ。唯。キャンプは楽しかったか?」
「うん!ユウキちゃんと鳴海ちゃんと沢山お話できた!」
「そうか、ユウキは・・・あぁ桜の子供か?」
「え?うん。そう。あとね。タクミくんも一緒だよ!」
「克己の所の子供か・・・あいつらが一緒だと何もなかった事が不思議でならない」

 進は、同級生の二人の顔を思い出す。
 憎たらしいが信頼はできると思っている。

「パパ。ママは?」
「ママは、少しお出かけしている。夜までには戻ってくるぞ!」
「本当?」
「あぁ本当だ!そうだ、唯。今日は、丸大飯店に行くか?」
「え?!焼きそば!食べていい!」
「あぁいいぞ!」

 丸大飯店・・・の、説明は必要ないと思う。桜も克己も子供の時から好きでよく行っていた、中華飯店だ。
 唯が言っている焼きそばは、かた焼きそばの事で、唯は小学生になる前から丸大飯店のかた焼きそばが好きなのだ。最初は、固くてパリパリしている麺が上にかけてある”あん”を吸って柔らかくなっていくのが好きなのだ。

 鈴は、警察に呼ばれていた。
 当日の様子をもう一度説明してほしいと言われたからだ。家に行くと警察には言われたらしいのだが、すずは警察で説明することを望んだ。夫である進には事情を説明してある。警察も、すずが犯人だとは思っていない。手がかりが何もない状況で少しでも捜査を進めるために、話を聞きたいと思っているのだ。

 警察の捜査は難航している。頓挫して居ると言ってもいい。
 14人の死体がありながら現場には血の一滴も残されていない。それだけではなく、凶器も見つかっていない。
 証言や残されている監視カメラ映像や、当日の参加者のスマホやデジカメに残されている映像や動画から被害者たちが数分前まで生きていたことは間違いない。そのために、警察は何が起こって、14人が首を切られた状態で見つかったのか公式に発表できないでいた。

 警察は、集団催眠や全員で口裏合わせの可能性を考慮したが、矛盾した証言は出てこなかった。
 マスコミの注目度が高い事件だが、流せる情報が非常にすくないのも特徴なのだ。
 その上、上層部から、須賀谷真帆に関する情報の秘匿命令が出ている。マスコミにも須賀谷真帆に関する情報の自粛を求める嘆願命令とある筋政治層から出されている。

 数ヶ月が経過した現在は、報道も行われなくなり、元々静かな港町に静かな日常が戻りつつ有った。

 進は、唯を乗せて丸大飯店にやってきた。
 元々はバイバス沿いに有ったのだが区画整理で店舗を隣町にできたショッピングセンター内に移動している。

「パパ!早く!」
「解っている。ちょっとまて・・・。おっママから電話だ。唯。先に入って注文を頼む」
「わかった。パパは、いつもの?」
「あぁ」

『進さん』
「今、唯と丸大に来ているけど、お前はどうする?何か買って帰るか?」

 警察署から丸大飯店までの移動手段を唯が持っていない事を進は理解している。

『あっそれなら、炒飯をお願い』
「了解」
『それで、進さん。須賀谷那由太さん。真帆のお兄さんとは同級生だったわよね?』
「那由太が見つかったのか!」
『ううん。違うの。警察で、”須賀谷那由太を知っているか”と聞かれて、”夫の同級生です”と答えただけ』
「そうか・・・。那由太の奴が疑われているのか?」
『ううん。違うみたい。那由太さんはもう見つかっていて、アリバイもあるみたい』
「それならよかった。それで、鈴はなんで呼ばれたのだ?」
『なんか思い出した事があるか?とか、殺された人たちに付いて何か知っているか?とか、小学校のときのいじめに関してとかを聞かれただけ』
「そうか・・・。一度、桜の所に相談に行くか?美和も居るから何かできると思うぞ」
『うーん。そうね』
「わかった」「パパ!まだ!」「唯。もう少しだから、先に座っていなさい」「はぁーい」

「悪いな。唯がしびれ切らしている」
『いいわよ。私も、菜摘と軽くお茶を飲んでから帰るね』
「わかった」

 進は電話を切って、胸ポケットに手をやる。

(そうか、禁煙しているのだったな)

 タバコを一本吸って落ち着こうと考えたのだが、自分がいい出して禁煙を始めている。
 すでに3ヶ月だが時折胸ポケットを探ってしまうのだ。

 妻からの電話でわかった事は、警察の捜査が進んでいない事、那由太が犯人ではない事、未だに妻たちが疑われている事だ。

 話を聞いた時に、最初に思い浮かんだ考えは、突拍子もない事だった。
 進は、真帆が復讐をしているのだと思ったが、真帆は小学4年の時に行われたキャンプの日から行方不明だ。それが今になって復讐してきているとは考えにくい。

(俺が考える事じゃないな)

 進は、娘が待っている丸大飯店のドアを空けて店に入る。
 飯時ではないので、客はまばらだ。テーブル席を見ても、娘の姿が見えない事を確認した。

(二人だけだからテーブルでも良かったのだけどな)

 いつも家族で座る座敷に向かう。
 店員も顔なじみになっている。進の顔を見ると、指で座敷の方を指し示す。個室になっている座敷席が6部屋ある。法事や小規模な宴会に使えるようになっている。

 進は、店員に会釈をして、座敷に向かう。小上がりになっている所で靴を脱いだ。

「唯。九条は?」
「パパ?もうすぐ来るよ」

(ん?誰か居るのか?)

 個室になっている襖を開けて中を見る

「桜!?」
「おぉ進。遅かったな。お前の分の注文は唯がしたぞ。な」
「パパ。遅いよ!」
「悪い。悪い。なんで、桜が?美和とユウキはわかるけど、なんで沙菜さんが一緒に居る?克己とタクミは?」

 進が不思議に思うのも当然だ。
 沙菜は、タクミの母親で克己の妻だ。桜と美和が一緒なのはわかる。

「あぁ克己とタクミは、おふくろに呼ばれた」
「はぁ?どういう事だよ?」

 進の疑問は当然だ。
 克己の両親はすでに他界している。桜が行っている”おふくろ”とは、桜の母親の事だ。

「しょうがないわよ。美穂さん。克己くんの方が好きだから・・・ね。あっ今は、タクミの事が好きだったわね」
「まぁその方が俺に連絡が来なくて助かる」
「桜。お前・・・」

 進も美和も沙菜も、桜と母親の美穂の関係があまり良くないのを知っている。結婚には賛成していた。ただ一つ、桜が警察学校に黙って入ったのが許せないでいるのだ。

「進さん。鈴さんは?」
「鈴は・・・」

 進は、桜をチラッと見た。聞いた、沙菜もそれで事情がわかってしまった。

「そうか、進。お前、車か?」
「そうだ」
「そりゃぁ残念だな」
「え?」

「おまたせしました!タンメンと餃子を3人前とソース焼きそば紅生姜抜きとライスと麻婆丼とかた焼きそばとチャーシューメンと半炒飯セット。あと、ビールを2本」

 ユウキが、半炒飯セット。ラーメンと半炒飯のセットだ。
 唯はかた焼きそば
 桜はソース焼きそば紅生姜抜きとライス
 美和がタンメン
 沙菜が麻婆丼
 進がチャーシューメン

 見事に好みが分かれている。
 ビールは、桜と美和が飲むようだ。帰りは、沙菜が運転していく事になっている。

 丸大飯店の特徴だが、6-7人位までなら、一度に注文した品物は同時に持ってきてくれるので、家族や子連れで行くときには都合がいいのだ。

「親父さん!」
「お!なんだ!」
「炒飯持ち帰りで1人前頼む。あと、餃子を1人前」

 進は、鈴に頼まれた炒飯を頼んだ。眼の前でビールを飲まれたので、家に帰って鈴の話を聞きながら餃子をツマミに何は飲むつもりになった。

「あいよ!」

 そして、全品持ち帰りができるのだ。

 皆で食事を食べながら、ユウキと唯からのキャンプでの出来事を聞いている。
 大人たちは、事件が有った後だし、同じキャンプ場を使っている事から、心配をしていたのだが、子どもたちの話を聞いて何も問題がなかった事を喜んでいた。

「でね。パパ!」
「あっうん。聞いているよ」

 進は、唯から”タクミのご飯が美味しかった”や”肝試しが怖かった”や”歩くのが大変だった”という話を聞いている。
 ユウキの補足が入るが、補足で余計にわからなくなっている。ユウキの話の半分以上が擬音なので臨場感はあるが、内容は一切伝わらないし補足にもなっていない。

「パパ・・・」

 ユウキが、セットの炒飯を桜の所に持ってきた。

”ゴン!”

 個室にそんな音が鳴り響いた。
 桜がユウキの頭にげんこつを落としたのだ。

「いたぁぁい」

 ユウキが持ってきた炒飯は手を付けられていない。

「タクミ・・・は、いないのか?しょうがない。美和」
 美和は首を横に振る。

「しょうがないな。ユウキ!解っているな」
「うん。ごめんなさい」

「美和。あぁ克己とタクミに、餃子二枚を土産に持っていく、あと、これも頼む」
「はい。はい」

 美和は解っていたのは、襖を開けて、店員に頼んでいる。
 餃子二人前を土産に頼んで、ユウキが食べられなかった炒飯を包んでもらう事にしたのだ。

「美和さん。それなら、あと唐揚げもお願いします」
「そうだな。美和頼んできてくれ」
「わかりました」

 沙菜は、ユウキの表情から今は話しながら食べているから、お腹がいっぱいになったと思っているけど、1-2時間もしたら何か食べたいと言い出すのが解っている。桜も美和もそれが解っている。克己とタクミは、桜の母親の店カラオケ・スナックで何か軽く食べて来るだろうから、餃子だけで大丈夫だろうと判断した。
 ユウキが、タクミの家に泊まると言い出して、克己とタクミが餃子と炒飯を食べているのを見て、自分も何か食べると言い出す時に出されたのがこの唐揚げになる。

 そのやり取りを見ていた、進は少しだけ複雑な表情をしている。

「どうした?進?」
「いや、なに、お前たちいつもこんな感じなのか?」
「そうだな。まぁタクミが居れば、全部タクミに任せるのだけどな」
「はぁ?10歳の男の子に何をやらせている?」
「それこそ、”なん”でだよ?なぁユウキも唯もそう思うよな?タクミなら大丈夫だろう?」
「うん!」「うん!」

「ほらな」
「”ほらな”じゃねぇよ。まぁいい。唯。それで?肝試しはどうだった?」

 進は、自分に不利だと思って話を少し強引に戻した。

2020/03/30

【第二章 キャンプ】幕間 手紙

 唯はもらった2通の手紙を眺めている。

(ママに渡してって言われたけど、ママの知っている子なのかな?)

 そして、唯は知らなかった。
 この手紙を、母親である九条くじょうすずが読む時に新しい犠牲者が産まれる事を・・・。

(マホちゃん?私以外には声をかけなかったけど良かったのかな?もうどっかに居なくなっちゃったけど?)

「唯!」
「うん!」

 自分を呼ぶ声に気がついた唯は周りを見回すが、手紙と順番を教えてくれた女の子が居なかった事を不思議に思ったが、気にしないで名前を読んでくれた、タクミの方に急いだ。

 ふふふ

 すずに手紙がしっかり渡るといいな。

 本当は、すずを巻き込みたくなかったのだけど、仕方がないよね。

 ふふふ。
 もうすぐだね。もうすぐ会えるよ。

 楽しみだよ。楽しみだね。

 すずへ

 この手紙を読んでくれているという事は、唯ちゃんは手紙を渡してくれたって事だね。

 あのね。
 すずにお願いが有って手紙を書きました。

 私を見つけてください。

 学校では、すずとなつみだけが友達だった。
 委員長や副委員長は、先生に言えば大丈夫と言った。先生に言ったら、委員長と副委員長は、”あdfがr”と”ぱgたvばヴぇ”に私が先生に言ったと教えていた。
 あと、”うvたvら”に言われたって他の子が雨の日におばあちゃんに買ってもらった大切な傘を隠した。男子が、傘を破った。許せなかった。
 あの傘を探してくれたのも、すずとなつみだったよね。本当に嬉しかった。見ていただけの子も多かった。

 でも、こっそり教えてくれる子も居たよ。あの夜。私を探してくれた子は許そうと思う。ダメかな?

