【第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国】第三十七話 ヤスの勘違い

 

 ヤスは、レイクサーペントを、安全を考慮して配置範囲のギリギリにあたる100メートル先に召喚した。いきなり襲われる可能性は無いと思ったが、魔物の大きさが解らなかった為の処置だ。
 ヤスの目の前に体長10メートルを超えそうな巨大な白蛇が姿を現した。赤い目を持つ白い蛇だ。

『マスター』

 白蛇は、ヤスに頭を垂れるような姿勢になっている。

「ん?お前か?」

 目の前の白蛇にヤスは話しかける。

『マスター。名前を頂けないでしょうか?』

「名前?」

『はい。マスターの眷属にしていただきたいのです』

 白蛇はヤスに懇願するようにお願いを告げる。眷属になれば、魔物としての格が上がると認識しているからだ。マルスもヤスのためになるので、黙って見過ごす。

「わかった。お前の名前は、”ジーク”」

 ヤスは、セバスのときの二の舞を避けた。白蛇の赤い目が、とあるスペースオペラに出てきて、早々に金髪の青年を庇って死んでしまう、赤髪の青年を思い出した。そのままの名前よりは、金髪の青年の姉が赤髪の青年を呼んでいた、呼び名にした。

『吾は、ジーク。マスター。ありがとうございます』

「ジーク。身体の大きさを自由に調整は出来るのか?」

『可能です』

 ジークは、ヤスの前まで来てから、体長を1メートルまで小さくなった。

「ジーク。お前には、湖を管理してもらいたい」

『はっ』

「あと、両脇に村がある。住民を守ってくれ、湖に、今から魔物を吐き出すポッドを配置する。増えすぎる前に数の調整を頼む」

『かしこまりました。マスター。眷属を呼んで、管理を手伝わせてもよろしいですか?』

 湖は広い。ヤスが適当に作ったので、形は円状になっているが深さは思った以上に深い。ジークだけで管理するのは難しいだろう。ジークもセバスと同じで眷属を呼び出せるので、管理に使うと宣言したのだ。

「問題ない。この湖の長は、ジークだ。マルスと相談しながらうまく管理を頼む」

『個体名ジーク。マルスです』

『わかった。吾はジーク。マルス様。よろしくお願いいたします』

 ジークは、マルスから状況を聞いて、湖の管理を行い始める。
 ヤスは、ジークとマルスからの進言を聞きながら、魔物を吐き出すポッドを配置していく。生態系の維持を目的と考えたが、今更考えるのも難しいので、ヤスは適当に配置して、数の調整はジークと眷属に全面的に任せた。

 湖の整備が終わったヤスは、川を遡上しながらポッドを配置していった。

『マルス。今更なことを聞いていいか?』

『はい。マスター』

『魔物のポッドを配置するよな?水の中だと言っても、ポッドの位置が解るよな?そうなると、待ち構えていて捕食とか出来てしまわないか?』

『マスター。ポッドはマスターや眷属にしか視認出来ません。魔物が出現するポイントはランダムになります』

『それなら、まぁ大丈夫か・・・。気にしなくてもいいのだな』

『はい』

 ヤスはマルスからの返答を受けて、川には等間隔にポッドを配置した。

 モンキーを運転しながら、ヤスは疑問に思った内容をマルスに問いかける。

『マルス。関所の森にも、エントを配置したよな?』

『はい。個体名セバス・セバスチャンの眷属を配置しております。擬態をしていますので、見分けは難しいと考えます』

『いや、見かけないのはいいけど、草木を食べる魔物や動物が居るけど、眷属が傷ついたりダメージを受けたりしないのか?』

『大丈夫です。エントは魔法が使えます。草木の生育を調整できます。魔物や動物が増えてきても対応は可能です』

 マルスは大丈夫と宣言したが、エルダーエントの眷属であるエントたちの多くは上位種に進化している。迷宮区で魔物と戦って進化条件を満たしたものから、街道の防衛にあたっている。同じ様に、森の中の維持を行っている眷属も上位種なのだ。進化前の眷属は、迷宮区で進化を行う条件を満たすために戦っているのだ。
 ツバキたちドリュアスは、戦闘能力を削って日常生活のサポートに重点を置いた進化を行っている。人化できるようになるまでは、エントと同じ様に迷宮区で戦闘を行うが、人化が終了後は各地でサポートを行うようになる。

