【第三章 魔王と魔王】第二話 【神聖国】
新参だと思っていた魔王を2年も討伐ができない状況が続いている。奴が、帝国から1-2万の獣を得ているのは解っている。他にも、城塞街とか言っていたか、あそこで家畜を大量に囲っている。
それだけではない。連合国との境に、”ダンジョン”を作成して、餌に群がる家畜を得ている。
不思議なのは、魔王ルブランはどこからポイントを持ってくるのだ?
家畜の数では、余や連合国の魔王の方が多い。
支配領域は、信者からの報告では、連合国よりは狭いようだが、余の支配領域とは同等のようだ。2年前に産まれた魔王に並ばれたと思うと業腹だが、余と魔王ルブランでは方針が違う。余の支配領域は、連合国と王国と皇国に接している。頭を皇国に押さえられたのが痛かった。これから、中央部に伸ばそうと思っていた矢先に、魔王ルブランに間隙を突かれた形になる。
あの魔王は、姿を表して、魔王であることも隠していない。武力に自身があるのか?
分析に優れた手下を派遣しても、城塞街までは問題がなかったが、そこで連絡が途絶えた。すでに、10体だ。
魔王ルブランの力は、”何”に由来している?
力の源が解らなければ対処が難しい。
ギミックハウスとかいうダンジョンは、罠が張り巡らされている(らしい)。知恵者か?しかし、連合国を打ち破るには、軍を用いた。帝国との戦いは、よくわからない間に終焉していたが、余が調べさせた情報では、大人数同士の戦いだったようだ。帝国がかなりの損害を受けたとの情報が入ってきている。
場当たり的な対処で勝てるほど、帝国は弱くない。
余は、宗教国家を作る事で、不可侵な存在になった。連合国の魔王は、自分を討伐するためのギルドを結成して、ギルドを裏から支配することで、安全に支配できる基盤を作った。
他にも、皇国や王国も余や連合国の魔王の真似をして居る魔王が存在している。
魔王ルブランは、名前も姿も晒している。
余が知っている魔王で、余以外で姿を晒している魔王は居ない。余も、姿は晒しているが、余はスキルで守られている。致死攻撃を受けても、一度なら生き残れる。1日1回の発動が約束されている。必要なポイントが高かったが、命には変えられない。それに、このスキルは余だけのオリジナルだ。
報告書を読む限りだと、魔王ルブランがどうやっているのか解らない。
それに、奴は余の国との境にも、”ギミックハウス”を作った。攻略を急がしているが、1年経過しても攻略に成功していない。同じ物を作ろうにも、解らない事が多すぎる。殆どの罠が実装できない。
それだけではない。魔王ルブランは、帝国やギルドの裏切り者たちの呼び出しには、応じている。しかし、余や連合国からの呼びかけを無視している。そして、人族以外との平等に接している。獣に、人と同じ権利を与えている。信じられない。獣は獣だ。人が導く必要がある。亜人も同じだ。
「猊下」
誰だ?
「誰だ!余は、忙しい」
「王国との間にありましたダンジョンが攻略されました」
「なに!誰だ!どの部隊だ!」
余の前で四つん這いになったり、足を広げたり、無様な恰好をしている女どもを、隣室に向かわせる。
どうせ続きをやるから、全裸のままでいいだろう。
伝令だとは思うが、話を聞く必要があるだろう。
王国との間に存在していたダンジョンは、余よりは新しいと記憶しているが、深層まで大きくなっていた。余が確認している段階で、50階層まで存在していた、古参の魔王だ。
なんにせよチャンスだ。
ダンジョンが攻略されたのなら、魔王が生まれ変わるはずだ。弱体化している。王国よりも早く、次の魔王を討伐すれば、アドバンテージが取れる。うまく、死滅まで持っていければ、魔王が支配していた領域を組み込める。
「入れ」
女どもが、隣室に入ったのを確認して部屋に入る指示を出す。
入ってきたのは、伝令でも、聖騎士でも、枢機卿でもない。神聖国の大臣だ。
「ん?」
「聖王猊下。お時間を頂きありがとうございます」
「よい。それで?」
なんの大臣だったか忘れたが、高位の聖職者だったはずだ。
「はい。まずは、この書状をご確認ください」
大臣が差し出した書状は、神聖国宛てになっている。
余に宛てた物ではないのだな。
封蝋は、知らない物だ。
「なに!」
手に持った書簡を破り捨てたくなったが、なんとか踏みとどまった。
「猊下」
「これは?」
「はい。今朝、新生ギルドから届いた物です。神聖国宛てになっておりましたので、外交大臣である私が中を改めました。内容を確認し、猊下のご判断を扇ぐ必要があると考え、お持ちいたしました」
「解った。下がってよい」
「はっ」
大臣が深々と頭を下げて、部屋から出ていく、置かれた書類を確認するが、文面には変わりがない。当たり前だ。一般的な書簡だ。ただ、使っている羊皮紙が異様に薄い。高級紙として出回り始めた物を使っているのか?