 あの夜。すずは私を守ってくれよね。行かなくていいと言ってくれた。すごく嬉しかった。すずとなつみが守ってくれた。
 あとで知ったけど、”ぱgたvばヴぇ”や”うvたvら”が、すずとなつみを殴ったのだよね。ごめんね。私の為に・・・。

 私は、”あdfがr”に呼び出された。そこに、”ぱgたvばヴぇ”や”うvたvら”も居て私のパパやママやお兄やお姉の事を馬鹿にした。許せなくて、許せなく、悲しくて、辛くて、なんで、なんで、なんで・・・。と、思ったけど、我慢したの・・・。

 ”あdfがr”が、肝試しを怖がって、私に変わりに行けと命令してきた。服を脱がされて、”あdfがr”の服に無理やり着替えさせられて、肝試しに行かされた。私、怖いからイヤって言ったら、”あdfがr”に殴られた。泣いていたら、”ぱgたvばヴぇ”や”うvたvら”が私を先に歩かせようと言い出した。
 ”ぱgたvばヴぇ”や”うvたvら”や”ヴぁいばちゅd”の荷物も持っていたの。手紙も持っていけって言われて持っていったの。

 道が暗いって言われて、”ぱgたvばヴぇ”に殴られて、歩くのが遅いって言われて、”うvたvら”に殴られたの・・・。
 懐中電灯は一つしか無いから、後ろを照らしていないと”ヴぁいばちゅd”に怒られたの。

 でもね。怖いのも痛いのも、我慢していれば、大丈夫って”ヴぁいばちゅd”が言うから頑張ったの・・・。

 でも、ダメだった。
 我慢することができなかったの・・・。

 私の事だけなら我慢したよ。でも、パパやママやお兄やお姉だけじゃなくて、すずやなつみの事も悪く言うのだよ。それも”ヴぁいばちゅd”がだよ。すずやなつみまで殴るっていい出したの。
 なんで?って、口答えしたら殴られた。”ヴぁいばちゅd”に殴られた。その時に、”ヴぁいばちゅd”が大事にしていた時計が壊れたの・・・。私のせいだって言い出して、また殴られた。弁償しろと”ヴぁいばちゅd”の時計を投げつけられたの・・・。

 それで、それで・・・私・・・沢山殴られたの・・・。

 気がついたら暗い所にいたの。
 暗くて、冷たくて、寂しくて・・・。誰も来てくれなくて・・・。遠くで、すずとなつみと他の子や先生の声が聞こえたの・・・でも、返事ができなくて、寂しかったの・・・。

 すず。あのね。わたし、”ヴぁいばちゅd”に殺されたのだと思う。
 どこかに埋められたのだと思う。

 肝試しの最中だったから、仏舎利塔の近くだと思うの?
 やっと暗い所から出てこられたの。

 すず。私を見つけてほしい。お願い。
 帰りたい。私、帰りたい・・・。

 すがやまほ

 この手紙が、九条鈴の所に届けられるのは数日後となる。

2020/03/30

【第二章 キャンプ】第五話 手紙

 唯が1人で寂しい思いをしている時に、手紙のリレーは鳴海から晴海に、晴海からユウキに繋がろうとしていた。

「あ~る~は~れ~た~きょ~う~の~ひ~を~」

 晴海に歌声が聞こえてくる。
 正直タクミ以外には、なんの歌かわからない。晴海は、一度タクミに聞いたのだが、言葉を濁して逃げられてしまった。
 そして、問題ないのは歌詞だけではない音程がめちゃくちゃなのだ。

 しかし、晴海は音程が外れた調子の歌声を聞いてユウキが近い事を確信した。

「ユウキ!」
「ハルちゃん!待っていたよ!」
「だから、僕は男だ!」
「解っている。ハルちゃん」

 改めるつもりが皆無のユウキに何を言ってもダメなのは、晴海には解っている。
 わかっていても決まったツッコミをしてしまう。言わないと気持ち悪いのだ。

 特に、今のような状況では・・・。
 周りが暗闇で、自分が持つ懐中電灯の光だけが頼りの状況では軽口を叩いていないと、怖さが増してきてしまう。
 それでなくても、これから数分間は暗闇で1人になってしまうのだ。

「ハルちゃん。それじゃ行くね!」

 手紙を受け取ると、挨拶もそこそこにユウキは走り出した。
 タクミの所に急いだのだ。怖いという気持ちも、タクミの所に行けば怖くない。そういう思いが有るためだ。その後で、また1人になってしまう事は考えていない。タクミに会いたいという気持ちが先走っているだけなのだ。

 走り去るユウキを懐中電灯で照らしながら晴海は思った。

「ユウキが僕の気持ちに気がつく事は無いだろうな・・・。タクミが相手じゃ勝ち目ないしな」

 晴海の独り言がユウキに届くことはない。
 ユウキの気持ちがタクミに届くのはこれから6年近くかかってしまう。晴海がそれを知っていたら、違う未来が有ったかもしれないがそれは別の物語だ。

 晴海が、ユウキに思いを寄せている時に、当のユウキはタクミの所に到着していた。
 ほぼ全力で駆け抜けたのだ。暗い夜道を全力で駆け抜けられる運動神経を持っている。それがどんなに優れているのかは、暗い足場が安定していない草原をダッシュしてみればわかる。すぐに足を取られてしまう。それだけではなく、一歩踏み外せば何があるかわからない。通常の思考回路では怖くてできない事だ。

 それでも、ユウキは全力でタクミの所に向った。

「タクミ!」

 タクミは、前後に揺れている光を見て、ユウキが近づいてきている事を認識していた。
 走ってくるだろう事を予測していたので、なるべく安全に来られるように、ユウキが来ると思われる方向を、懐中電灯で照らしている。ユウキが全力で走ってくると確信している。そして、懐中電灯で足元を照らしていないのもわかっているので、自分が持つ懐中電灯でユウキが転ばないように照らしているのだ。

「ユウキ!」

 お互いの姿が視認できた所で、タクミは声をかける。

「はぁはぁはぁおまたせ」
「いいけど、ユウキ。走ってきたのか?」

 解っている事だが問いただした。
 ユウキは少し汗を拭いながら

「うん。だって、タクミが待っていると思ったから」
「あぁありがとう。待っているのは間違いないけど、急いでも変わらないぞ?」
「うん。解っている。解っているけど・・・。うぅぅぅ。いいの!はい!手紙!」
「お。それじゃ行ってくる」
「うん!」

 タクミは、ユウキから手紙を受け取って、自分の手紙を持って、担任が待っていると思われる場所に向った。
 本来なら、マユにわたす手紙だが、担任に渡して、後日マユにわたす事になっている。

 マユから唯にわたす手紙は、担任が持っているので、それを唯にわたす事になる。

「先生」
「タクミくぅん」

 タクミは、先生の情けない声でげんなりした気分になる。
 担任は、1人で待っているのが心細くなってしまったのだ。本来なら、待っている間に他の先生が合流してくるのだが、タクミたちが最後という事もあって、片付けをしてからキャンプ場所に戻る事になっているので、誰も合流してこない。
 もう一つ理由が有るのだが、それは別の問題だ。

「はい。これでいいですか?」

 手紙を担任に渡しながら、タクミはこれで肝試しも帰るだけだと考えていた。

「はい。大丈夫です。それじゃ次に・・・ん?」

 担任は、何か囁く声が聞こえたような気がした。

「え?どうかしました?」
「ううん。なんでもない。タクミくんはここで待っていてくださいね」
「はい。わかっています」

 担任は、暗闇をもう一つの星の頂点に向けて歩いていく。

 スタート地点に戻ってきた。誰も居ない?
(次は私ね!)

「え?」

 確かに女の子の声を聞いた。
 周りを見るが誰も居ない。

 気持ち悪さとなんだかわからない感情で、担任はスタート地点で10分ほど逗まってしまった。

「あっ!そうだ。マユちゃんが休みだから、私が唯ちゃんの所に行かないと・・・!」
(大丈夫。もう行ってきたよ)

「え?誰?」

 懐中電灯で周りを照らすが仏舎利塔と草木があるだけで、他にはなにもない。

 後ろから子どもたちの声が聞こえる。

「え?なんで?」

 担任が不思議に思うのは当然だ。

「唯ちゃんが怖くて我慢できなかったのかな?」

 担任は自分の考えを声に出して見た。今度は誰も答えない。

 3分位してから、皆が揃って戻ってきた。

 ユウキが1人駆け出した。

「先生!」
「ユウキちゃん。待っていたわよ」
「先生、怖くなかった?泣いてない!」
「泣いてなんか居ないわよ!」

 軽くユウキの頭を叩いてから、手に持っていた懐中電灯で皆を照らす。

(一人、二人、三人、四人、五人、六人)

(え?)

 担任は、もう一度、左端に居るタクミから懐中電灯を当てて確認している。
(タクミくん。ユウキちゃん。晴海くん。鳴海ちゃん。唯ちゃん)

(5人。よかった、数え間違いね)

「みんな揃っているみたいだね。それじゃ帰ろうか?」
「「「「『「はい!」』」」」」

(あっそうだ。唯ちゃんに手紙を渡さないとダメだね)

 唯は、一人だけ少し離れたところを歩いていた。
 いじめとかではない。唯は皆と一緒に居る事が好きだ。皆も唯を友達だと思っている。

 唯は、なぜか暗闇の方を向いて何か喋っている。

 担任は、徐々に遅れている唯に近づいて手紙を渡そうとした。

(え?)

 唯の手には手紙が握られていた。
 唯に渡す手紙は、自分の手にある事は確認している。

 担任は、そのまま皆が手紙を持っている事も確認した。
 手紙が多いのだ。

 自分の手元に二通ある。一通は唯にもう一通は休んでしまったマユにわたす物だ。

「唯ちゃん」
「はい?」
「手紙?」
「あっもらいました!」
「え?誰に?」
「マホちゃんです!」

 担任には、マホがマユに聞こえて、少し安心した。
 風の音なのか、偶然なのか、それはわからない。

「そう?」
「あっでも、これはママに渡してほしいって言われているから、マユちゃんの手紙ください!」
「そうなの?(そう言えば、マユちゃんのママも、スズ先輩と同級生だったはず。それで手紙を子供に預けたのかな?)」
「うん!」
「そう、それなら、手紙を渡しておくね」
「ありがとう!マホちゃんが言ったとおりに、先生がしっかり手紙を渡してくれた!」

「え?」

 担任は聞き間違いかと思って、唯に聞き直さなかった。聞き直せなかったが正しいのかもしれない。
 ”マホ”と聞こえた名前が気になってしまった。

「あっそうね。唯ちゃん。ほら、皆と離れちゃったと、少し急ごう」

 須賀谷スガヤ真帆マホの事は知っている。
 少し前にあった事件の事も認識している。

 担任は、自分がおかしな事を考えたと思って、首を振って考えを頭の中から追い払った。

(唯ちゃん!バイバイ!)

 唯はなにかに呼ばれた気がして、後ろを振り向いた。
 勿論、後ろには誰も居ない。

「どうしたの?」
「ううん。なんでもない!先生、急ごう!」

 唯に引っ張られるように担任は早歩きになる。
 何気なく後ろを振り向くと、そこには、先程まで見えなかった。

 青い。青い。紫陽花が大きな花を付けていた。

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2020/03/30

【第二章 キャンプ】第四話 肝試し

 夕飯が終わって、キャンプ場に集められた生徒たちは座って、先生が離す怪談を聞いていた。

”キャァァ!!”
”ヤメロ!”