 ドリュアスの進化は、戦闘能力を重視していないと言っているが、それでも進化前の魔物には負けない。迷宮区でも10階層までなら単独でも踏破できる。だが、ヤスは、ドリュアスたちが戦闘を苦手としていると思っていたので、メイドや事務の作業に特化した作業を行うように指示を出している。人化したドリュアスたちを各地に配分した。村の中枢は信頼できる人にお願いしているがサポートする人員としてドリュアスを送り出しているのだ。

『わかった。それなら、関所の森や神殿の森や魔の森にもポッドを配置したほうがいいよな?』

『食料を供給する目的でしたら、配置は有効な方法です』

『わかった。配置に時間を使おう。でも、マルス。それほど沢山の魔物を吐き出すポッドを設置して、ポイントは大丈夫なのか?魔力を注げばいいのか?』

 ヤスは、また覚え違いをしていた。
 魔物を吐き出すポッドは、配置時にポイントを利用するが、それ以降は周りの魔素を集めて魔物を排出する。魔力を注入すればそれだけ早く魔物を吐き出すが必須ではない。ポイントも同じだ。そのために、ある程度の間隔でポッドを配置すればポイントや魔力は必要ないのだ

『そうか、わかった。マルス。カイルとイチカ程度でも1対1なら倒せる魔物を教えてくれ、食肉中心だ。それらを、配置する。帝国側は、それよりも2段階ほど強い魔物で食肉には向かない魔物も含める』

『了。川を挟んで、切り分けるのですか?』

『そうだな。その方法でいいだろう。出来るか?』

『可能です』

『頼む。マルス。エミリアに地図を転送して、ポッドを配置する場所にマーキングを頼む。関所の森と神殿の森と魔の森だ』

『了』

 指示を出したヤスは、川を遡上して、上流までやってきた。
 最上流と言っても、水が湧き出る崖があるだけの場所になっている。大量の隙間から水が湧き出して、川になっているのだ。

 ヤスは、そこに池を増設した。
 ジークから川の水量をもう少し多くして欲しいと要望が上がったのだ。帝国側からの川を渡ってしまう可能性を考慮したのだ。そして帝国側に配置する予定の魔物が川を飛び越えてしまう可能性があるので、川幅を持たせて魔物以外も渡らないように配慮するのだ。
 そのために、池を配置して、崖から湧き水だけではなく、下からの水が湧き出すようにしたのだ。

 そして、エミリアのカタログを見ていて、気になった魔物を、最上流の池の主にするために召喚した。

 ヤスが召喚したのは、タートルドレイク。ポイントも、ジークと同等だったために大丈夫だろうと判断した。ワニの顔を持つ亀だ。ヤスは召喚したときには、”カミツキガメ”を思い出した。あとは、昔の映画にあった”ガ○ラ”だ。

 同じ様に、名前を求められ、ヤスはタートルドレイクにミュラーと名付けた。体長も小さくして、池の管理を任せた。名前を求められたときに、”○メラ”と名付けしようと思ったが踏みとどまった。そして、ジークと同じ小説に出てくる”鉄壁”の異名を持つ人物を思い出した。亀の甲羅が鉄壁の防御力を持つを思ったからだ。
 ミュラーは変わったスキルを持っていて、水生植物の育成が出来るので、魔物の餌になるような水草や苔の育成を行うように頼んだ。眷属の召喚も許可した。

 ジークは湖を中心に管理を行う。ミュラーは池と川の管理を行う。マルスを交えた3会談で決めたようだ。

 池の整備と配置が終わったヤスは、王国側のポッドを配置するためにモンキーを走らせていた。
 木々を縫うように走る間隔が楽しくなっていた。

 ポッドの配置場所は、マルスが指示を出している。
 数として75個。多いのか少ないのか判断は出来ないが、狩りで生計を立てる者が居ても大丈夫だと思える。魔物が増えすぎる懸念から、ヤスは眷属に鳴っている魔物たちを

 ヤスは、5日程度かけて魔物を吐き出すポッドを配置した。

 ヤスの仕掛けたいやがらせの種が芽吹いたのは、ヤスがポッドの配置を終えて工房でモンキーの整備と改良を始めようとしているときだった。