もう一度、内容を確認する。
余の読み間違いではない。
ダンジョンが攻略された。
そして、魔王ルブランの支配に入った?
意味が解らない。余が、神聖国を作ってから、すでに400年。いや、500年か?まぁどちらでも同じだ。この間、魔王が魔王を支配した例はない。いや、殺さない変わりに、家畜の様に扱ってみた。しかし、手間が増えただけで、メリットがなかった。
「誰か!」
影に調べさせる必要がある。
「御前に」
書簡を渡して、詳細に調べるように指示を出す。
影が消えてから、隣の部屋に戻っていた女たちを呼び戻して、続きを楽しむ。
魔王ルブランの情報は大量に手に入ったが、決定的な情報の入手はできていない。
「聖王猊下」
指示を出した影が戻ってきたのは、余の前から姿を消してから1か月後だ。
女たちを隣室に移動させてから、影を呼び出す。
「戻ったか」
影は、余の前で跪く。
余が生み出した優秀な影だ。大臣たちとは違って、ポイントで生み出された者だ。
「はっ」
裏切る心配もない余に絶対の忠誠があり、余の命令に逆らわない。
「それで?」
「解りませんでした」
解らない?
今まで、他の連合国の魔王の情報まで入手してきた者が解らない?
「何?」
「聖王猊下から頂いたスキルを使って、忍び込む事に成功しました」
分体を作り出すスキルがあり、潜入に必要なスキルを与えてある。
戦闘力も余の配下の中では、トップクラスだ。
「ほぉ」
さすがに、影ならば潜入には成功するか・・・。しかし、それで、解らないのは?
「しかし、そこでスキルで作り出した分身は潰されてしまいました。何度か、潜り込む所までは成功したのですが、そこで意識が途絶えてしまいました」
分体のスキルが見破られる。それは無い。余にも見破る事ができないのだ。新参の魔王に見破れるはずがない。
それとも、何か別の理由なのか?
「それはよい。それで、支配下というのは?」
「それは・・・」
「どうした?」
「魔王ルブランの姿が確認されております」
確定だ。
影が魔王ルブランの姿を確認しているのなら、間違いはない。
王国と聖王国との間のダンジョンは、魔王ルブランの支配下だ。
「そうか・・・」
魔王は、自分の支配領域から出る事ができない。
この不文律は、余が聖王になる前からある不文律で、今まで一度も破られていない。
そうなると、本当に魔王ルブランの支配領域になったということか?それとも、何か違うスキルなのか?魔王自身にスキルを覚えさせることはできるが、分身も魔王と同じ制限がある。
方法は、考えても解らない。しかし、問題は、余の支配領域が魔王ルブランの支配領域に挟まれてしまったことになる。
王国とは没交渉なので、今まで通りで困らない。
しかし、魔王ルブランに出来て、余にできないことがある。その事実だけで、魔王ルブランを殺したくなってしまう。
王国や連合国は動くのか?
皇国は?
帝国は、動かない可能性が高い。帝国は、魔王ルブランと密約を結んでいるだろう。ギルドは?裏切り者のギルドは?
布告を出すか?
魔王ルブラン。愚かだな。力に溺れたか?中央のダンジョンだけで満足していればよかったのに、方法は解らないが他のダンジョンを支配下に置くことができる。これが与える影響は大きいだろう。他のダンジョンは、魔王ルブランを敵視するだろう。
立地から考えれば、余が有利だ。
他の魔王が、魔王ルブランを攻撃し始めて、魔王ルブランが弱った所で、中央ダンジョンに乗り込めばいい。
それまで・・・。
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