 誰が言ったのは名誉のために伏せておこう。
 しかし、タクミたちではない事だけは確かだ。

 タクミたちの班は一箇所に集まって話を聞いているのだが・・・。

”フッフーン。怖くなんて無い”

 ユウキが口ずさんでいるが、タクミの服の裾を離す気配はない。同じく、鳴海は晴海を後ろに座らせて、自分の背後を守らせている。

 怪談は、よくある話だ。
 よくある話だけに怖いのだ。そして、積み重ねられた歴史が怖さを増す働きをしている。

 アレンジして今日これから行われる肝試しに特化したものにしているのだ。地域的に幼少の頃から聞かされている話が加えられている。毎年バージョンアップして徐々に怖くなっていくのだ。

 肝試しも、怪談話に沿った状態で脅かす準備がされている。

 タクミたちの順番は最後だ。
 それまで、この場で待機する事になるのだが、別にこの時間で遊んでいるわけではない。

 先生たちは、各班に引率する形になるし、脅す側に回っている先生も人数が多いわけではない。安全に肝試しを行う必要が有る。細心の注意を払ってはいるが、子供は急に予想を超える動きをする。

 特に今年は、伝説になっている森下桜と篠崎克己の子供が居るのだ。

 タクミたちの引率は、担任が行う事になっている。
 順番まで待機しているのだが、なぜか肝試しを行うタクミたちよりも、担任が緊張している。

 担任が緊張しているのも当然なのだ。
 まず、最初に担任はタクミたちの事を誤解している。”問題児”だと認識しているが、それは大人からみた認識でしか無い。タクミたちは問題を起こしたわけではない。ただ目立つのだ。勉強が飛び抜けてできるわけではない。運動が飛び抜けてできるわけではない。でも、全ての事で名前が上がるのだ。多才というのがいいのだろうが、天才というわけではない。それなりの努力をしているし、頑張っても居るただ凄まじく効率がよく、頭の回転が早いのだ。
 担任からみたらそれが問題行動に見えてしまう事も多い。

 そして、担任が緊張している一番の理由は、担任が森下桜と篠崎克己の後輩だという事だ。
 サクラたちの4つ下。サクラたちの影響を受けた者たちなのだ。特に、狭い町であるために、伝説を話しとして聞いて育ったのだ。
 在学中に接するチャンスが有れば違ったのだろうが、4つ下だとサクラたちの卒業と同時に入学する事になる。中学での出来事を噂話や先輩からの伝説として聞かされる事になる。

 その伝説の先輩たちの子供を引率する事になるのだ。緊張するなという方が無理なのかもしれない。そして、少し前に発生した事件の事も頭の隅に残っている。ここまで問題なく物事が進んでいる。最後の最後で問題が出てしまっては困るのだ。

 担任は班の1人が休んでいる事をすっかり忘れてしまって居たのだ。

 タクミたちの順番が来た。手紙は、すでに仏舎利塔で待っている先生に渡してある。

 担任は、スマホでタクミたちが今から出発すると連絡するだけでよいのだ。
 昔は無線機を使っていたのだが、スマホのSNSを使えばそれらも簡単に行う事ができる。

 そして誰が開発したのかわからないが、精度の高いGPSを使って班の位置を認識して、おばけ係の先生に伝える事ができるようになっている。

「タタタタッタクミ」
「ユウキ。唯も落ち着けよ。大丈夫。大丈夫」
「だって・・・。ひっ!」

 鳴海は、晴海に後ろを絶対に守れと命令して、晴海の前を歩いている。
 ユウキと唯は、タクミの服の裾を握って後ろから続いている。

 簡単に説明すると、タクミ→ユウキ・唯→鳴海→晴海の順番で歩いている。少し距離を取って担任が続いている。

 脅す方も素人なので、子供だまし以上の脅しは無いのだが、雰囲気はバッチリなのだ。

 幸いな?事に月も出ていない。空は曇天と表現していいだろう。そして、海からの生暖かい風は山頂付近まで届いている。温められた海風だ。海岸沿いに住んでいる者しかわからない、独特の生臭さを含んでいる。
 暗い夜道に、生暖かい風、遠くの町明かり。そして、終わりに近づいている夏漁の船の明かりが漆黒の海に漂っているのが見える。

 風が吹けば、木々が葉や枝を擦れ合わせて、不自然な音を鳴らす。
 木々の鳴く音とは別に首切り螽斯の鳴く声が恐怖を掻き立てる。

 草むらや周りから聞こえてくる、”ジー・ジー”という鳴き声が、自分たちが近づくと鳴り止むのだ。
 視線を感じるわけではないが、監視されているのではないかという恐怖心が芽生えるのだ。
 直前で聞いた先生の怪談話も、監視されている恐怖を伝える物だ。

「タクミ・・・」
「ユウキ。情けない声をだすなよ。唯。引っ張るな!」

 タクミが指摘した事とは別にユウキは唯と手を繋いで、タクミの服の裾を引っ張っている。

 タクミは裾を引っ張られながら少し歩きにくいと考えていた。

 何度か数えていないが、お化けの登場でタクミは慣れてしまっている。
 怖くないかと言われれば、怖い事は怖い。しかし、人は自分以上に怖がっている人が居ると怖さが緩和される生き物のようだ。タクミは、その傾向が強い。それでも、後ろで怖がって驚かれると反射的に行動を起こしてしまうのはしょうがないことだろう。驚いた人の声で驚くのだ。

 音がするとそちらの方向を見てビクッと身体を震わせる。
 その都度、裾を引っ張られてタクミは体勢を維持するだけで精一杯な状況だ。この位の年齢では、女の子の方が、力が強い事が多い。そして、タクミの裾を二人が握っているのだ。体勢を維持出来ているだけでもすごい事だと思える。

「あ!」

 鳴海が大きな声を上げる。

「仏舎利塔!」

 鳴海の声をきっかけに、闇夜に塔が見えてきた。
 ライトアップなどはされていないが、手に持っている懐中電灯で照らせば、石造りの塔は闇夜でもよく見える。

「さぁ皆」

 引率していた担任が皆の前に出てきて声をかける。

「解っているよ!先生!」

 晴海が軽い口調で言うのだが、少しだけ声が震えているのはやはり怖いからなのだろう。
 前に鳴海が居たために、大丈夫と自分に言い聞かせていたのだ。

 順番は決められている。
 手紙はすでに角?に、置かれている。

 順番は、ユウキの意見と言うよりも女性陣の意見が採用されている。

 唯から開始される。
 唯は、鳴海に手紙を渡して、鳴海は晴海に、晴海はユウキに、ユウキはタクミに、タクミは本来なら今日来ているはずのマユにわたすのだが、休みのために先生に渡して、当初の予定どおりに、後で先生が唯に手紙を渡す事になっている。

 星型になっている仏舎利塔の星の先に1人ずつ立つ。そして、仏舎利塔の周りをぐるっと廻る事になる。

 唯が少し大きめの声で
「い、今から行きます」

 そう言うと、唯は歩き出した。鳴海の所まで、2分程度だろうか?暗いなかで、懐中電灯一つだけ持って、歩いている。

 唯は、怖いけど一歩、一歩、踏みしめるように、確実に歩いている。
 ユウキが言っていた、皆が歩いた後だからという言葉を信じて、懐中電灯で道を照らすと、確かに沢山の足跡と思える物が見える。

 足跡を数えながら歩いていると、怖さが少しだけ抑えられるような気がしている。
 そうして、数歩行った所で、ふと何か温かい物を感じた。

 お母さんのような温かさを感じた。気のせいなのかもしれないが、唯は耳元で”大丈夫。怖くない”と何度も、何度も話してくれる女の子が居るように感じていた。
 唯は、その声と温かな感触で怖さを忘れる事ができた。

「鳴海ちゃん!」
「唯!」

 二人は、お互いの懐中電灯の光を認識した。

「はい」
「うん!ありがとう」

 手紙を渡して、唯はこれから1人で待っていなければならない

「鳴海ちゃん。早く帰ってきてね」
「うん。私も怖いから急ぐよ」

 鳴海は、それだけ話して、唯の手をぎゅっと握ってから、一言二言交わしてから、双子の片割れの所に向った。

「うぅぅぅ怖いな」

 さっきまで鳴海と二人で居たからだろう。
 怖さがぶり返してきている。唯は、遠くに揺らめく街の灯りを見ている。

「ママとパパ。私の家の灯りはどれかな?」
(あれだよ)
「え?」

 唯は、誰かが耳元で囁いた声を聞いた。
 そして確かに、白い腕がある方向を指さしたと感じていた。

「だれ?」

 誰も答えない。
 でも、確かに誰かが居る。

 でも、怖くない。

「ママ?」

 その問にも答えてくれない。

 唯は、不思議と母親である。スズを感じていた。

2020/03/30

【第二章 キャンプ】第三話 タクミの能力?

「ちょっと待て!ユウキ!」

 タクミの静止も虚しく、肝試しの順番が最後に決定してしまった。
 それには理由もあった。班のリーダーはユウキなので、ユウキが言ったのなら決定事項になる。

 先生方もわざと意地悪をしたわけではない。
 これが、最初を望んだりしているようなら、タクミの静止を聞いて、”班で話し合ってからもう一度申告しなさい”と言ってくれだろう。しかし、ユウキが言ったのが”最後”だったので、先生はこれ幸いと受諾してしまったのだ。

 先生方の考えもわかる。理由も簡単だ。肝試しの順番では、最後を選ぶ班はほとんど居ない。皆無と言ってもいい。

 当然だ。最後は、怖い話が終わってから、自分たちの順番まで待機しなければならない。
 そして、待機している最中は悲鳴が聞こえたりして恐怖心を掻き立てられる。

 順番は、毎年最初の方が人気なのだ。最初から順番に埋まっていくと言ってもいい。

 しかし、ユウキと同じように最後を選んだ者が他に居なかった・・・。ことはない、ユウキの父親である。森下桜も最後を選んだ1人だ。

「ユウキ!」
「ユウキ!お前、勝手に!それに、なんで最後を選んだ?」

 タクミが代表してユウキを問いただす。
 最初に声を上げたのは、晴海だが晴海ではユウキに勝てない事はわかっている。

「え?だって、最後の方がいいでしょ?」
「だから!なんで、だよ」
「だって、最後の方が、皆が歩いた後だし、おばけの位置もわかるよ?それに、仏舎利塔の手紙も自分たちの分だけだから探すのが簡単だよ?」
「え?」「は?」

「なんで皆最初に行きたがるかわからないよね。だって、先生たちも・・・あっおばけもまだ疲れていないから頑張っちゃうし、足跡も少ないから罠とか見分けられないし、大変なのにね。それに、手紙を探している間は1人だよ?その方が怖いのにね」

 ユウキが言った事は間違っていない。一点を除いては・・・。
 手紙を探すのは間違っていないが、最初から全員分の手紙が入っているわけではない。手紙が置いてある箱があってその中に毎回先生が入れているのだ。そのために、箱を見つける手間だけが”探す”という行為に該当している。

「ユウキ・・・。お前、サクラさんか、美和さんに聞いたな?」
「え?あっ・・。なんのこと?」

 タクミはすぐに理解した。
 ユウキが考えつく事じゃない。多分、ユウキの父親である森下桜が教えたのだろう。もしかしたら、美和かもしれないとも考えていた。

「ユウキ?」
「ママじゃないよ!」

 周りからため息が聞こえてくる。
 ユウキが自分から暴露したからだ。別に悪い事では無いのだが、皆の思いは同じで”だったら最初に相談しろ”だ。

 タクミたちは、時間が来るまで部屋で待機する事になっている。次は夕飯作りだが、もう少し時間が必要なのだ。
 肝試しの時に、手紙を受け渡す順番は事前に決めているので、もうする事が無いからなのだが、タクミたちはユウキに説教をするという新しくできたミッションをこなしている。夕飯作りが開始されるまでの時間を有意義に使う事ができた。

 涙目になりながら、タクミに助けを求めるユウキ。
「タクミ・・・」
「わかった。わかった。唯も鳴海も晴海も、もういいだろう?」

 ユウキが、タクミのシャツの裾を握って離さない状況を見てやりすぎたと思った3人はユウキに謝罪して、ユウキも3人に謝罪して順番に関しての話は終わった。

 外が騒がしい。
 いくつかの班が宝箱を見つけてきたようだ。一番だと思っていたら、すでに一番が居た事が解って騒いでいるのだ。その声を聞いて、なんとなく解ってしまったタクミたちは部屋から出ない事を決めた。
 ”ずる”した、”先生が教えた”と騒いでいるが、順番を聞いて、最初が空いている事が解って納得したようだ。

 夕飯は、班ごとで作って食べる事になっている。
 それもあって、皆なるべく早く宝箱を見つけたかったのだ。

「うちの班には、タクミと晴海が居るから大丈夫!」
「ユウキ・・・。それ言っていて恥ずかしくないか?」
「え?なんで、できる奴に任せるのが一番って、パパも克己パパも言っていたよ?」
「あのダメ大人は・・・。しょうがない。晴海。手伝ってもらうぞ」
「うん。それはいいけど何を作るの?」

「そうだな、カレーは昨日食べたからな。材料を見てからだな」

 これが、皆が先を急いだ理由の一つだ。
 確かに、肝試しの順番は重要だけど、米と決められた野菜や肉以外は、早いもの勝ちになっている。
 先生が調整はするが、それほど多くの食材が有るわけではないし、小学生が使えるような物は多くは残されない。

「先生。食材はこれだけですか?」
「あっそうだよ。タクミくんたちの班は何を作るの?」

 こうして、先生方は来た生徒と話をしながら、食材を渡していくのだ。
 分配される食材を晴海が受け取ってきて中身をタクミが確認した。

(うーん。2日連続でカレーを作らせるつもりなのだろう。間違いは無いし、失敗も少ないだろう)

 タクミは渡された野菜や肉から判断した。
 先生たちの狙いは間違いなくカレーだったのだが、味の変化はできるように工夫はしてある。
 市販のカレーの素も用意されている。

「先生。肉ですが、豚の細切れはありませんか?」
「ありますよ」
「それをください。そのかわり、この牛肉はいりません」
「え?」
「ですので、豚肉とあとできれば鶏肉と卵をください」
「あっわかったわ」
「そうですね。あと、鰹節はありますか?」
「えぇぇ・・・ちょっとまってね(何を作るつもりなの?先輩が言っていたとおりに、タクミくんは要注意人物?)」

 食材の所にいた先生は、別の先生にヘルプを求める為に一度その場を離れる。
 本来なら、感のいい子は材料を見て、カレーに行き着く。そこで、カレールーを選ぶ事になる。ちょっといい物高級品から一般的な物まで用意されている。
 普通の生徒は、材料を渡されてもピンとこなくて、先生からヒントをもらってカレーに誘導される。

 タクミは、その斜め上の事をいいだした。
 用意した問答集には無い事を言われたので、先生が慌ててヘルプを呼びに行ったのだ。

「タクミ。何を作るつもりだ」
「うーん。2日連続でカレーはイヤだろう?」
「あぁ」
「多分、先生方は違う物を作る為の食材や調味料を持ってきているはずだ。他にも、酒のツマミとか有ると思うぞ?それを奪う!」
「お前な・・・。でも、楽しそうだな」
「あぁ見ていろよ」

 先生が戻ってきた。
 タクミたちの担任を連れて戻ってきた。

「あっ先生!」
「先生じゃ無いわよ。タクミくん。無茶は言わないでよ」
「無茶ですか?」
「無茶です」
「ふぅー。わかりました。それでは、要求を一度に言います」
「え?まだあるの?」
「えぇ先生方が隠している物を全部と思いましたが止めておきます」
「・・・」
「ケチャップと酢と砂糖と塩と胡椒。あと、牛乳をください」
「・・・。はぁ・・・。どのくらい?」

 タクミは分量を先生に頼んだ。
 先生が用意してくれた物を受け取って戻ろうとした。

「何を作るの?」
「秘密です。さすがに2日連続でカレーでは飽きます」

 タクミと晴海はもらった食材を持って、ユウキたちが待っている場所に向った。
 調理場所も早い者勝ちになっているので、ユウキがタクミから頼まれた場所をしっかりとキープしていた。狭いけど冷蔵庫が有る場所を確保している。

 タクミは、晴海に料理の指示を出しながら単純な作業を女子たちに頼むことにした。

「タクミ。まだ?」
「まだ。もう少し攪拌していてくれ」

「タクミくん。こんな感じでいい?」
「十分だ」

「タクミくん。味噌の味付けはこんな感じ?」
「ユウキに見てもらってくれ」
「わかった」

「タクミ。米が炊けたぞ」
「ありがとう。ボウルに入れて冷ましておいてくれ」
「わかった」
「あっ。あら熱が取れたら、冷蔵庫で冷やしておいてくれ」
「了解」

 タクミたちが作っていたのは簡単な料理だが、他の者たちから見たら未知の物に見えたかもしれない。
 途中までは、カレーを作るのと変わらないが、なぜか最初に肉と野菜を炒める時に使ったのはシーチキンの油だったりする。

 味噌で味付けされた豚汁が一品目。
 処理された鶏肉を甘辛く仕立てた物が二品目。
 ソテーに使った鶏肉の油部分や細かい肉をと冷えたご飯を手際よく炒めてケチャップで味付けしたケチャップライスを作った。それを薄焼き卵で包んだ物を作ったのが3品目。
 卵と牛乳で作ったプリンが四品目。カラメルまでは作れなかったが十分デザートになりえる。

 シーチキンと鰹節で簡単なふりかけもどきも作ってある。

 他に、りんごとみかんを潰した物を牛乳に加えて、凍らせたデザートも作った。

 タクミの異常さだけが目立った食事となってしまった。

 ユウキたちは周りからの羨望と嫉妬の視線を感じながら一風変わった夕飯を楽しんだ。
 デザートを食べる頃には、周りからブーイングまで上がっていた。

2020/03/30

【第二章 キャンプ】第二話 二日目

「ねぇユウキ?」
「なに?」

 班ごとに部屋に入っている。
 もう、夕ご飯も食べて、夜のリクリエーションも終わって、各班に割り当てられている部屋の一室だ。

 9時を少し回った位の時間だが、朝早い時間に集合して、慣れない山歩き。疲れて寝てしまう子が出ても不思議ではない。

 この部屋に居るタクミ。ユウキ。唯。鳴海。晴海の5名も疲れて寝てしまっている者も居る。起きているのは、元気いっぱいなユウキと慣れない場所で寝られない唯だ。

「ユウキのパパとママは、私のパパと同級生だよね?」
「うん。タクミの克己パパも同級生だよ?なんで?」

 唯は3月生まれで、同級生の中でも幼く見られている。
 ユウキから見たら、唯は同級生というよりも近所の妹という感じがしている。

「あのね。ママからね。タクミくんとユウキと一緒に居るように言われたの?」
「そうなの?」
「うん。パパもユウキと必ず一緒に居ろって言っていたよ」
「へぇそうなの?なんでかな?」
「うーん。パパがね。マホやナユタが絡んでいるのなら、カツミとサクラの子供なら安心できるって言っていたよ」
「へぇ今度、パパか克己パパに聞いてみるよ」
「うん!」

”うぅーん”

 晴海が寝返りをした時。声が少しだけ漏れ聞こえた。
 二人は、それを合図にして、話を止めて目をつぶる事にした。

「(パパとママも、タクミから離れるなと言っていたけど・・・なんでかな?)」

 明日は、肝試しがある。
 ユウキは、タクミが一緒なので、それほど怖くはならないと思っている。唯は、ユウキとタクミが一緒なので言うほど怖いとは思っていない。

 翌朝は、7時に起床して、全員で食事を摂ってから、オリエンテーションを行う事になっている。
 先生方が隠した宝物を班で見つけるという物だ。

 8班あり、宝物も8個用意している。
 班別にヒントも違うので、必ず一個ずつは宝物を見つける事ができるのだ。

 そして、宝物を見つけた順番に、肝試しの順番を選べる事になっている。

 この仕組を先生に提案したのは、当時4年生だった安城あんじょう幸宏ゆきひろ井原いはら聡子さとこなのだ。それから、先生方も楽なので、伝統という名前で引き継ぎが行われている。
 サクラたちがキャンプを行った時代は、地域は3つに割れていた。海の近くに住む者たち、新興住宅地に住む者たち、山に住む者たちだ。海の者たちは、どうでもいいと思っていた事だったが、山の者と新興住宅の者が親を巻き込んだ騒動に発展していた。
 そのために、子供同士も喧嘩まではしていないが、それとなく距離ができる状態になっていた。そのために、肝試しの順番を決めるのも喧々諤々の状態でなかなか決まらなかった。
 そこで、サクラとシンイチとカツミ悪知恵が働く悪ガキが考えて、当時委員長だった安城あんじょう幸宏ゆきひろ井原いはら聡子さとこに先生に進言させたのだ。この方法なら、先生方が調整する事なく自主的に順番が決められる。そして、宝物を探すというオリエンテーションが一つ行える事になる。

 朝食は、先生方が用意した朝食ですます事になっている。
 班ごとに決められた数のパンやおにぎりが配られるので、あとは班ごとで調整しなさいという事だ。これもいつの間にか始まった伝統だ。学校行事なら、給食センターや地域の協力を得られるのだが、自主参加のイベントなので、先生方が準備をしなければならない。そのために、面倒になった先生がスーパーでまとめて買ってきて、適当に配ったのが最初だと言われている。
 できるだけ同じ種類のパンを用意するのだが、好き嫌いが有る。他にも、食べられない物が有ったりするので、パンだけではなくおにぎりが含まれるようになった。あとは、個々人が持ってきた物も朝食では食べていいことになっている。

 10時から宝探しが行われる。
 宝探しのルールは至ってシンプルだ。先生が隠した宝箱を見つけるだけ、最初に配られたヒントを手がかりに、2時間かけて宝箱を探すのだ。
 見つからない事も考慮されて、最後の30分になっても見つからない場合には、先生が一緒に探しながらヒントをだす事になっている。

「ユウキ!タクミ!ヒントもらってきた」

 晴海が先生の所からヒントを選んでもらってきた。
 宝物はランダムになっている。ヒントは全部で4つあって、最初のヒントをもらってから、20分以降に先生から次のヒントが渡される。更に20分後に3つ目のヒントがもらえて、1時間が経過したら4つ目のヒントがもらえる。

 ほとんどの班が3つ目のヒントを貰った辺りで宝物に近づく事ができる。
 1時間前後で宝物が発見できる。

 晴海が選んで持ってきた紙には次のようなヒントが書かれていた。

”多くの花が集まっている場所に有る”

 鳴海が、晴海からヒントをひったくって中身を確認した。
 それを、タクミに渡してきた。

「タクミ。何かわかる?」

 タクミは、少し考えたが、少し範囲が広すぎると考えて首を横にふる。

「わかった!」

 横から覗いたユウキが大きな声を上げる。

「ユウキ。判ったの?!」
「うん。だって、花が沢山ある場所は、花壇だよ!間違いない!」

 ユウキに問いかけた唯を筆頭に皆が微妙な顔をする。

「ユウキ・・・。あのね。キャンプ場に花壇は無いよ?小学校まで戻るの?」
「え?嘘?タクミ。花壇あるよね?」
「ユウキ・・・探してみればわかるけど、花壇は無いよ。そもそも、誰も管理していないと思うから、”多くの花が集まっている”には当てはまらないよ」
「うぅぅぅ。おかしいな。それじゃどこ?早くしないと・・・。順番がぁ・・・」

 タクミは大きく息を吐き出した。

「ユウキ。慌てなくてもいいよ。それに、順番は、早く見つけた班から決める事ができるだけで、最後だから、最初ってわけじゃないから大丈夫だよ」
「わかっているよ。わかっているけど、嫌なの!負けるのが”い・や・な・の!”」

 なんとも理不尽な事をいい出したユウキを唯に任せて、タクミは晴海とヒントを見つめている。

 なんとも言えないヒントだが、花が沢山あるという表現から、花壇や花畑をイメージするが、桜の木の下とか、梅の木の下とかも条件としては一致する。
 表現を変えれば、”沢山の花を付けた木の下”という事が言えるのではないか?

 タクミと晴海はそう考えたが、今度は別の問題が立ちはだかる。

「なぁ僕もそれで間違っていないと思うけど、それだけ探す範囲が広くないか?」
「そうだよな。山頂に続く道には桜の木が植えられているし、キャンプ場には梅と牡丹だろう」
「入り口には躑躅もあったぞ」

 タクミと晴海は考え込んでしまった。

 別にこれはタクミたちが劣っているわけではない。
 他の班が引いたヒントも同じような物なのだ。先生方も知恵を絞っている。最初のヒントでは絞るのは難しいようになっている。2つ目のヒントは授業で教えた事が思い出せれば、答えにたどり着けるようになっている。
 3つ目のヒントは具体的な場所が書かれていて、4つ目は地図が入っているようになっている。

「ハルちゃん」「僕は、男だ!”ちゃん”はやめろ!」

 晴海はユウキの問いかけに食い気味に反論した。

「はい。はい。それで、ハルちゃん」

 ユウキは、改める気が無いことがわかる返事をする。

「はぁ・・・それで?なに?」

 晴海も、ユウキと付き合いが長い。ユウキの性格も把握出来ている。

「うん。ツツジでもいいのなら、紫陽花でも同じだよね?」
「!!」

 ユウキに指摘されて、タクミと晴海は何かを感じたようだ。

 確かに、ツツジは沢山の花を付けるが、”多くの花が集まって”と言われると違うような気がする。

「紫陽花か!」
「紫陽花だな!」
「え?え?」

「ユウキ!紫陽花なんてどこで見た?俺は見てないぞ?」
「うん。なんだっけ?あの・・・あ!!仏舎利塔の掃除をしている時に見かけたよ?」
「花が咲いていなくてよくわかったな」
「うん。沙菜ママが教えてくれたから覚えていた」
「母さんが?」
「うん。パパと克己パパとママと友達の思い出の花だって教えてくれたよ」
「・・・。そうか・・・」

 タクミは、その話を聞いた事がなかった。
 ユウキが知っていたのに少しだけ複雑な気持ちになっていた。嫉妬と呼ぶには小さな気持ちだ。

「ねぇでも、紫陽花は、大きな花だよね?確かにいっぱい咲くけど、ツツジの方が花は多くない?」
「唯。違う。紫陽花は、小さい花が沢山集まって、大きな花に見えているだけだ・・・。だよな?」

 晴海は少し自信がなくなって、タクミや鳴海の方を向いた。
 うなずいてくれたので間違いではないと思う事にしたようだ。

”20分経過”

 キャンプ場から放送が聞こえてくる。
 話し合っている間に、20分が経過してしまったようだ。

「どうする?」
「え?なに?」

 タクミの問いかけに、ユウキが答えるが、唯も晴海も鳴海も同じで、タクミが何を言っているのかわからないようだ。

「20分経ったから、次のヒントがもらえるけどどうする?」
「紫陽花の所を見てから、違ったら次のヒントを貰おうよ!」

 ユウキの提案が採用された。
 そして、ユウキが見たという紫陽花の所に急いだ。
 紫陽花の根本に、宝箱を発見した。タクミたちは、先生の所に戻って宝箱を渡すのであった。

 ユウキが望んだ通りに、一番になれた事で、タクミは少しだけ喜んだのだった。

 ユウキは、先生に宝箱を渡しながら、叫んだ。
「先生!先生!ユウキね!肝試しは、最後がいい!」

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2020/03/30

【第二章 キャンプ】第一話 お泊まり会

「桜!」
「なんだよ」

 そこは、篠崎家のリビングだ。
 森下桜は、悪友で隣に住む篠崎克己の家をたずねている。

 お互いは幼馴染だと言っていい関係だ。
 二人は、生まれ育った町に家を新築した。隣り合った土地が空いていた事や、とある事情で安く購入する事ができるなどのいくつかの偶然が重なった結果だ。二人とも、実家は別にある。実際には、篠崎克己には実家と呼べる物は無い。両親や親戚は、全て他界してしまっている。篠崎克己には、妻の沙菜と息子の巧が居るだけだ。
 森下桜には、母親は存命だが隣町に引っ越してしまっている。

 篠崎克己は、IT企業を経営している。開発だけではなく、運用や導入支援を行っている。元々、大手ベンダーに努めていたのだが、こちらも事情が合って辞めて地元に戻ってきた。名前で仕事が取れる人物だったので、ベンダー絡みの案件だけではなく、いろいろな仕事が舞い込んできている。

 風変わりな二人だが、気があったのは間違いない。
 結婚した時期も同じで子供も同い年になっている。

 今年、子供たちは小学四年生になる10歳だ。

「お泊まり会は行かせるよな?」
「ん?あぁそうだな。タクミは?」

「”行く”と言っている」
「そうか、ユウキと同じ班だよな?」
「そう聞いている」
「そうか、それじゃ問題はないな」

 二人の両親は、お互いの子供が同じ班に入っている事は知っている。以前・・・。桜と克己が子供の時に参加したお泊まり会では、男女6人が班となってテントで寝泊まりしたのだが、いろいろ問題が発生したり、新しく住民になった者たちから反対が有ったり、世間的な事情もあり、今ではキャンプ場に建つロッジを使った2泊3日のお泊まり会に変更されている。

 あんな事件があった後で中止の声も多数上がったが、学校や地元衆が自由参加だから、気に入らなければ参加しなければいいと言って、反対派の意見を封殺した。二人は、どちらでもいいと考えていた。二人の子供が心配ではないのかといわれると微妙なところだろうが、何があっても大丈夫と言えるくらいには信頼をしている。それに、二人は”須賀谷真帆”や”那由多”が本当に絡んでいたとしたら、自分たちの子供に”なにか”するはずがないと思っている。そのくらいの信頼関係はできていると思っている。問題は、自分たちの子供が特に、好奇心が旺盛だということだが、それはどうにもならない事だと諦めるしか無い。

「それで、桜。進展は?」
「さぁな。俺は外されていると言っただろう?」
「それでも、俺たちよりは情報を持っているだろう?沙菜も美和も聞きたいだろう?」

 聞き耳を立てているお互いの妻の名前をあえて出す事で、桜の逃げ道を塞ぐのだった。

 桜は大きなため息を付いてから
「何も解っていない」
「え?」

 一番に反応したのは、桜の妻の美和だ。

「なんだよ。多分、マスコミに近い。美和の方が情報を知っていると思うぞ?」
「そうなの?」
「あぁ結局、解っているのはあの場所で人が死んだことだけだ」

 克己が気になっている事を桜に聞いた。
「なぁ桜。それで那由太は?」
「あぁ・・・。捜査本部は、居場所を掴んでいるようだけど、俺には知らされていない。解っているのは、那由太は今回の件には全く無関係だという事だ」
「そうか、会えないのは残念だけど、関係ない事がわかっただけでも十分だな」
「あぁそうだな。元気らしいぞ」
「そうか・・・」

 二人の間に微妙な空気が流れる。
 心配しているのは間違いないが、事情が解っているだけに、克己も桜に無理を言う事はできない。桜も、克己が何を望んでいるのか解っているのだが、自分から言い出す事はできない。

「ねぇ克己さんも、桜さんも、美和さんも・・・。今は、タクミとユウキちゃんの事よね?」

 沙菜は、4人の中で1人だけ、年齢が離れている。
 そして、1人だけ生まれが違うのだ。地元で生まれ育ったわけではなく、克己が都会に出ていた時に知り合ったのだ。美和からある程度の事情を聞いているので、疎外を感じる事は少ないのだが、それでもやはり3人の中に流れる空気が羨ましく思う事は多い。

「う・・ん。大丈夫だろう?」
「克己さんがそういうのなら信じるけど・・・」
「沙菜さん。大丈夫だと思いますよ。今年から、校長がシマちゃんだから、いじめのような事は絶対に許さないと思うからね」
「うん。わかった。それじゃ準備をしないとね」
「沙菜さん。タクミの荷物の中に、ユウキの着替えを数着入れてほしいけどいいかな?」
「いいですよ?あっそうね。その方がいいね。タクミには言っておくよ」
「ありがとう。でも、大丈夫だとは思うけど、ユウキだからね」
「わかった」

 ユウキには少し困った癖がある。
 困っている人を見ると助けたくなってしまう。その結果自分が困る結果になっても、構わず手を差し伸べてしまうのだ。
 以前、友達の家にお泊まり会をしたときに、”おねしょ”をした友達に自分の着替えを渡して、自分は下着を履かないで帰ってきた事がある。

 それから、タクミにユウキの着替えを持たせる事にしているのだ。

 二人の妻は、お互いの子供が持っていく荷物の準備を始めるのだった。
 桜と克己は、今解っている情報から何が読み取れるのかを検討するのだが、何もわからないという結論に達するまで時間はかからなかった。

「え?シマちゃん?校長先生?」
「桜・・・。その呼び方はやめろと何度言えばいい?」
「あっそうですね。すみません。
「はぁ・・・まぁいい。それよりも、タクミくんとユウキちゃんの準備は?」
「終わっていますよ。おい。美和。沙菜さん。シマちゃんが、迎えに来たぞ!」

 奥から、少し待ってと返事が来た。

「ふぅ・・。お前のところは相変わらずだな」
「シマちゃん・・・。俺たちは、あの時から何もわかりませんよ」
「そうだな」
「あのバカが出てくるまで、ここで待っていますよ」
「そうか・・・」

 タクミとユウキの小学校の校長は、桜と克己と美和の中学校時代の担任教諭なのだ。
 それが回り回って校長をやっている。いろいろ問題がある学校なので、問題解決に尽力した長嶋教諭に白羽の矢が立ったのだ。

 長嶋教諭も、自分が何もできなかった事を悔やんでいて、自分でも何かができるかもしれないと思って、校長を引き受けたのだ。

「あ!校長先生!」

 準備が整った、ユウキが家から出てきた。
 後ろから、タクミも出てきた。タクミの荷物が大きいのは、ユウキの着替えやらが入っているためだろう。

「パパ!克己パパ!行ってきます!」
「おぉ気をつけろよ」「あぁタクミ。ユウキを頼むな」

「うん。行ってきます」

 小学4年とは思えないタクミの返事は別にして、二人は校長に連れられて、他の生徒と合流するのだった。

 お泊まり会は任意での参加が建前で、学校の行事ではない。
 そのために、ボランティアで先生が参加する事になっている。
 校長は、事情があってお泊まり会には参加できない。そのかわり、全員を学校に送り届けるようにしているのだ。

「行ったな」
「あぁ」

 桜と克己は、二人の息子と娘が乗ったバスが角を曲がっていくのを見送るのだった。

「あぁ!ゆい
「おはよう!ユウキ!」

 ユウキは、バスの中に同じ班の女の子を見つけて声をかけた。

 班は6人ですでに決まっている。
 お泊まり会の案内に書かれている。タクミとユウキと唯は同じ班になっている。

「あのね。ユウキ。マユちゃんが来られないって聞いた?」
「ううん。初めて聞いた。タクミは知っていた?」

 タクミは急にふられて困惑しながらも知らなかったと答えた。

 学校に到着して、バスを降りる3人に駆け寄ってきたのは、一緒の班になっている二人だ。

「おはよう。ユウキ。唯。タクミくん」

 双子の女の子である。鳴海が挨拶してきた。

「おはよう。ハルちゃんは?」
「ユウキ。何度言えば間違いを訂正する!ボクは、男だから、”ちゃん”はやめろ」

「おはよう。晴海はるみ鳴海なるみ。早いな」
「うん。父さんに送ってもらった」

 タクミと晴海は、挨拶をする。
 二卵性双生児である、晴海と鳴海は双子だが性格はかなり違っている。元々は、違う班だった晴海と鳴海だが、ユウキと鳴海が先生に掛け合う事で、同じ班にしてもらったのだ。1人入っていた子は、それほど中がいい子ではなく、その子も別の班が良かったと言っていた。学校行事ではないので、この辺りはゆるくなっている。
 お泊まり会の部屋割りや作業の都合上、6人で班を作る事になっている。

 学校から、キャンプ場までは歩いての移動となる。
 10歳の男女と先生での移動となる。キャンプ場は、山の頂上付近にあるが、700mちょっとの山なので、登るのにもそれほど苦労しない。
 登山道も整備されていて、キャンプ場は比較的安全に移動する事ができる。

 朝方に学校を出発して、山道を歩く事3時間。
 目的地に到着した一行は、予定通り持ってきた弁当を食べてから、班ごとに活動を開始する事になる。

 タクミとユウキは、晴海と鳴海と唯と一緒に明日の晩に行われる肝試しの準備をする事になっている。
 準備と言っても、大抵の準備は先生が行っているので、タクミたちの作業は肝試しのときに歩く道の掃除をするくらいだ。

 肝試しは、キャンプ場で先生の話を聞いてから、班ごとに近くにある仏舎利塔とまで歩いていって、そこで先生を交えた手紙の交換をして、帰ってくるという至ってシンプルな物だ。これは、親の世代から変わらない。

 この地方にだけ見られる現象なのかわからないが仏舎利塔が星型になっている。その頂点になっている場所に手紙が置けるようになっている。先生が一度手紙を預かって、仏舎利塔の所定の位置に手紙を置く。
 皆が所定の位置についた事を確認した先生が、声をかけて、手紙を持って次の人に手渡す事になる。一周ぐるっと回って、皆が手紙を受け取ったら、成功となる。手紙は、誰宛でもいいのだが、順番は班で先に決めて先生にお願いしておく事になっている。

 どこが肝試しになるのかと言うと微妙だが、先生の怖い話を聞いた後で懐中電灯一つだけ持って街灯が無い場所を歩く事は十分な恐怖心を掻き立てられる。それだけではなく、聞いた事が無い虫や動物の声が聞こえてきて案外怖い。
 それだけではなく、仏舎利塔では1人になって皆が一周するのを待たなければならない。懐中電灯があるとは言え心細いのは間違いない。
 歩き慣れた道ではない場所で、声は聞こえるかもしれないけど、普段と違った感じで聞こえる友達の声。
 早い子たちでも、一周するのに、10分くらいはかかってしまう。

 タクミたちは、仏舎利塔までの道に落ちているゴミを拾っている。

「先生!草は切らなくていいの?」

 ユウキが、先生に質問をしている。
 道幅は、それほど広くはないが、通れないほどではない。邪魔になりそうな草はすでに先生たちが刈ってある。

「大丈夫。大きな石やゴミを拾って」
「はぁーい」

 他のゴミ拾いをしている子たちも一斉に答えるのだった。

 一日目の夜は、キャンプ場でみんなで作ったカレーを食べて終わるのだった。

2020/03/30

【第一章 過去】第三話 忍び寄る影

『きゃぁぁぁぁ!!!!』

 どこからか悲鳴が聞こえる。

 鈴と菜摘も悲鳴の方を見ると、前面に備え付けられていたスクリーンが降りてくる。

 スクリーンに何かが投影され始めたのだ。
 最初は、最近死去した者たちの写真が流れた。

 その後、鈴と菜摘も会場で見かけた者たちの名前が流れるように表示される。

「(山中と古谷?)」

 鈴は後ろの席に座っていた二人の名前を見つけて、気になって後ろを振り向いた。

 鈴と菜摘のテーブルは中央の最前列になっている。
 横には、今は静かになっているが、騒がしかった立花たちが座っている。

 確か、山中と古谷は後ろのテーブルに居たと記憶していた。

「(菜摘・・・。後ろ・・・)」
「(どうし・・・た・・・。え?なんで?)」

 鈴に言われて、後ろを振り向いた菜摘も、後ろに山中と古谷が座っていたのを記憶していた。
 しかし、二人が見たのは誰も居ないテーブルだけだ。

 そして、テーブルの蝋燭も消えている状態だ。

 いくつかのテーブルで同じ状況になっているようだ。

「(菜摘・・・。前・・・。見て・・・)」

 菜摘は、鈴に言われて前にあるスクリーンに映し出された情報を見た。
 文字としては認識できる。そこまでは耄碌していない。日本語で難しい言葉ではない。

 しかし、文字として認識できることと、内容を理解することがイコールで結びつかない。

 他の同級生や先生方も同じだ。

 誰も声を出さない。”出ない”のではない、”出ない”状況なのかもしれない。鈴と菜摘は、流れる文章を目で追っている。
 26年前から25年前に渡って行われたことが、”須賀谷真帆”の日記のように書かれている。

”4月25日 古谷さんから呼び出された。呼び出し場所で、後ろから殴られた”

 事情が細かく書かれている。
 そして、皆の目を奪っていたのは、その日の日記の終わりの部分だ。

”罪状:監禁と傷害”
”判決:死刑”

 この同窓会の主催となっている川島も”死刑”とされていたことだ。名前が挙げられた者や、罪状有りと書かれた同級生の家族や関係者も存在している。
 そして、数ヶ月の間に死亡した全員が”死刑判決”を言い渡されている。

「(真帆が?なんで?)」

 鈴が不思議に思うのも当然だ。同級生や家族・関係者の葬儀に参列しても”殺された”や”殺人”ということは聞かされていない。本当の事件だったりしたら、警察が来ているだろうし、そんな気配はなかった。皆が、最近事故死や病死が多いな・・・。と、思う位で終わっている。

 そして、真帆が復讐をするにしても、姿を見せて行うのでは無いかと考えたのだ。

 今日、この場に居た者も”死刑判決”を受けている。

 鈴が覚えている、真帆が行方不明になる前日の日記が表示された。

”8月22日 立花くん。西沢さん。日野さんから一緒に来いと言われた。私は、ここで行方不明になる”
”罪状:不明”
”判決:保留”
”事由:証拠が不十分”

 皆が凍りついたかのように前を見つめている。
 言葉を発するどころか、座った椅子から立ち上がろうともしない。動きが阻害されているわけではないのに、なぜか全員が動かないのだ。

 突然、全ての電灯が光りを灯した。
 暗い状態から、いきなり明るくなった。正面からは強い光が皆に照射されているようで、全員が眩しくて目を開けていられない。

 光りが徐々に弱まってきて、皆が目を開ける。

「(え?)」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 鈴と菜摘は、正面で見てしまった。

 先程までスライドが流れていた場所に、明日から首の重さに耐える必要がなくなった、14体の胴体が椅子に座っていた。

 そして、座った状態で、膝の上で首を持っている。

 ただし、自分の首では無いようだ。
 どういう理屈になっているのかわからないが、他の人の首を大事そうに抱えている。

 不思議なのが誰も血を流していない事と、顔が皆笑っている状態になっている事だ。
 その笑顔と状態のギャップが皆に恐怖心を受け付けていた。

 悲鳴がだんだんと小さくなる。恐怖が突きつけると、人は冷静を取り戻すのかもしれない。それが勘違いだとしても、会場に静寂が訪れた。
 徐々に、誰も喋らなくなってしまった。ただ、前面に並んでいる14のさっきまで動いていたであろう死体を見つめている。

 菜摘が数えた出席者は、210名と6名。
 アナウンスされた出席者は、197名と教師5名。

 今、首を抱えている者は、先程のスライドで”死刑判決”が出ている者たちだ。

「警察を呼べ!!犯人は、この中に居る!」

 誰が叫んだのかわからないが、警察が到着するまでの時間の事は、出席者全員が同じ供述をしている。しかし、”警察を呼べ”と言われる前の記憶が曖昧になってしまっているのだ。酷い者は、朝からの記憶が混濁してしまって、矛盾だらけの供述をした者も居る。

 鈴は比較的記憶がはっきりしていた。
 自分がボイスレコーダーで録音していたのを思い出した。警察に求められて最初から録音状態になっていたボイスレコーダーを提出した。
 警察立会いで、ボイスレコーダーの内容を確認した。不思議な事に、鈴と菜摘の会話や周りの話し声は録音されていたが、主催や”須賀谷真帆”の日記を読み上げる声は録音されていなかった。

— 県警の資料課

「森下さん」
「なんだよ・・・。あぁその事件は、俺は担当から外されたぞ?」
「え?」
「当然だろう。俺の同級生の那由太が絡んでいると思われて、、知っている奴も多いし娘の同級生の母親や父親も被害者や参加者に居るからな」
「そうなのですか?」
「あぁあの問題が多い。同級生だからな」

 森下もりしたと呼ばれた刑事は、準キャリアなのだが性格や普段の言動が問題視され閑職に回されている。
 今は、地元の地方都市で資料課の課長やっている。地元では顔が利くために、他所から来た署長や他の課長から案内を依頼される事が多い。森下の欠点なのか美点なのか功績を欲しがらない所がある。自分がやりたかった事はもう終わったと言って出世を望むような事もない。署長や他の課長は、その事を知っている為に、森下をいいように使う事が多い。

 資料課は、過去の事件の資料を整理して分析するのだが、奇怪な事件を担当して、解決に導いている。森下班と呼ばれるまでに実績を残している。
 そのため、今回の事件も当初は森下班に回される事に上層部は決めたのだが、初動捜査に当たった所轄から被害者や状況が伝えられて、森下班は捜査から外される事になった。

「須賀谷那由太さんでしたか?」
「そうだ・・・。なんだ、捜査本部にでも聞いたのか?」
「森下さん。本当に、マスコミが嫌いなのですね?」
「ん?別に嫌いじゃないぞ?ただ、報道の自由とかいうわけのわからない権力を振りかざして、自分が安全な位置に居ることを確認してから、対岸の火事を煽っているゴミが嫌いなだけだ」
「それだけ言えれば、十分マスコミが嫌いだと思いますけどね。まぁいいです。もう連日報道の嵐ですよ。全国的なニュースになっていますよ」
「そりゃぁそうか・・・」
「えぇ関係者だけ考えても・・・。直接の被害者が14人。会場に居た人たちの話では、それだけではなさそうな雰囲気ですからね」
「あぁそれも、いじめていた奴やその家族が被害者なのだろう?」
「そうですよ。それで、いじめの被害者からの復讐だって騒がれていますからね」
「でも、真帆は行方不明なのだろう?」
「はい。それで、生存している事になっている兄の那由太が犯人ではないかと言われていますが、保護プログラムを利用して名前を変えて、都内で生活しているので、今回の件は一切関係ない事が解っていますし、マスコミも兄が居た事は報道していますが、そこまでですね」
「そうか・・・ネット上は?」
「特定班が動いているようですが、那由太さんの現在の名前や素性は特定できていないようですね」
「そうか、それなら良かった」
「森下さんは、知っているのですか?」
「ん?那由太の事か?知らない。もし、知っていたとしても言うと思うか?」
「思いません。上も、那由太さんは今回の件は関係ないと見ているようですよ」
「そうだろうな・・・。それで?」
「え?それだけですよ?」
「そうか・・・」

 森下は、それ以降黙ってしまった。
 部下が自分から離れていった事実に気が付かないほどに”何か”を考えていた。

「(なぁ安城。井原。俺は、どうしたらいい?)」

 森下は、服役している親友と言うべき男性と女性の事を考えた。
 そして、”いじめ”と嫉妬で行方不明になって殺されてしまった初恋の相手に問いかけている。勿論、返事などはない。

「(あの街は・・・違うな。いびつな状態になってしまっているのだろう。俺たちの責任かもしれない・・・)」

 警察は、必死に捜査を行っているのだが、証拠らしい証拠が見つからない。
 容疑者と思われていた、須賀谷那由太は一切関係ない事や当日のアリバイも確認されている。

 殺害結果は解っているのだが、殺害方法が一切不明。
 殺害時間は、参加者の説明でおおよそつかめているが、正確な事は不明。

 それだけでも不思議なのに、あの会場の設備や設営を行った者がはっきりしないのだ。運営会社に問い合わせても、明確な答えが返ってこない。
 かなりの捜査員を動かして現場検証から聞き込みを行った。参加者で生き残った202名から聞き取りを行い、聞き取った内容の裏取りを行っただが、不思議な事に多くの者がなぜ参加したのかわからない状況なのだ。驚いた事に、ほとんどの同級生が最初は出席しないと考えていた、しかし急に予定がなくなったり、誰かに誘われて出席を決めたり、事情は異なるのだが最終的には参加を決めた。そして全員が最初から参加する予定だったかのように準備が行われていた。

 ”須賀谷真帆”からの招待状を受け取ったのは、死んだ14名と立花・山崎・三好・西沢・日野・金子と杉本だ。
 全員が、警察の求めに応じて招待状を提出した。驚いた事に、筆跡は”須賀谷真帆”の物で間違いない。

 まさに、行方不明者からの手紙だという事だ。
 ”須賀谷真帆”が生きていて、いじめた者たちに復讐したのではないかというストーリーも成り立つのだが、同窓会が開かれたビルの監視カメラを数日前から調べたが、不審な人物の出入りはなかった。
 捜査範囲を広げたのだが、”須賀谷真帆”を発見する事はできなかった。

 25年前に行方不明になっている少女を見つける事ができないまま捜査は暗礁に乗り上げる形となった。
 マスコミは連日にわたって好き勝手な事を並べ立てるが、結局何も新しい発見がないまま時間だけが経過する結果となった。

 そして、夏休み終盤。
 今年も真帆が行方不明になった、小学生4-6年生によるお泊りキャンプが開催される事になった。

2020/03/30

【第一章 過去】第二話 同窓会

 そこは、ビルの3階にある結婚式の二次会で使われることが多い広いスペースを持つ飲食店だ。
 同い年の男女が200名ほど集まっている。俗に言う”同窓会”が執り行われている。

 通常の同窓会では、会費を入り口で徴収するなどのことが行われるが、この同窓会では、受付に名簿があるだけで誰かが立っているわけではない。
 心配した数名が、会場の設営をしてくれた者たちに確認をしたら、すでに代金の支払いが終わっていることや、進行や設営の指示は貰っているということだ。

『同窓会にお越しの皆様』

 アナウンスが始まった。
 席が決められている様子だ。皆が、受付に置いてあった紙を手にとって、自分の名前が書かれている席に座る。

 異常な状態に気がついたのは数名だけのようだ。

「スズ」
「なに?菜摘?だよね?」

 名前を呼ばれたのは、九条くじょうすず。旧姓では、宮前みやまえ鈴という女性だ。
 名前を読んだのは、太田おおた菜摘なつみ。旧姓、吉村よしむら菜摘だ。

「うん。久しぶりだね。スズは変わらないわね」
「そうだね。葬儀には行っていたけど、子供がまだ小さいから・・・。私、変わったわよ。年をとったし、結婚して、名字も九条に変わったわよ。菜摘こそ変わらないわよ」
「ありがとう。でも、小学校から考えると、体重では10キロも増えているし、子供も産んだし、名字も大田に変わったわよ」

 二人とも。小学校のときのあどけなさはなくなっているが、あまり変わらない容姿を保っている、名前を言えば殆どの人間が解ることだろう。

「ねぇスズ。おかしいと思わない?」
「そうね。確か、幹事に名前が出ている、大島くんが死んだのは、2ヶ月近く前よね?」
「うん。それだけじゃなくてね。この席順・・・何か感じない?」
「え?」

 鈴は、そう言われて、自分たちのテーブルを見たが、自分のテーブルには菜摘の名札以外は存在しない。
 他のテーブルには、4-5人が座っているテーブルがある。テーブルは全部で、28卓ある。

「菜摘。これって・・・小学校のときの?」

 鈴にはそれしか答えが見つからない。
 小学校4年生に行われたキャンプの時にグループ分けに似ていると考えているのだが、事実グループ分けと殆ど同じなのだ。違うのは一点だけだった。

「でも、スズ。それなら・・・」
「そうね。真帆まほの・・ううん。なんでもない」

 二人は解っている。 
 須賀谷真帆が自分たちのグループだったのだが、西沢と日野に連れて行かれたことを・・・。そして、そのまま行方不明になったことを・・・。

 西沢と日野に真帆を連れて行くのを辞めさせなかった事を二人は今でも悔やんでいる。忘れたくても忘れることができない。特に、鈴は真帆の親友だと思っていた。
 大人になってからも、鈴は旦那のすすむを連れて、キャンプ場に訪れている。まだどこかに真帆が居るように思えてならないのだ。

 真帆が行方不明になったときに、他の者たちは立花や西沢や日野が怖くて、先生には言わなかった。
 しかし、二人だけは、担任だった杉本に、真帆を西沢と日野が肝試しのときに連れて行ったと正直に言った。その結果、二人はいじめを受けることになったのだが、3つ年上の後の旦那になる九条くじょう進や九条の友達だった真辺まなべ森下もりした篠崎しのざきらが対処することで”いじめ”は収束した。

 しかし、その為に鈴や菜摘の住んでいる町では、旧住民と新住民との間にできていた溝が深まったのも事実だ。

「誰だ!こんな手の込んだいたずらをしたのは!」

 立花が大声を上げながらテーブルを叩く。

 立花たちが座っているテーブルには座席が7つ用意されていた。
 立花/山崎/三好/西沢/日野/金子が同じグループだったのだが、7人ではない。

 その7人目の椅子の名札が、”須賀谷真帆”と書かれていたのだ。

「そうよ!誰?こんなことをしたのは?宮前さん?それとも、吉村さん!」

 急に名前を上がった二人に皆の視線が集中する。

「え?」
「なんのこと?」

 ”バチィン”

 会場の電気が消えた。

 耳障りな音が鳴っている。
 音がどこから聞こえたのか判断できる者は居ない。

 女性の悲鳴が聞こえてくるなか、物音がしても気がつく者は居ない。
 悲鳴が少しずつおさまっていく、別に火事が発生したり、自身が発生したりしたわけではない。突然電灯が消えて、耳障りな音がしただけだ。よく周りを見回してみれば、非常灯や案内灯は点灯している。

「電話がつながらないぞ!」
「出口も開かない!」

 ”お静かに願います。主催からの依頼が有りました演出です。席にお戻りください。席にお戻りください”

 会場内に、機械音と考えられるメッセージが流れる。
 パニックになりかけた同級生たちが一斉に静まり返る。辺りは、非常灯だけが頼りだ。数名は持っていたスマホを明かり代わりにし始めている。

 テーブルの上にあった、蝋燭に火が灯ったのはそんなときだ。
 電灯の明かりではなく、火のゆらぎは人の精神を安定させる効果があるのだろう。

 喧騒がおさまっていく。
 皆が火のゆらぎを見つめている。集団催眠にでもかかった状態だ。

 ”今、皆様は昔の班分けで座っていらっしゃいます”

「(やっぱり)」

 鈴と菜摘は、お互いの顔を見る。

 ”残念なことに、数名の方はご出席していただけなかったのですが、197名と5名の先生方にはご出席していただけました”

「(ねぇ菜摘。少しおかしくない?)」

 鈴は、今の放送に違和感を覚えた。

「(え?なにが?)」
「(だって、この同窓会は、任意だよね?それに、主催は・・・)」
「(うん?)」
「(ねぇ菜摘。招待状が届いたのはいつ?)」
「(3ヶ月位前だと思うよ?川島くんの事故の前だったから・・・)」

 川島という同級生が、この同窓会を主催したことになっている。

「(そうだよね?参加の返事は?)」
「(え?あ・・・そう言えば、不参加にして返信したけど、なんかわからないけど、予定が空いちゃって、参加することにした・・・けど?あれ?私・・・誰に連絡したのだろう?)」
「(それに、川島くん以外のメンバーも他界しているよね?)」

 主催は、川島の名前だが、連盟で実行委員会が作られていて、数名の同級生の名前が書かれていた。
 しかし、不思議な事に主催の川島だけではなく、実行委員会に名前が書かれていた全員が死亡してしまっているのだ。

「(あっうん)」
「(じゃぁなんで、今日出席しているのが、197名と5名の先生だって解るの?)」
「(・・・。それは、主催に頼まれた人が、数を確認したからじゃないの?)」
「(そうだといいのだけど・・・)」
「(え?なに?気になるよ?)」

 二人は、顔を寄せ合って小声で話している。
 他のテーブルでも同じように現状確認をしているのだろうか、話している内容はわからないが、何かを話している声が聞こえている。

「(ねぇスズ?)」
「(なに?)」
「(今ね。数を数えたのだけど・・・)」
「(うん?)」
「(先生は、6名で、同級生は210人だよ?)」
「(え?間違いない?)」
「(うーん。絶対とは言わないけど、200名は越えているよ?)」

 菜摘の指摘の通りなのだが、鈴としては数が違ったからと言って、現状が何か変わることではない。

 会場内に流れる声は、説明を続けているのだが何も頭に入ってこない。
 飲み物に関する注意事項や食べ物に関する注意事項が話されていることは解るが、なぜそんな話をするのかわからない状況だ。

 鈴は、会場に入る時に、何かのネタに使えるのではないかとボイスレコーダーで会場の雰囲気を録音している。なので、後で聞き返せばいい程度に考えていたのだ。会場に流れる声だけではなく、雰囲気が異様な状況になっているのを軽く無視したのだ。

 ”・・・。長々と説明いたしましたが、注意事項は是非お守りください。それでは、25年後の再会を記念して乾杯したいと思います”

 ”どうぞ、目の前のグラスをお持ちください”

「(え?)」「(なんで?)」

 鈴と菜摘だけではない。
 目を離したわけではない。暗闇に蝋燭の炎だけの明るさだったが、目の前のテーブルにグラスはなかった。
 グラスだけではない。食事も用意されている。いつの間に用意されたのか?

 グラスには、液体が満たされている。
 鈴も菜摘も匂いを嗅いでみるが不快ではない。むしろ美味しそうな匂いさえもしている。

 皆が蝋燭の灯りの中でグラスを手に持っている。

 ”それでは、乾杯プロージット!”

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2020/03/30

【第一章 過去】第一話 葬儀

 黒い服に、黒いネクタイをした男性が2人で話をしている。
 葬式に参列して、顔なじみに会って近況を話し合っているようにも見える。

「なぁ」
「なんだよ」
 
 しかし、二人はここ4ヶ月で、3回の葬式に参列して顔を会わせている。
 
「少し葬式が多くないか?」
「あぁ?そうか?こんな感じじゃないのか?」

 4回を少ないと考えることはできそうに無い。
 しかし、二人は多いと考える事ができなかった。

「おっ西沢!久しぶりだな」

 西沢と呼ばれた女性が立ち止まって二人を見る。

「なに?立花くんも山崎くんも来ていたのね」
「そりゃ来るよ。同級生の葬式だからな」
「二人が来るなんて珍しいわね」

 ここ4ヶ月で3回目の参加となるが、同級生だけで6人が死んでいる。同級生の関係者を含めるともっと多くなる。

「そういう。西沢も滅多に来ないよな?」
「え?全部参列したわよ?私が同級生だと思った人たちの葬儀には参列したのだし十分でしょ?」

 立花と呼ばれた男性と山崎と呼ばれた男性がお互いの顔や、自分たちが参列した葬儀を考えた。
 そして、二人はくぐもった笑い声を発した。

「たしかに、俺たちが参列しなきゃならない葬儀は3回だったな」
「そうでしょ?それよりも、立花くんも山崎くんも同窓会はどうするの?」

 3人の所にも、同窓会の案内は来ていた。
 この同窓会は、少しだけ問題がある。主催として名前が書かれていた人物が、事故で死んでしまっているのだ。

 しかし、代金はすでに支払われているために中止にする必要もない。
 それだけではなく、小学校時代はいろいろと問題が有ったのだが、立花としては同窓会に出て少し疎遠になっている、自分が考える同級生たちと話をしておきたかった。山崎と西沢も細かい理由は違うが、同級生たちと話をしたいのは同じだ。

「そうだな。俺は、出席しようと思っている」
「え?どうして?こういうのは、嫌いだと思っていたわよ」
「嫌いだけどな。親父が次の選挙の前に引退するからな」

 立花議員は、県議会から国政に移動して連続7期務めた。与党の中でも中堅派閥の取りまとめ役をやって、副大臣と大臣を務めた。その立花議員の地盤を受け継ぐのだ、いきなり国政選挙では勝ててもギリギリと推測されている。そのために、まずは県議会に出馬して実績を作ってから、父親が引退する時に、地盤を引き継いで国政に出ると宣言する予定なのだ。
 立花は、数名の同級生を陣営に加えたいと考えていた。山崎には、先程話をして了承の返事を貰っている。

「へぇーそうなの?それじゃ、その前に箔を付ける為に選挙に出るの?」
「あぁ再来月に予定されている県議会選挙に出る。そうだ、西沢。お前の旦那。IT会社の社長だったよな?」
「え?えぇそうよ」

 西沢は、急に旦那の事を聞かれて、驚いたのだが、社長夫人という肩書は虚栄心を満たすのには十分な役割を持っている。

「選挙のことで相談したいことがある」
「いいけど・・・」
「なんだよ?」
「IT関係なら、山崎くんの所でもできるわよね?」

 急に、話を振られた山崎は立花と西沢の顔を交互に見てからため息をついた。

「立花にも言ったけど、俺の所でもできるけど、畑違いだ。俺の所は、親父の会社に関係するソフトウェアを作っているだけだからな。情報収集は得意じゃない」

 山崎が”俺の所”と表現したのだが、彼の会社ではない。西沢が自分の旦那の会社と表現した為に、虚栄心を満たすために”俺の所”と表現したのだ。
 父親が社長を務めている企業の子会社であり、社長は別に居るのだ。山崎は、そのIT会社に専務として働いている。
 もっと正確に言えば、籍を置いてあるだけで実質的には何もやっていない。システムのことも一切わからないのだ。

 そして、山崎が断ったのは、できるかできないか判断できなかったこともあるが、立花という男の性格を理解しているからだ。
 問題が出てこなければいいのだが、少しでも立花の思っているのと違う方向に物事が動き出したら、間違いなく癇癪を起こす。周りにあたるだけならいいが、契約を無条件に破棄した上で賠償金を払えと平気で言ってくる。部下は奴隷で、取引相手は召使いとでも思っているように振る舞うのだ。
 そんな相手と仕事がしたいとは思えないでいたのだ。山崎にとって立花は利用できる知り合い以上ではないのだ。これは、立花も同じだ。だからこそ、自分の本丸には相手を近づかせないのだ。

「へぇそうなの?旦那の所なら、なんでもできるから、大丈夫だと思うわよ?」

 西沢は見栄でそう答えた。山崎ができないと言ったことを、自分の旦那が”できる”のは気分がいい。
 立花に近づく為にも好都合だ。西沢の夫が社長をしているIT会社は、公共事業に近い物を他の企業に回して利ザヤを稼いでいる、中間搾取会社なのだ。自社に技術者は居る。しかし、ほとんどが営業職で、肩書だけ”SE”を名乗っていたりする。実際には、システム構築ができるのか怪しい者も多く在籍している。

「それは助かる。山崎。俺は、ITのことがわからん。西沢のことは信頼できると思うが、誰か目端の利く奴を紹介してくれ」

 立花も馬鹿ではない。粗暴で、気分しだいで、暴力をいとわないが、馬鹿ではない。自分が得意としていることと、苦手としていることの区別はできる。できると自分で思っている。そして、騙されるのが一番キライなことなので、責任を転嫁できる相手を最初から用意しておくことにしたのだ。
 山崎も、西沢も、立花の言っていることは解るが気持ちがいいことではない。

 3人の間に微妙な沈黙の時間が流れる。

「お!お前たち!」
「「「え?杉本(先生)?」」」

 誰が、先生の呼称を付けたのか説明する必要が無いだろう。
 3人に声をかけたのは、間違いなく小学校の担任だった。杉本先生である。キャンプ中に少女が行方不明となるがあり、責任を取って一時的に休職扱いになっていたのだが、数年後に他県で復帰して去年から問題が起きた小学校で副校長を務めている。
 これだけ聞くと、立派な教育者に見えるのだが、コネをフルに使って問題を矮小化して報告して処分を免れていた。実際に、担当していた生徒が1人行方不明になっている。それもいじめられていた生徒だ。いじめていた者たちの親が社会的な地位があり、恩を売る形でいじめの事実を隠蔽したのが、杉本教諭だったのだ。

「君たちに聞きたいことがあって探していました」
「俺たち?」「私?」

「そうです。立花くんと山崎くんと西沢さんと、あと1人は・・・。確か・・・日野さんだったと思うのですが・・・。最近、身の回りでおかしなことが起こっていませんか?」

 杉本教諭の問いかけに、微妙な表情をする3人。

「それと、三好くんに山中くんに、金子さんに古谷さんだったと思うのですが、何かきいいていませんか?彼らも来ていると思ったのですが、来ていないので、まずは見つけた君たちに話を聞くことにしたのです」

「え?」
「はぁ?」
「・・・」

 三者三様の反応だが、彼らが今日の葬儀に参列したのも、杉本教諭が参列したのも建前の理由は別にして、根本的な理由は同じだったのだ。

 4人の手元に届けられた、同窓会の案内と同時に届けられた手紙がある。
 内容はそれぞれ違うものだったのだが、無視できるような内容ではなかったのだ。

 差出人が、”須賀谷真帆”となっていたのだ。
 いじめを苦に行方不明になった少女からの手紙が添えられていた。それを確かめる為に、4人は葬儀に参列したのだ。

 杉本教諭が上げた8人の名前(立花/山崎/三好/山中/西沢/日野/金子/古谷)は、真帆をいじめていた側の人間なのだ。勿論、3人には杉本教諭が何を聞きたいのか解っている。解っているのだが答えられない。なぜなら彼らもまたそれを確認したいと考えていたのだ。

「杉本。それで、お前はなんて招待を受けた?」

 立花が発したこの言葉は、立花が目の前に居る3人以外と接触して、情報を得ている証左である。
 しかし、自分以外にあまり関心がない3人は、立花が言った言葉を深く考える事なく、話を流してしまった。

 立花は、招待状を送りつけられてから、”須賀谷真帆”の名前から自分を貶める一派が有るのだと推測した。そして、父親の権力を使って調べさせた。

 今、4人が参列している葬儀も、”須賀谷真帆”からの招待状を受け取っていた1人だった。

 4人は、その場では同窓会に顔を出すことだけを確認して、”須賀谷真帆”からの招待状に関しては、言及しないまま別れた。
 過去の事象が現実に牙を向き始めたことを認識した。

2020/03/30

【序章】第一話 終わり

 すべて終わったわけじゃないけど、ボクにできる事はもうない。

 パパ。ママ。ユズ姉。ボクは地獄に行くよね。ボクは、天国には行けないよね。これだけのことをしたのだから、当然だよね。
 後悔なんてしていないよ。ヤツラは、奴は、それだけの事をしたのだから、報いを受けないとね。ボクは、喜んで地獄に行くよ。この身体が・・・心が・・・100万回引き裂かれても、悠久の時を苦しもうと後悔はしないよ。ボクは、パパとママとユズ姉とナユ兄のことを思い出して、それだけでボクは大丈夫。だから、ボクのことは安心してね。

 パパとママとユズ姉の為にしたことじゃ無いからね。

 パパ。ママ。ユズ姉。ナユ兄を見守ってあげて欲しいな。
 ボクには、もう何もできそうに無いから・・・。

 バイバイ。
 ボクの大切な人。ボクの大切だった人。ボクを大切だと言ってくれた人。

「父さん!どういうことだ!」
「ナユ・・・。俺にも、わからない。今、母さんとユズが探しに行っている」
「だから、どうして、真帆が帰ってきていないことが問題になっている!まだそんな時間でも無いだろう?」

 那由太の指摘が正しいことは、父親も認識している。
 夏に差し掛かる時期で、18時と言ってもまだ薄暗くなる程度の時間だ。それに、真帆が今日は習い事そろばんに行く日で帰ってくるのは、19時近くになる予定だ。その時間に合わせて、今年中学3年になった那由太が迎えに行くことになっている。

 須賀谷家は、祖父母と父親と母親と長女である柚月。長男である那由太。年の離れた皆から可愛がられている真帆の7人家族だ。いや、だったと言うべきなのかも知れない。

 ここの所、須賀谷家は不幸が連続している。

 船乗りであった、祖父が釣り人の事故に巻き込まれるようにして海に投げ出されて行方不明になっている。
 祖母は、祖父の事故があった翌々日に街で轢逃げされ、病院で息を引き取った。祖母の葬儀の準備をしている最中に、祖父が遺体で発見された。背中に刺し傷があったことから事故ではなく事件扱いになったが、祖父の事故を引き起こした釣り人は結局見つかっていない。

 祖父母を短時間の事件で失った。
 祖父を突き落としたとされる釣り人だけではなく、ひき逃げ犯もまだ捕まっていない。捜査が行われていることになっているのだが、誰かが捕まったという情報すら出てこない。マスコミも最初は報道したのだが、なぜか報道が一斉に自粛され、どこも報道しなくなってしまった。

 そんなタイミングで、末っ子の真帆が塾に来ていないと連絡が来たのだ。

 姉の柚月が連絡を受けてすぐに家を飛び出した。母親も、嫌な予感がして家を飛び出した。

 父親は、二人が飛び出してしまったことで、家に残って連絡係をすることにしたのだ。
 そこに、長男である那由太が帰宅した。那由太は、部活に出ていたが、柚月が学校に探しに来た時に話を聞いて、急いで家に帰ってきた。

 那由太が急いで帰ってきたのにもわけがある。
 真帆は学校でいじめられていたのだ。それも、理由が理不尽すぎるのだ。いじめている連中のことはわかっているし、家族揃って真帆には学校に行かなくてもいいと行っている。小学校の授業くらいなら、柚月も那由太も教えられる。母親も父親も教えることができるので、大丈夫だと言っていた。

 真帆は、恵まれた環境だということでいじめられていた。それだけではなく、父親と母親の仕事が影響しているのは間違い無い。
 父親と母親は、地方紙の記者をしている。地域に根強く残っていた村社会による差別やいじめ、それによる不当な取引の実態を調べ上げて記事にしたのだ。記事は正当な物だが、一部の既得権益に染まっていた連中から見たら裏切り以外の何物でもなかった。
 特に、町議会から県議会に上がって、国会議員になっていた者へのダメージは大きかった。その議員自身が何かをしていたわけではない。昔からの慣習に従っただけだ。だから、国会議員はマスコミで釈明すればそれで終わったのだが、そうならなかった者たちが居た。
 議員の名前を使って、地元で利権を貪っていたヤツラだ。国会議員も、自分の名前を使われたと釈明した。実際の所はわからないが、地元ではそれで筋が通った。禊も終わった。問題は終息したはずだった。

 しかし、自分たちが法律違反をしたと思っていなかったヤツラは、国会議員に見捨てられたことよりも、そんな記事を書いて、地元の慣習を壊した記者を裏切り者だと糾弾した。幸いなことに、既得権益を得ていた一部の者たちは、昔からの住民ではなく、既得権益を得る為にやってきた者たちだ。
 一部の者は街を追われるように出ていった。街には、高層マンションが立っていて、そこの住民で既得権益を得ていた者は多くが残った。後から来た住人が、田舎町を馬鹿にする。

 そんな図式の中で、真帆は馬鹿にしてきた自称セレブな住民の子供を馬鹿にした。相手にしなかったというのが正しいのかもしれない。選民意識を持った親から教育を受けていた子どもたちは、自分たちも選ばれた人間だと思っている。そんな自分たちのことを無視する地元の子供を許せるわけがなかった。
 すぐにいじめに発展した。最初は、無視するレベルだったことがエキサイトした。暴力になるまで時間は必要なかった。

 そんな真帆が学校から帰って来て、習い事に来ていない。

「ユズ!」

 父親と那由太が言い争いをしている所に、柚月がボロボロになってスカートを履いて、膝を擦りむいた真帆を連れて帰ってきた。母親もすぐに戻ってきた。
 港に呼び出されて、言われた場所に居たら後ろから殴られたと言っている。父親も、母親も、柚月も、那由太も、真帆が言っていることが嘘だとわかっていても、真帆が言いたくないのだろうと考えて、あえて詳細に関しては聞かないことにした。

 それが間違いの始まりだったとしても、須賀谷家の”今”は、通常な状態ではなかった。

 そんな事件が発生してから、1ヶ月後。
 真帆が通っている小学校では、キャンプが行われることになった。キャンプは、二泊三日で行われる。元々予定されていた物で、参加は義務ではないが強制に近い物がある。父親も母親も柚月も那由太も心配して、参加を取りやめるように言ったのだが、真帆が友達と約束しているから参加すると言って、キャンプに行くことになった。

 キャンプで何が有ったのか家族にはわからない。
 何度も、何度も、何度も、キャンプ場に足を運んだ。そして、学校にも、教育委員会にも直訴した。しかし、返答はいつも同じだ。”警察の捜査結果を待っている”しか帰ってこない。

 キャンプ二日目の肝試しから真帆が帰ってこない。
 連絡を受けた須賀谷家は、父親と那由太が現場に向った。すでに複数の親が子供を迎えに来ていた。

「先生。どういうことですか?」
「須賀谷さん・・・」

 先生の説明でわかったことは一つだけだ。真帆が、肝試しが終わった後から姿が見えないということだ。警察と消防が出てきて、キャンプ場の周りを探しているから、しばらくしたら見つかると説明を受けている。父親と那由太は、説明を聞いて、学校が何もするつもりがない事が解って、自ら動くことにした。
 三日間山狩りに参加したが、手がかりは真帆が当時履いていた靴の片割れと、スカートの一部と思われる物が見つかっただけだ。

「父さん!ナユ!どういうこと?」

 家に連絡して、進展がないことを告げることが辛くなっている。
 母親は、心労が溜まって倒れてしまった。父親も、いつ倒れても不思議じゃない状況だ。

 真帆を発見できないまま父親と那由太は家に帰った。
 靴とスカートの一部を持ってだ。

「きっとヤツラだ!」
「ヤツラ?」
「真帆をいじめていたヤツラに決まっている!」

 那由太は、ナイフを持ち出して、家を飛び出そうとしていた。

「ナユ!」
「ユズ姉!邪魔するな。真帆を取り返す!ヤツラを脅せば何か解るはずだ!」
「那由太!少し落ち着きなさい。それは、私の役目。いい、あんたは、父さんと母さんをしっかり見ていなさい!」

 柚月は、那由太を諌めてから、家を出た。
 那由太が、柚月の生きている姿を見たのはこれが最後だった。

 柚月は、高層マンションが立ち並んでいる一角がある場所の近くにある交差点で車に跳ねられた。
 ひき逃げだった。

 翌日、父親と母親が部屋で刺されて死んでいるのが見つかった。

 第一発見者は、那由太だった。那由太が、柚月の遺体を引き取るために家を空けた時に、空き巣が入ったと警察は考えた。
 短時間に、真帆以外の家族の全員を亡くした。真帆も、今何処に居るかわからない状況だ。

 那由太の心はこわれてしまった。

 警察も何もしていなかったわけではない。しかし、なぜか数ヶ月経って那由太の心が壊れてしまって、子供の居なかった母親の姉夫婦に引き取られてから、祖父を突き落とした釣り人は結局見つからないまま捜査継続は不可能と判断された。祖母をひき逃げした車の特定ができているのに証拠が不十分で捜査打ち切りとなった。真帆は結局いじめを苦に行方不明という曖昧な幕引きとなり、柚月のひき逃げはいくつもの不可解な状況だったのにもかかわらず捜査もされないで放置された。父親と母親を刺した犯人はその後捕まったが、覚醒剤の常習者が薬代を買うためのお金が欲しくて空き巣に入って住民を刺し殺したと説明された。

 柚月は、高層マンションに向かう途中で轢き殺されたとなっているが、なぜか首に殴られた跡があったり、顔にも手で殴られた跡があったり、後頭部に打撲痕がある状態だ。そして、死後に車に轢かれたという最初の報告書がいつの間にか書き換わっている。証拠となる車の破片なども現場には一切に見つかっていない。ブレーキ痕さえもなかった。そして、一番不思議なことは、柚月の服装には一切の乱れがない状態で道路に寝た状態で見つかったのだ。血痕すら見つかっていない。この状態で、ひき逃げと断定した警察が非難されることがなかったのも不思議なことだ。

 両親の場合は、犯人は捕まっている。
 捕まっているが不思議なことがある。金がほしいのなら、リビングに置いてあった財布には手が付けられていない。何かの為にテーブルの上に置いてあった20万の現金にも手を付けていない。そして、夫婦の寝室に一直線に向かっている。4人分の土足の足跡が確認されている。須賀谷家が、土足で生活していなければつかない場所に足跡が残されていた。